近年,環境対応(脱炭素化,エネルギー問題)など地球規模で世の中が目まぐるしく変化しています。これらは経済のみならずわれわれの生活様式にまで多大な影響を与えています。同様に色材や界面制御に関する研究においても,この大きな社会変化への適応が求められています。そこで本誌では,小特集企画として「色材や界面制御に関する今後の動向」と題し,当分野において最先端で活躍される方々にインタビューを行い,今後の研究動向や社会動向などに関するお考えを不定期の連載形式で紹介しています。
今回はその第4回目として,色材の研究に関して幅広い経験・知識をお持ちである広島大学の大山陽介教授にインタビューを行いました。大山先生は有機化学などがご専門で,現在は有機色素の合成および物性評価,そして多岐に渡る応用検討など,新たな研究分野開拓を目指して色素の新機能を発掘することに日々,挑戦されております。
ヘマトキシリン・エオジン(Hematoxylin and Eosin,H & E)染色は,病理診断および組織学的研究において標準的かつ不可欠な染色法であり,細胞核や細胞質の構造を明瞭に可視化できる。ヘマトキシリンはマメ科の植物であるアカミノキ由来の天然色素で,16世紀に中米で発見され,19世紀には顕微鏡観察用の染色材料として利用された。1860年代以降,組織染色への応用が進み,現在では臨床診断にも広く応用されている。さらに布地や革製品の染色にも応用され,日本では「京黒染め」などに活用されてきた。本稿ではヘマトキシリンの歴史的背景と染色法の発展を概説する。
構造に起因する光吸収を特徴とする新規黒色顔料LUSHADE® BLACKを開発した。LUSHADE® BLACKは,従来の顔料では実現が困難であった低光沢かつ高漆黒な塗膜を作製することが可能である。可視域の光に対して強い光吸収特性を示す一方で,近赤外域の光に関しては選択的に反射する特性を有している。これらの特性を活かして,カメラレンズ,センサーの迷光防止材料,LiDARセンサー材料への応用が期待される。
重合技術の進歩にともない,従来は合成が困難であったポリマーを簡便に作製することが可能になっている。化粧料におけるポリマーの役割は増粘剤,皮膜剤,分散剤,感触向上剤など多岐にわたり,さらに高機能化のためにその構造をより緻密に制御することが求められている。われわれは簡便かつ汎用性の高い手法により両親媒性を有するブロックコポリマーの合成を試みるとともに,その無機表面への吸着挙動を水晶振動子マイクロバランス(QCM-D)を用いて理解し,さらに無機粒子表面処理剤としての機能を検証した。その結果,ブロックコポリマーはランダムコポリマーよりも高密度で表面に吸着し,さまざまな油分への分散性が優れるとともに,粒子同士の凝集抑制により製剤粘度を低く保つことが明らかとなった。
乾燥工程は有機顔料製造における最終工程の一つとして製品の品質とコストに影響する重要なプロセスである。また,熱と水(溶剤)が同時に移動する複雑なプロセスであり,乾燥時間の短縮,省エネルギーも要求されることから,製品ごとに装置やプロセスを最適化する必要がある。
本稿では,まず簡単に乾燥を検討するうえで考慮すべき事項に触れ,その後,実際に有機顔料の製造で使われている乾燥機についてそれぞれの特徴を述べる。