さまざまナノ粒子サスペンションの粒子分散状態を浸透圧測定によって評価した。ジルコニアサスペンションではpHを変化させることで異なる粒子分散状態のサスペンションを調製し,浸透圧および粒子径分布を測定した。アルミナ,シリカサスペンションではイオン濃度を変化させることで異なる粒子分散状態のサスペンションを調製し,浸透圧および遠心分離後の粒子濃度を測定した。イオン濃度の増加にともなって電気二重層が圧縮され粒子が凝集したため,サスペンションの浸透圧は減少した。浸透圧と遠心分離後の粒子濃度の間には良い相関があり,浸透圧測定法はとくに高粒子濃度のナノ粒子サスペンションにおける粒子分散状態の評価に有効であると考えられる。
液体の粘度が撹拌行動に及ぼす影響を明らかにするために,20人の被験者が1.47~1.03×103 mPa・sの液体を棒で混合して液中に存在するジルコニアビーズを分散したところ,粘度の上昇とともに「広がりやすさ」の官能評価のスコアが低下しただけでなく,分散に必要な撹拌時間も長くなった。さらに,液体の粘度によって四つの撹拌パターンがあらわれた。すなわち,1.47 mPa・sの液体を撹拌するときは,80%の被験者が大きく円を描くCircle patternだったのに対し,1.03×103 mPa・sの液体では,線を引くような直線状の動きで撹拌するStraight patternや小さい円を描くSmall circle patternが観察された。これは,高粘度液体中では撹拌動作によって発生したエネルギーが散逸し,ビーズがシャーレの一部にしか広がらなくなったため,被験者がより効率の良い撹拌運動に切り替えたためと考えられる。このようなパターンの変化は,ヒトは液体を撹拌する際に,液体の粘性をセンシングし,それに基づいて運動を調節していることを示している。
われわれは,溶剤塗料に使用するシンナーを液化炭酸ガスに替えることでVOCを約50%削減できる塗装システムを開発している。このシステムでは,塗料と液化炭酸ガスを高圧下で混合後,塗装ガンから噴出する際に炭酸ガスが液体から気体へ状態変化する。この体積膨張エネルギーによって塗料は細かい粒子となり綺麗な塗膜を形成できる。本論文では,この塗装システムを用いて種々の吹付条件における塗着効率を測定した。その結果,エアースプレー塗装やエアレススプレー塗装と比較して塗着効率が上昇することがわかった。とくに,スプレー距離50 mm,液化炭酸ガス添加量16%以上とすることで,塗着効率が95%以上となった。また,塗着効率上昇の原因を解明するため高速度カメラでの解析を行った。その結果,塗装ガンから噴霧された塗料の被塗装物からの跳ね返りが少なくなることで,塗着効率が上昇していることがわかった。
塗料とインクは,種々の高分子や添加剤,溶剤を含有する。溶解性パラメーター(SP)は,上記成分相互の混和性を制御するのに有用である。
塗装や印刷などにおいては,基材への良好な濡れや密着が必要である。顔料のような固体粒子材料を液状ビヒクルに導入するのにも,良好な濡れが重要である。
このような現象を考察し,制御するためには,構成要素材料の表面性質に関する知識は不可欠である。とくに,表面張力は重要である。
本稿では,SPと表面張力について簡潔に説明した後,溶解や混合,濡れ,密着が,SPや表面張力によって制御されるいくつかの例を示す。
多くの工業分野で重要である液体中の微粒子分散系を扱ううえでは,その分散・凝集を適切に評価し,制御することが必要である。分散系の粒子の分散・凝集は粒子間に働く相互作用力(表面間力)によってほぼ支配されているため,粒子表面の性質や構造,あるいは溶媒の種類,条件などによる表面間力を正確に見積もることが,分散・凝集の適切な評価には重要である。本稿では,この表面間力の直接測定方法およびその研究動向と,そこから得られた知見について述べる。とくに,溶媒・溶質分子の表面吸着や構造の形成などといった,ナノスコピックな界面の構造・性質が表面間力を本質的にいかに変化させるかを俯瞰する。
環境調和性と機能性を併せもつ界面活性剤として,バイオサーファクタント(BS)が注目されている。最近ではBSに関する国際標準化の動きも活発化しており,2014年には,ISO TC91(界面活性剤)において,新たなワーキンググループ(WG3バイオサーファクタント)が立ち上がった。BSは通常の界面活性剤よりも,低濃度から優れた界面活性や自己集合特性を示すばかりか,さまざまな生理活性を有する。BSには,糖型,ペプチド型,脂肪酸型など様々な種類のものが知られているが,本稿では,これらの基礎と応用について,とくに糖型(マンノシルエリスリトールリピッド)およびペプチド型(サーファクチン)の二種類について紹介する。
EUでは,有害な化学物質から人の健康および環境を保護すると同時に,化学物質のEU市場内での自由な移動を促進し,EUの化学産業の国際競争力と技術革新力を強化することを目的に,2007年にREACH規則が施行された。
REACH規則は,登録,評価,認可および制限の四つの手続きにより構成されており,単一物質そのものあるいは混合物中の物質を製造輸入するEU域内の事業者が,一定の条件を満たす既存物質,新規物質のすべてを対象に,登録,認可候補物質の情報提供や届出等を要求されている。
2018年5月末の既存物質のREACH登録期限まで1年を切った今,改めてREACH規則の概要をおさらいして紹介する。