昭和医学会雑誌
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72 巻, 3 号
特集:臨床試験における被験者の安全確保 —真のリスクコミュニケーションとは—
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特集:臨床試験における被験者の安全確保 —真のリスクコミュニケーションとは—
最終講義
図説
原著
  • 中里 武彦, 深貝 隆志, 小川 祐, 菅原 基子, 麻生 太行, 小川 良雄
    2012 年 72 巻 3 号 p. 326-335
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/14
    ジャーナル フリー
    前立腺癌と血清テストステロン濃度には関連があることが知られている.その一つが前立腺癌細胞に対する直接的な影響であり,その悪性度,進行度,PSA濃度との関連性が問題となっている.また,もう一つの関連としてBMI,骨密度など個体の身体的背景因子への作用がある.今回これらの関係を明らかにする目的で血清総テストステロン値(T),さらにより生物学的な活性が高いと言われるフリーテストステロン値(free T)を測定し前立腺癌の臨床的,身体的背景因子との関係性を検討した.未治療前立腺癌患者62名(平均75.7±6.7歳)を対象とし,T,free T濃度と前立腺癌のGleason score(GS),臨床病期,PSA濃度を比較.さらに身体的因子としてBody Mass Index(BMI),骨吸収マーカーである血清I型コラーゲンN末端架橋ペプチド(NTX)と骨形成マーカーである血清骨型アルカリフォスファターゼ(BAP),骨密度(BMD)との関連性の検討を行った.この検討の結果,有意な相関としてPSA値が高値であるほどTが低値である傾向が見られた.またBMIが高い患者の方がT,free T濃度が低い傾向がみられた.一方T,free T濃度とGS,臨床病期,BMD,NTX,BAPとの間に有意な関係は見られなかった.これらの結果より低T値環境で成長した癌はPSA濃度が高く,進行速度が速いなど悪性所見が強い可能性が考えられた.さらに低T値の患者はBMIが高く,心血管障害を誘発する可能性があるホルモン療法において有効性,副作用の面で不利になる可能性が示唆され,今後さらなる検討の必要があると思われた.またT値とfree T値の解析結果に乖離がみられることがあり,今後の検討ではそれぞれの意義が明確になるまではT値と同様にfree T値も測定する必要があると思われた.
  • 佐藤 雅秀, 清水 祐紀, 林 稔, 横山 才也, 吉本 信也
    2012 年 72 巻 3 号 p. 336-341
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/14
    ジャーナル フリー
    ボツリヌストキシンA型(以下,BTX-A)は神経接合部においてアセチルコリンの放出を抑制し,筋の収縮力を弱め,痙攣を抑制する.こうした働きを利用し本邦では,眼瞼痙攣,片側顔面痙攣,痙性斜頚などの治療や表情じわ治療などの美容治療の応用がされている.また,BTX-Aの投与による周囲組織の血流増加作用が指摘されており,末梢血管障害の治療の可能性を示唆している.今回われわれは,ラットの大腿動脈にBTX-Aの投与を行い,レーザードップラー血流計(PERIMED社,PeriFluxSystem5000)を用いて血行動態の変化について計測を行った.ラットの大腿動脈の中心部に10-0針付きナイロン糸で1針かけて結紮し,部分的に血管を狭窄させ,血流を減少させた血管狭窄モデルラットを作成した.BTX-A薬剤としてXeomin(Merz Pharaceuticals, Greensborough, North Carolina)を使用した.試薬として生理食塩水0.02mlにXeominをそれぞれ0.5U,1U,2U,4U,8U溶かした溶液を作成し,血管狭窄モデルラットの結紮部の血管周膜内にそれぞれの試薬を投与した.また同部位に生理食塩水0.02mlを投与したものをコントロールとした.結紮部より約10mm末梢の大腿動脈の血流を結紮前,結紮後,投与3日目にレーザードップラー血流計を使用し計測した.1U群,2U群,4U群,8U群において投与3日目で著しく血流の増加を認めた.0.5U群,コントロール群においては血流の明らかな変化を認めなかった.ラットにおいて血管周膜内に1U以上のBTX-Aの投与が有意に血流を改善させる効果があるということが示唆された.BTX-Aを血流改善を目的とした薬剤として使用するにあたり,その効果として作用時間や拡散の程度などの更なる研究による解明が必要であると考える.
