心臓刺激伝導系の病変は従来Lev法により, 連続切片で検索していたが, 扇状に分布する左脚では困難であった.本研究では立体構築を行い, 両脚ブロックにおける心臓刺激伝導系病変を検索した。対象は心電図などの検査で慢性両脚ブロックを確認された剖検例27例 (男20例, 女7例) , 年齢64~88歳である.心疾患関連の臨床診断は心筋梗塞6例, 高血圧性心疾患9例, 拡張型心筋症4例, 抗腫瘍剤による心筋障害, 肺性心, 大動脈瘤, 糖尿病各1例, 不明4例である.剖検心をホルマリン固定後Lev法で切り出し, パラフィン包埋後7μm厚で連続切片を作製し, Elastica van Gieson染色を行った.420μmごとに画像をコンピュータに入力し, 房室伝導系の立体像を作成した.左脚以外は残存心筋量を4段進に色分けしたが, 左脚は, 伝導系細胞が薄く細長く分布しているため, 残存部のみの立体像とした.左脚の伝導系障害は起枝部に限局したものから散在性脱落や末稍側の広範な脱失をきたすものまで広いバリエーションがあり, His束内に病変を認める症例もみられたが, 21例で立体像と心電図所見が一致した.立体構築像を限局型, 巣状型, 広範型の3群に分類すると, 限局型9例, 巣状型12例, 広範型6例であった.限局型の病理診断はLev病3例, 心筋梗塞1例, 慢性心筋炎及び心内膜炎5例, 巣状型では, Lev病2例, 心筋梗塞4例, 慢性心筋炎4例, Len陲gre病2例, 広範型では, 慢性心筋炎及び心膜心筋炎3例, Len陲gre病3例であった.3群の立体像を, 障害部位に関連して亜型に分類すると, 巣状型で房室伝導系全体におよぶ巣状散在性の病変は, 慢性心膜心筋炎に特徴的であった.広範型でも3例は慢性心膜心筋炎であり, 伝導系の炎症病変の拡大が示唆された.限局型の慢性心膜心筋炎症例は, 炎症の初期または伝導系への波及が軽微であったと思われる.慢性心筋炎では, 刺激伝導系の病変は不均一で障害部位もさまざまであり, 疾患の進行とともに限局した病変が巣状に拡大していくと考えられる.虚血性心疾患では, 伝導系細胞が虚血に対して抵抗性を示すため, 巣状型になりやすいが, 局所的に大きな病巣が加わっている.Lev病では起枝部に限局した障害, Lenさgre病では散在性の広範な脱失が確認された.
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