昭和医学会雑誌
Online ISSN : 2185-0976
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50 巻, 3 号
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  • ―撮影方向による変化について―
    永尾 光一
    1990 年 50 巻 3 号 p. 219-228
    発行日: 1990/06/28
    公開日: 2010/11/19
    ジャーナル フリー
    耳介長軸と鼻梁線のなす角度Zは, 小耳症の手術, 耳介及び上顎の発育の予測に応用される.白人はこの角度が平行であるといわれている.日本では, この角度の平均が, 男性で16度, 女性で14.6度, 全体で15.3度と神山により報告されている.この角度の年齢的変化については, 行徳により報告されている.しかし, これらの写真撮影法が特殊な装置を使うため煩雑である.今回, 写真撮影法を簡略化するため, 耳介長軸と鼻梁線のなす角度Zの頭の回転ωによる変化について研究した.この研究は円筒模型と人の2種類の方法により行った.以下の結果が明かになった.
    1) 円筒模型において, この模型のわずかな回転では, Z角はほとんど変化しなかった.
    2) 理論的に次の式が成り立った.
    Z=tan-1 (tanθ〓×cosω) -tan-1 (tanη〓×cosω)
    ω: 回転角度
    θ〓: ω=0の時の鼻梁線と垂線のなす角度
    η〓: ω=0の時の耳介長軸と垂線のなす角度
    3) 個々の人において, Z角の変化には, ばらつきがあるが, Z角の多くのデータをとり統計的に処理すれば有用であると考えられた.4) 多少の頭の回転があっても, Z角はあまり変化しない.よって, 目測で撮影した写真からでも, 有用なデータをとることができた.5) 目測による写真撮影時のZ角の誤差は, 写真に作図しZ角を計測する時の誤差より小さかった.以上より, 頭部規格撮影法を用いないでも, 日測による撮影法で十分に臨床的目的を達成することがわかった.
  • 元谷 智敬
    1990 年 50 巻 3 号 p. 229-242
    発行日: 1990/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    (目的および方法) 変形性膝関節症の発症過程における関節軟骨と軟骨下骨との関連性を究明するために, 自然発症変形性関節症モデルであるC57ブラックマウスを用いて, その膝関節の経時的な自然経過と力学的負荷の及ぼす影響について以下の2群を作製し検討した.I群は普通にケージ内で生後18ヵ月齢まで飼育した自然経過群.II群は生後12カ月および18ヵ月齢時に, tredmillを用いて走行負荷を1-5週間行う走行負荷群.この両マウス群の膝関節を一塊として摘出, 脱灰標本を作製し, 矢状面での関節軟骨, 軟骨下骨, 半月板の形態変化を観察した.また脛骨近位骨端部軟骨下骨梁に対しては, 半自動画像解析装置 (NIKON COSMOZONE) を用いて, 単位骨量, 平均骨梁幅, 相対類骨量など骨形態計測学的に定量解析を行った. (結果および考察) 自然経過群の観察より以下の結果を得た.1) 関節軟骨には経時的なSafranin-O染色性の低下を認めたが, 明らかなfibrillationは見られなかった.2) 軟骨下骨では6カ月齢以降, 対照群と比べて単位骨量, 平均骨梁幅ともに有意な低下を認め, subchondral atrophyの進行がみられた.3) 皮質骨幅, 相対類骨量の変動も考慮すると高代謝回転型の骨粗鬆化状態の存在が示唆された.次に走行負荷群の観察より以下の結果を得た.1) 12ヵ月齢マウスでは走行負荷を行っても, 自然経過群との著明な差は認めなかった.2) 18ヵ月齢マウスでは走行負荷2週以降に, 軟骨の剥離脱落の頻度が高くなり, ほぼ同じ頃に軟骨下骨梁の類骨量の増加と骨梁幅の肥厚が認められた.3) 走行負荷4週頃にはeburnationの状態となり, 辺縁骨棘形成も見られる.4) 関節変形の進行にともない半刀板形態変化も認められた.以上の結果より, このC57ブラックマウスの変形性関節症発症機序には, 高代謝回転型の骨粗鬆化の状態が重要な要素と考えられ, 関節軟骨変性の進行と同時的に軟骨下骨においても形態変化が存在しており, 関節軟骨を支持する軟骨下骨組織の力学的構築上の不安定の存在下に, 生理的もしくは過剰な力学的運動負荷などが加わることにより, 変形性関節症の進展が急速に起こることが推察された.
