近年, 外傷性肩関節前方不安定症に対して鏡視下Bankart修復術が行われているが, 修復すべき前下関節上腕靭帯一関節唇複合体 (Anterior inferior glenohumeral ligament labrum complex: 以下AIGHLLC) の術前評価は確立されていない.我々は, 初回脱臼 (初回群) , 反復性脱臼 (反復群) , 対照群にMR Arthrography (以下MRA) を行い, AIGHLLCの評価, および反復性脱臼における鏡視所見と比較検討した.MRAの方法は熊谷らの既報に従い, Gd-DTPA液0.2mlと生理食塩水19.8mlを関節内に注入後, 上肢回旋中間位にて, スピンエコー法のT1強調画像にて3~5mmのスライス厚で, 肩甲骨に平行な斜位冠状面と水平横断面の2方向を撮像した.尚, 使用したMRI装置は, ジーメンス製1.0Tおよび, 1.5T装置である.斜位冠状面では, 関節窩前縁を起始部とし, 前下方に向かい前方関節包と合流するband状の低信号を前下関節上腕靭帯 (Anterior inferior glenohumeral ligament: 以下AIGHL) とした.また, このbandの関節唇付着部での幅を計測した.水平横断面でも, 関節窩前縁を起始部とし, 下位スライスで前下方へと連続していくband状の低信号をAIGHLとした.MRAによるBankart損傷の分類として, 教室の広瀬の分類を用いた.鏡視分類として黒川の鏡視分類を用いた.斜位冠状面では, band状のAIGHLの描出が水平横断面より優れていた (p<0.01) .AIGHLのband幅では, 反復群が有意に薄かった (p<0.01) .Bankart損傷のType別分布では, 初回群, 反復群でType別分布に相違を認めた.脱臼回数とAIGHLのband幅には, 有意差はなかった.また, 反復性脱臼において, MRA分類と関節鏡分類は有意に相関していた (P<0.01) .反復性脱臼では, 脱臼回数とMRA分類および関節鏡分類との相関はなかった.これらの結果は, 脱臼回数の少ない時期に関節唇の損傷形態は決定づけられ, 脱臼回数の増加は関節唇以外の, 前方関節支持機構のいずれかの部位に不連続や質的破綻を進行させていくのではないかと推測される.ある程度, 初期の段階でAIGHLが伸張され, 不可逆的変化が生じるものと思われる.術前にAIGHLLC損傷の病態を予測するMRA所見等を十分検討すれば, 鏡視所見や, ある程度予後の可能性が示唆された.
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