膵管内乳頭腫瘍 (IPMT) は大量の粘液 (ムチン) を産生し, hyperplasia-adenomacarcinoma sequenceが示唆される腫瘍である.産生された粘液 (ムチン) は, 浸潤・転移・血管新生などの腫瘍の持つ悪性度や生物学的性格を左右していると考えられ, 一方で腫瘍の増殖・浸潤能等が変化するにつれ粘液の性状も変化していく可能性もある.そこでIPMT28症例を対象として選び, WHO分類に準じてI~IV群に, またコントロールとして通常型膵管癌 (浸潤癌) 10例をV群に分類し病理形態学的に検索した.増殖能を検索するためPCNA, Ki-67, さらに癌抑制遺伝子p53, 癌遺伝子bcl-2に対する一次抗体を用いた免疫染色をLSAB法に準じて行った.I~IV群およびV群のMitotic Index (MI) の平均とPCNA-LI (Labeling Index) は1群からIV群へと進むにつれ高値を示し, V群ではいずれもI~IV群と比較して高値を示した.Ki-67-LIについてはI群, II群では陽性細胞は極めてわずかであったが, ほぼ同様の傾向を示した.IPMTにおいて増殖能の指標であるMI, PCNAおよびKi-67-LIはその数値が増加すると共に悪性度も高くなる関係を示した.粘液産生能についてはAB (alcian blue) pH2.5-PAS二重染色や, 膜結合型のMUCIムチン, 分泌型のMUC2ムチンなどの特異抗体を用いた免疫組織化学的検索を行った.I群とII群の全ての症例は中性糖タンパク質が主体の粘液を大量に産生していた.また, MUC-2陽性症例が多く, MUC-1はすべての症例で陰性であった.III群では粘液産生は乏しく, 腫瘍細胞内に粘液産生をわずかに認める症例が75%を占めていた.これらのすべての症例はMUC-2に対して陰性, MUC-1に対して陽性を示した.IV群では, 全ての症例で豊富な粘液産生を認め, これらの主体は酸性ムコ多糖で, すべてがMUC-1に対して陽性を示した.以上よりIPMTは, 増殖能の低いすなわち悪性度の低いI・II群の段階では中性糖タンパクが主体の粘液を大量に産生するが, より増殖能が増加したIII群になると粘液産生能は低下してくる.さらに増殖能が高いIV群なると粘液産生能は再び増加し酸性ムコ多糖が主体となる.また, III・IV群でMuc-1陽性細胞が出現するが, この段階で腫瘍細胞は浸潤能を獲得し, 悪性度も高くなると考えられた.
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