  • 東 里美
    2012 年 72 巻 3 号 p. 342-348
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/14
    ジャーナル フリー
    全身麻酔下では,術後に低酸素血症が発生するが,上腹部手術ではその低下は数日にわたって継続する.このガス交換障害の成因には機能的残気量(FRC)の減少が関与すると言われている.近年,患者への手術侵襲の軽減を目的に開腹手術よりも腹腔鏡下での手術が薦められている.しかし,腹腔鏡下に上腹部手術を行うと気腹操作により横隔膜が頭側に押し上げられ,FRCが減少することが危惧される.従って,腹腔鏡下上腹部手術時のFRCの推移を,20~55歳での成人群(11症例,39.8±9.0歳)と70歳以上の老人群(9症例,70.9±3.4歳)との2群で測定し,同手術時におけるFRCの推移を検討した.麻酔の導入と維持は完全静脈麻酔で行い,麻酔導入後に気管挿管し,GE Healthcare社製Engström Carestationを用いて人工呼吸を行った(換気モードは量規定換気,換気条件は,1回換気量8~10mL/kg,換気回数10回/分,IE比1:2,PEEP 0cmH20,FIO2 0.5).麻酔導入後で,循環動態が安定した後にFRCを測定し,さらに手術終了後に操作が何もない状況下で再度FRCを測定した.両群において挿管直後のFRCは2400ml前後で近似していたが,いずれも抜管直前には減少し,挿管直後値に対して推計学的有意差を認めた(P < 0.05).この術中のFRCの減少率は,成人群では14.1±7.8%であるのに対し,老人群では23.6±9.7%で減少率には両群間に有意差が認められた(P < 0.05).全症例における術中のFRCの減少率と患者背景および術前呼吸機能検査値などとの検定では,FRCの減少率と年齢,手術時間,麻酔時間およびFEV1.0%との間には正の一次式が,一方残り4つのパラメータとの間には負の一次式が得られた.しかし,推計学的有意差を認めたのは年齢だけ(P < 0.05)であった.手術侵襲が少ないと言われている腹腔鏡下上腹部手術において,術後の酸素化に影響するFRCは有意に減少した.また,その程度は老人群の方が強かった.
  • ―安楽死・尊厳死に関する医学生・理系学生の意識差をもとに―
    苅部 智恵子, 佐藤 啓造, 丸茂 瑠佳, 丸茂 明美, 藤城 雅也, 若林 紋, 入戸野 晋, 米山 裕子, 岡部 万喜, 黒瀬 直樹, ...
    2012 年 72 巻 3 号 p. 349-358
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/14
    ジャーナル フリー
    安楽死・尊厳死について国民の意識がどうなっているか調査した報告は少なく,特に大学生の意識を報告した論文はほとんど見当たらない.少数ある報告も限界的医療全般について調査したものであり,安楽死について賛成か否かを表面的に調査したに留まっている.本研究では同じ生物学を中心に学んでいるが将来,安楽死・尊厳死に関わる可能性のある医学生と特にその予定はない理系学生を対象として同じ内容のアンケート調査を行った.アンケートでは家族に対する安楽死・尊厳死,自分に対する安楽死・尊厳死,安楽死・尊厳死の賛成もしくは反対理由,安楽死と尊厳死の法制化,自分が医師であるとすれば,安楽死・尊厳死について,どう対応するかなど共著者間で十分,協議をしたうえで,新しい調査票を作成し,これを用いた.医学生は安楽死・尊厳死について,ひと通りの理解をしているはずの99名から無記名のアンケートを回収した(回収率:87.6%).理系学生は医学生のほぼ同年輩の生物学系の博士前期課程学生に対し,第二著者が安楽死・尊厳死について,ひと通り説明した後,69名から無記名で回収した(回収率:71.9%).前記5つの課題について学部間,性別間の意識差について統計ソフトIBM SPSS Statistics 19を用いてクロス集計,カイ二乗検定を行い,p < 0.05を有意差ありとした.その結果,家族の安楽死については学部間で有意差があり,医学生は理系学生より依頼する学生の比率が低く,依頼しない学生の比率が高いことが示唆された.医学生,理系学生ともに家族の安楽死希望理由で「本人の意思を尊重したい」が過半数を越え,自己決定権重視の一端を示していた.尊厳死では両学部生とも希望しない学生より希望する学生が多く,特に理系学生で希望する比率が高かった.性別では自分の尊厳死を希望する比率で有意差があり,女性の方が多かった.家族の尊厳死でも希望する比率は女性の方が多かった.家族の尊厳死,自分の尊厳死を家族の安楽死,自分の安楽死と比較したところ,安楽死より尊厳死を希望する学生が両学部生とも多かった.家族の尊厳死希望理由で医学生,理系学生ともに「本人の意思を尊重したい」が60%以上を占めた.安楽死・尊厳死について法制化を望むか否かを調べると,学部間では有意差があり,医学生は大多数が安楽死・尊厳死の法制化を望んでいるのに,理系学生は両方とも法制化を望まない学生も26%を示した.性別間では女性で尊厳死だけ法制化を望む人が31%を占めた.自分が医師の立場になった場合,安楽死・尊厳死を実施するか否かを調べると,学部間で有意差があり,要件を満たせば積極的安楽死を実施するとしたのが理系学生で41%を示したのに対し,医学生では16%に留まった.性別間では積極的安楽死を実施するのは男性が10%上回ったのに対し,尊厳死を選択するのは女性が10%上回った.以上の結果から医学生は理系学生に比べ,安楽死・尊厳死の実施に慎重であり,両方とも法令のもとに実施を希望していることが明らかとなった.
