前立腺肥大症における排尿障害は, 静的機構である解剖学的閉塞機構, 前立腺自体の収縮による動的機構, および排尿筋の変化により生じるといわれている.前立腺肥大症における前立腺体積の増大は, 静的機構として排尿障害の一因と考えられるが排尿状態とは必ずしも相関しないという報告もみられる.一方, 肥大症前立腺の組織学的特徴は間質成分の増加であるが, 症例により間質の占める割合は様々であり, その違いが排尿状態に影響を及ぼしている可能性も考えられる.そこで今回我々は, morphometryにより得られた組織成分比率を前立腺体積に加味し, 尿流量測定により得られた各種パラメーターを用い排尿状態との関係について検討した.前立腺体積, 間質体積はいずれも排尿状態とは相関関係は認められなかった.前立腺体積が50cm
3未満の比較的小さい前立腺群では, その間質成分volume density (vol.%) の平均により2群に分けてみても排尿状態には差がなかったが, 前立腺体積が50cm
3以上の比較的大きい前立腺群ではその間質成分vol.%の平均により2群に分けたところ, 間質成分vol.%の多い方が最大尿流率, 平均加尿流率が有意に低値であった.すなわち, 体積の大きな前立腺では間質増生が著明なものの方が排尿障害が強いという結果が得られた.また, 前立腺平滑筋の収縮は主にα
1アドレナリン作用によりなされ, その受容体は主に間質に存在し, 間質の増生によりα
1アドレナリン受容体も増加して前立腺の収縮が強くなるとされている.以上のことから, 前立腺体積の大きいものほど間質成分の割合の差が間質体積に影響を与え, 静的機構のみならず動的機構にまで反映している可能性が示唆された.
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