麻酔導入に用いられる非脱分極性筋弛緩薬には比較的長時間作用型で頻脈, 血圧上昇など交感神経刺激様症状を示すパンクロニウムと短時間作用型で循環動態に及ぼす影響が少なく, むしろ徐脈傾向を示すベクロニウムがある.今回われわれは, 弁置換術症例にフェンタニールで麻酔導入をする際の筋弛緩薬の選択を明らかにするために筋弛緩薬をパンクロニウム, ベクロニウムに分け, 麻酔導入後の循環動態に及ぼす影響を比較検討した.弁置換術予定患者を対象に, フェンタニール70μg/kg, ジアゼパム0.2mg/kgで麻酔導入を行い, 気管内挿管に用いる筋弛緩薬の種類によりパンクロニウム0.2mg/kg (PCB群) , ベクロニウム0.2mg/kg (VCB群) に分けた.麻酔導入前を対照とし, 各群ともそれぞれの筋弛緩薬を用いて麻酔導入, 気管内挿管を行い, 挿管3分, 10分後の循環動態を各群間および対照に対する変化を検討した.循環動態の測定項目は動脈留置針およびSwan-Gantz
Rカテーテルより心拍数, 血圧 (収縮期, 平均, 拡張期) , 心拍出量を測定し, 計算式より心係数, 体血管抵抗, Rate pressure productsを求めた.対照値の循環動態は両群間には全ての測定項目で有意な変化は認められなかった.PCB群では, 対照値に比べ挿管後心拍数, 血圧には有意な変化は認められなかったが, VCB群では有意に低下した.心係数は両群とも挿管3分, 10分後有意に減少し, 体血管抵抗は両群とも挿管10分後有意に増加した.Rate pressure productsはPCB群で挿管10分後有意に低下し, VCB群も挿管3分, 10分後に有意に低下した.両群間では挿管3分, 10分後の心拍数はPCB群の方がVCB群に比べ有意に高かったが, 他の循環諸量は両群間に有意な差は認められなかった.以上の結果, パンクロニウムの方がベクロニウムより気管内挿管後の心拍数は安定しており, 危惧された心仕事量の増大も認められなかった事により, 弁置換術予定患者に, フェンタニール, ジアゼパムで麻酔導入を行う際の筋弛緩薬は, パンクロニウムを選択すべきであることが示唆された.
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