心肥大は, 突然死, 心不全, 心筋梗塞, 狭心症などを高率に起こすと報告されている.しかし, 急性心筋梗塞の病態や予後に及ぼす心肥大の影響についての報告は少ない.そこで, 発症24時間以内に収容された初回急性心筋梗塞患者202例 (男性148例, 女性54例, 平均年齢66.3歳) を対象に, 第1病日に施行した心エコー図法から左室心筋重量係数 (LVMI) を算出し, 心筋重量の重いA群110例 (LVMI: M≧130, F≧120) と軽いB群92例 (: LVMI: M<130, F<120) に分け, 急性期, 慢性期の血行動態, 心エコー図所見, 病態, 予後について比較検討した.また, 心筋重量の重いA群において, 心筋重量が第1病日に比し第28病日で減少する改善群 (A1群32例) と不変または増加する非改善群 (A2群63例) に分け, 同様に比較検討した.平均追跡期間は4.7年であった.Riskfactorである高血圧, 糖尿病の既往がA群で有意に高率であったが, その他の臨床背景には有意差は認めなかった.左室壁菲薄化は両群ともに経時的に出現率が高くなり, A群で高率にかつ発症早期より認めた.予後の検討では, 急性期ではA群はB群に比し心不全, 慢性期では, 心不全, 狭心症の発症率が有意に高率であり, 死亡, 心不全, 心筋梗塞再発作, 狭心症を合わせた心事故発生率も急性期, 慢性期ともA群で有意に高率であった.冠危険因子である高血圧, 糖尿病, 喫煙, 高脂血症, 肥満, 心筋重量の急性期の心不全, 狭心症, 心事故におけるオッズ比は, 狭心症では有意差を認めなかったが, 心不全, 心事故では心筋重量が2.77, 2.07と有意差を認めた.慢性期におけるオッズ比は, 心不全, 狭心症では心筋重量が3.51, 3.30と有意差を認め, 心事故では高血圧1.88, 肥満0.50, 心筋重量4.29と有意差を認めた.一方, LVMI≧130の改善群, 非改善群の比較では, 高血圧の既往がA1群で有意に高率であったが, その他の臨床背景には有意差は認めなかった.心エコー図所見では, 左室壁菲薄化は経時的に出現率が高くなり, 特に非改善群のA2群で高率にかつ発症早期より認められた.予後の検討では, 急性期では心不全, 心事故がA2群で有意に高率で, 慢性期ではA1群で狭心症の発症率が有意に高率であった.以上より, 心肥大に急性心筋梗塞を合併した場合には, 急性期, 慢性期の予後が悪く, 心筋梗塞発症早期より梗塞範囲の縮小, リモデリングの抑制, さらに心筋重量の改善を目的とした積極的な治療を進めることが必要であると考えられた.
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