Dehydroepiandrosterone-sulfate (DHA-S) は頚管熟化作用を有することから, 妊娠末期の頚管未熟婦人に対してDHA-Sの経静脈, 経腟投与が臨床応用されている.今回, 妊娠38-41週の初産婦で, 陣痛発来時にBishop scoreが4点以下の頚管未熟例に対しDHA-S (マイリス
®) 50mgを2回カテーテルを用いて経頚管的に卵膜外に投与し, 分娩経過中の母体血中および分娩時羊水のDHA-S, estrone-S (E1-S) , estradiol (E
2) およびprostaglandin (PG; bicyclo PGE
2, DHK-PGF
2α) 濃度の変動と卵膜phospholipase-A
2 (PL-A
2) 活性, 更に分娩所要時間に及ぼすDHA-Sの影響について検討した.1) 分娩所要時間はDHA-S投与群 (13.4±2.4時間, n=25, mean±S.D.) と対照群 (20.5±3.7時間, n=25, mean±S.D.) に比し有意 (p<0.01) の短縮がみられた.2) 血中および羊水中のステロイド, PG濃度の推移; DHA-S投与群の分娩経過中の血中DHA-S, E1-S, E
2濃度はいずれも子宮口全開大時, 分娩時に有意 (p<0.01) な上昇を示した.羊水DHA-S濃度も有意に高値を示した.一方, PG濃度はDHA-S投与3時間後にDHK-PGF
2αの一過性の有意な上昇を示した以外に, 両群に差は認めなかった.3) 卵膜PL-A
2活性; 絨毛膜, 脱落膜の本酵素活性は両群に差を認めなかったが, 羊膜においてDHA-S投与群は有意な高値を示した.以上, 経静脈, 経腟投与で用いられる投与量より少量のDHA-Sの卵膜外投与により, 分娩所要時間が短縮することが示された.DHA-Sは羊膜PL-A
2活性の亢進による遊離アラキドン酸の上昇を介したPG産生を増加させる可能性を示唆させるが, 血中PG値の分娩経過中の変動に差を認めなかったことより, DHA-S卵膜外投与における分娩促進効果は主に局所におけるPG作用と頚管熟化促進による可能性が示された.
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