  • ―従来の検査法との相関性―
    岡田 保
    2012 年 72 巻 3 号 p. 359-365
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/14
    ジャーナル フリー
    術前肺機能検査は手術予定患者の評価において有用だが,測定時には被検者による最大呼出努力が必要であり,最大呼出が行われないと,誤った評価を受ける可能性がある.一方,インパルスオシレーションシステム(IOS)は安静呼吸時に施行できるため術前肺機能検査に向いているが,従来の検査値との相関性は明らかでない.この点を明らかにするため,20歳より89歳までの術前患者620症例において,IOSにより得たR5,R20,R5-R20,X5,Z5などと従来の肺機能検査値(肺活量,1秒量,V25,クロージングボリューム)との相関性をピアソンの積率相関係数により解析し,得られたR2値により比較した.IOSの5パラメータとスパイロメトリーの4パラメータ,フローボリュウー曲線の5パラメータ,さらに単一呼吸N2洗い出し法の4パラメータの合計13パラメータとの間(65組み合わせ)で得た1次式において,45組と比較的多くの組み合わせで推計学的に有意な相関関係が認められた.この結果から推測すると,IOSと従来の肺機能検査との相関性は強いと思われるが,相関性を示唆するR2値は最高でも0.267であり,高いとは言い難い.しかも,R2値が0.2以上を示した組み合わせはわずかに3組だけであり,0.15≦R2 < 0.20が10組,さらに0.10≦R2 < 0.15が 10組であった.結局,有意差が見られた45組においてR2値が0.1に届かない組み合わせは22組と,ほぼ半数を占めていた.IOSの5パラメータで比べると,R2値が0.10以上であった組み合わせ数は,Z5で最高の7組認めたが,R20では一つもなく,残りのR5,R5-R20,X5では何れも5組あった.IOSの各パラメータと従来の検査法のパラメータとの間には相関性が見られるものの,IOSにより検査を代用する程の高い相関性はなかった.
  • 林 武史, 池田 賢一郎, 五味渕 寛, 嶋根 俊和, 三邉 武幸
    2012 年 72 巻 3 号 p. 366-370
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/14
    ジャーナル フリー
    当科で甲状腺乳頭癌の診断で一次治療を施行した48例について検討した.術前診断として超音波検査,CT,穿刺吸引細胞診などで頸部リンパ節転移,被膜外浸潤の有無を検査している.甲状腺癌において術式や頸部リンパ節転移については比較的検討されているが,それと被膜外浸潤との関連についての検討はあまりみられない.今回われわれは被膜外浸潤および頸部リンパ節転移症例の手術術式と術前の超音波診断について検討し,被膜外浸潤と頸部リンパ節転移との関連を考察した.超音波検査の被膜外浸潤と頸部リンパ節転移に対する敏感度は高くなく,今後の検討を要する.予後因子として頸部リンパ節転移が重要因子であることは既知であるが,本検討から被膜外浸潤も同様に重要であると考えられた.また,今回ハイリスクである被膜外浸潤例と非被膜外浸潤例との間の術式の違いに有意差はみられず,今後慎重に経過をみていかなくてはならない.
  • 大井 正也
    2012 年 72 巻 3 号 p. 371-378
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/14
    ジャーナル フリー
    心房細動は心臓術後に高頻度に発症する合併症で,心不全,腎障害,塞栓症などの2次的術後合併症を引き起こし,治療計画の変更,入院期間の延長やコストの増大等の原因となるばかりでなく,直接的に院内死亡率に影響を及ぼす.心臓手術後の心房細動の予防として,β遮断薬などの抗不整脈薬が投与されてきたが,最近HMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン剤)の心房細動抑制効果が注目されるようになった.今回われわれはアトルバスタチン(リピトール®)の術前投与による,人工心肺を使用しない冠動脈バイパス手術(Off-pump coronary artery bypass grafting surgery: OPCAB)後の心房細動の抑制効果を検討した.待期的OPCAB 27症例を対象として,術前高コレステロール血症を合併する20例に対しアトルバスタチン20mgを術前4日以上前より投与し(投与群),それ以外の7例(非投与群)との間で,術後心房細動発症の有無,死亡率,入院期間,術直前,術後のCRP値,心血管イベントについて比較検討した.アトルバスタチン投与による有害事象の発生は認められなかった.死亡率,入院期間,心血管イベントでは2群間に有意差は無かった.術後心房細動の発症率は投与群で有意に低かった(25.0% vs. 71.4%;p=0.03).CRP値では,投与群で術後3日目は低い傾向にあり(9.3±7.7 vs. 14.4±7.4mg/dl;p=0.07),術後5日目は有意に低値であった(3.2±2.0 vs. 7.9±4.3mg/dl;p=0.02).術後CRPの最高値については,両群間に差を認めなかった.術前アトルバスタチン投与はOPCAB術後の心房細動の発症を抑制した.その機序としては,術後5日目のCRPが有意差を持って低値を示したことからも,アトルバスタチンによる抗炎症作用が関連している可能性が考えられた.
症例報告
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