多くの環境ストレスの中で温度変化は最も身近なストレスであり,特に高温による熱ストレスは地球温暖化の影響により,今後生物が対応せざるを得ないストレスになる可能性がある。一般に生物は熱ストレスに対して生理学的,形態的に様々な変化を起こして,細胞の恒常性を保ちつつ温度変化に適応する。この点では,単細胞生物である酵母も同様である。本稿では,出芽酵母を中心に,細胞が熱ストレスにどのように応答し,また細胞内でどのような変化が起きているのかを解説していただいた。
紅麹は,沖縄県で製造される豆腐ように代表されるように,古くから食品製造に利用されてきた。一方,広く発酵食品として利用するためには解決すべき課題も残されていた。著者は,紅麹を焼酎製造へ応用するため,米麹造りに工夫を凝らすことでα-アミラーゼ活性レベルを向上させるとともに,発酵中に酵素剤を併用することでアルコール発酵力や蒸留歩合が実用可能なレベルにまで向上可能であることを示した。さらに,紅麹の持つ潜在的な食品機能性についても明らかにした。著者の一連の研究成果を中心に,紅麹を対象にした応用研究について紹介していただいた。
本年もコロナ禍の影響からか,報告数は増えていない。国内の研究報告数は継続して減少傾向にあるが,国外の研究報告数も減少傾向にあるものの分析法,魚醤油および外国醤油についての報告が多く見られた。
全国酒米統一分析法に基づいた2002年から2019年の酒米0次(早期)分析結果から蒸米酵素消化性(Brix値)について,産地及び出穂後気温による影響を明らかにした。
(1)五百万石のBrix値は産地により変動した。
(2)北海道産米(吟風,彗星,きたしずく)のBrix値は,出穂後15日目までの平均気温や最高気温と正の相関を示し,青森県以南の酒造好適米品種とは明らかに異なった。
(3)五百万石や山田錦を含む青森県以南のほとんどの酒造好適米品種のBrix値は,出穂後16日目以降等の出穂後中期から後期の最高気温と強い負の相関を示し,出穂後1ヶ月間の平均気温を利用した相関よりも明確な相関関係がみられた。
また,北海道産を除く全ての酒造好適米17品種のBrix値は,米品種に応じ,出穂後11日目から30日目の最高気温と負の相関を示し,出穂後1ヶ月間の平均気温を利用した相関よりも明確な相関関係がみられた。
(4)一部の一般米品種では,酒造好適米と比べ,Brix値と出穂後気温との明白な関連性は認められなかった。
以上から,特に酒造好適米に関しては,Brix値と各品種に最適化した出穂後気温と出穂期間を利用すれば,高精度にBrix値を予測できることが明らかとなった。
3-D-G法を用いたピルビン酸簡易測定キット(新洋技研工業株式会社製)を用いて,清酒醪中のピルビン酸と2,4-DNPHの反応性について検討した。その結果,ピルビン酸における最大吸収波長は440 nmであり,反応時間を1時間から15分に短縮することができた。この改変法は,清酒中に含まれるエタノールや有機酸の影響を受けずにピルビン酸の簡易分析が可能であり,測定精度も良好であった。清酒醪中のピルビン酸を測定した結果,デタミナーPAを用いた酵素法と相関性のある結果が得られ,醪末期のピルビン酸濃度を目視で確認できることがわかった。これらの結果から,本キットを用いた改変3-D-G法による分析は,目視によるピルビン酸濃度を指標とした清酒醪の上槽可否の判定ツールとしての活用が期待できる。