昭和53年から昭和58年までの5年間に昭和大学藤が丘病院で経験した大腸癌症例106例 (結腸癌, 直腸癌) について, 臨床統計並びに腫瘍マーカーであるCEA, AFP, TPA, IAP, CA19-9について検討を行った.平均年齢59.9歳で男性平均62.5歳, 女性57.3歳でやや女性に低年齢の傾向がみられた.しかし, 男女差はみられなかった.占居部位ではS状結腸が最も多く, 次いでRbが多くS状結腸以下で全体の76.3%を占めていた.リンパ節転移をみると結腸癌, 直腸癌ともにn
0が多く, S因子とn因子を比べてみると, S
0ではn
1まででn
2症例はみられなかった.S
1症例ではn
2まででn
3症例はみられなかった.このことはS
0ではR
2の手術で絶対治癒切除が可能であることを示した.癌の壁深達度をみると結腸癌, 直腸癌ともにs, a
2が最も多く, si, aiは結腸で16%, 直腸では6%にみられた.肛転移は全体の14.2%15例に見られ結腸癌, 直腸癌との問には有意の差は見られなかった.腹膜播腫は10例9.4%にみられた.Stage分類別にみると結腸癌ではstage IIが19例35.8%と最も多く, 直腸癌でも同様にstage IIが15例28.3%と高かった.Dukes分類では結腸癌ではDukes Bが21例50%と多く, 直腸ではDukes Cが23例48.9%と多かった.術後の5年生存率を見てみると結腸, 直腸はそれぞれ63%, 55%で, やや結腸症例が高かったが有意差はなかった.Dukes分類別にみるとDukes A, B, Cは結腸では100%, 71%, 58%で有意の差がみられ, 直腸では80%, 64%, 60%であり, 有意差がみられた.次に術前の血中CEA, AFP, TPA, IAP, CA19-9値について検討を行ったが, CEA値が癌の進行度と一番良く平行関係にあったのでここではCEA値のみについて検討した.n factorとCEAには有意な関係は見られず結腸癌, 直腸癌との問にCEAの陽性率には有意差がみられなかった.壁深達度とCEA値の関係をみると, 癌浸潤がss, a
1以上になるとCEA値の上昇がみられた.しかしsi, aiであってもs, a
2との間にはCEA値の有意差は見られなかった.肝転移群のCEA値は非肝転移群に比べ, 明らかに上昇がみられ, 術前に肝転移の可能性が推測できた.以上から術前のCEA値は癌のsecreeningとしては不適当であるが, 治癒切除, 非治癒切除あるいは非切除の予測がある程度可能であり, 癌の進行程度や予後の予測を行うには有意義な検査方法であると思われた.
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