本研究は, 大腿義足においてnormal gait (以下NG) がabnormal gait (以下ANG) と比較して, エネルギー消費および疲労が最も少ない歩行ではないことを検証する目的で行った.尚, 検証は3つの研究を通して行った.研究1は, 模擬大腿義足のNG, lateral bending gait (以下LBG) , vaulting gait (以下VG) を室内で行い, NGが最も楽でエネルギー消費の少ない歩行ではないことを検証する目的で行った.対象は, 健常者6例 (全員男性, 年齢33.2±6.9歳) であり, 模擬大腿義足で室内歩行を200m行い (3km/h) , 呼気ガス分析装置で酸素消費量 (以下VO2) , 分時換気量 (以下VE) および心拍数 (以下HR) を計測し, 疲労度を確認した.結果は, LBGが最も楽でエネルギー消費の少ない傾向を示した.しかし, Dunnett法による検定 (危険率5%) では, NGと他の歩行間に有意な差はなかった.研究2は, 大腿義足歩行のNG, LBG, VG, abduction gait (以下ABDG) をトレッドミルで行い, 研究1と同じ内容を検証する目的で行った.対象は, 外傷による大腿切断者9例 (全員男性, 年齢53.4±11.2歳) であり, 前記4種類の歩行をトレッドミルで行い, 研究1と同じ内容を確認した.結果は, VO
2, VEおよびHRにおいて, NGよりLBGおよびABDGがエネルギー消費の少ない傾向を示した.しかし, Dunnett法による検定 (危険率5%) では, VO
2, VEおよびHRは, NGと他の歩行間に有意差がなかった.疲労度は, LBGとABDGがNGより少なかった.研究3は, アンケート調査をもとに, 大腿切断者にとって疲労が少ない歩行を確認する目的で行った.対象は, 歩行訓練を経験した大腿切断者85例 (男性67例, 女性18例, 年齢56.7±15.5歳) であり, 通常歩行を確認し, アンケート調査を行った.結果は, 疲労度の少ない歩行をANGと答えた者が, 約9割であった.この中には, 通常歩行ではNGだが, 疲労の少ない歩行ではANGと答えた者が約1割含まれていた.また, 70歳以上では, ANGを疲労の少ない歩行と全員が答えていた.中でも, LBGとABDGの複合歩行が半数であった.本研究により, 多くの大腿切断者にとって, NGはエネルギー消費および疲労が最も少ない歩行ではないことが証明されたため, 義足の歩行訓練は, NGとANGを状況に応じて選択できるよう, 数種類の歩行を同時に訓練することが望ましいと考える.又, 70歳以上ではNGに固執せず, 安定性と疲労の少ない歩行に重点をおくことも必要と考える.
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