  • ―抗ミオグロビン抗体による免疫組織学的研究―
    大塚 敏彦, 田代 浩二, 橘 秀昭, 酒井 哲郎, 井上 紳
    1990 年 50 巻 3 号 p. 243-251
    発行日: 1990/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    CCUの普及に伴い心筋梗塞における不整脈死は激減したが, 心原性ショックおよび重症心不全などポンプ失調死は相対的に増加した.今回, われわれはポンプ失調, 特に心原性ショック死の成因に対し臨床病理学的に検討した.特に組織学的には発症後1時間で脱失が開始するとされるミオグロビンの動態を酵素抗体法を使用し, 心不全死, 心破裂および中隔穿孔例と比較検討した.対象は当院CCUにおいてMyocardial Infarction Research Unitの心原性ショックの診断基準をみたした剖検心26例および心不全死25例, 対照として心室自由壁破裂26例, 中隔穿孔14例を使用した.方法はホルマリン固定後の剖検心を計測後, 心尖部から1cmごとに水平割面を作製, 弁輪下3分の1での梗塞巣の広がりを検討した.梗塞巣の確認はH-E染色PTAH染色等に加え, 抗ミオグロビン抗体を使用し, ABC法により染色した.ミオグロビンの脱失および残存は, 完全あるいは不完全脱失および残存域として区分し, 心筋各部の虚血域を半定量的に解析した.各群間で年齢, 性別に有意差はないが, ショック群は入院時よりForrester分類H-III, IVが86.7%を占めるのに比し, 心不全群はH-I, IIが56%を占め, 以後心不全が進行し死亡する.心重量は中隔穿孔群が他群に比し有意に重かった.冠動脈硬化度は心不全群で3枝病変が最も多く, 破裂群では最も少ない.血栓発見率は破裂92.3%, 穿孔群85.7%で高率であるが, ショック群65.4%, 心不全群56%と低い.再発性梗塞はショック群57.7%, 心不全群60%, 破裂群7.7%, 穿孔群28.6%であった.抗ミオグロビン抗体による免疫組織学的検討では, ショック群は53.8%にH-E染色で虚血巣が不明瞭であった右室自由壁にミオグロビン脱失を認め, 心室中隔を主体とした両室におよぶ大型梗塞が多いのに比し, 心不全群は貫壁性および非貫壁性梗塞からなる左室全周性梗塞として認められ, 右室の虚血巣は12%のみに認めた.近年増加傾向にある心内膜下梗塞は心不全群に多いが, プルキンエ細胞を除きほぼ貫壁性のミオグロビンの脱失を認めた.以上より, ショック群では右室心筋のミオグロビン脱失が心不全群より高率であり, 右室機能不全も示唆されたが, 心不全群は貫壁性および非貫壁性からなる左室全周性梗塞として認められた.心原性ショックの成因として左室梗塞量のみでなく, 右室心筋の関与に関しても再評価が必要と思われた.
  • ―その福祉的援助のあり方について―
    延山 雅彦, 奥山 清一, 志村 豁, 遠山 哲夫
    1990 年 50 巻 3 号 p. 252-263
    発行日: 1990/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    烏山病院において1989年7月31日現在, 在院中の分裂病424例のうち経過年数10年以上, 最終在院年数3年以上, 60歳未満の定型群に該当する194例について, 実態を調査し, 長期在院化する要因を考察した.対象をA群 (心身の症状による退院困難群) , B群 (退院可能群) に2分し両群に共通する, 疾患に基づく個体的要因の指標として, 精神症状と社会生活能力を評価し, 社会適応状況による総合評価を加え考察した.B群の退院を阻む社会的要因の指標として家族の形態・受容力・態度, 患者の年金・手当等の受給状況, 在宅事情等の実態を調査し問題点を抽出した.更に両群の今後のリハの在り方と対策について考察した, 1.A群の精神症状, 社会生活能力の平均評価点は, いずれもB群より有意に高く, 精神的・社会的欠陥が高度であることを示しており, 社会適応度も有意に悪く, 要保護群を中核に分布している.この群は予後不良群によって構成されており, 個体的要因を主因とする長期在院群であるといえる.B群の精神症状, 社会生活能力の平均評価点はA群より有意に低く, 精神的・社会的欠陥は中程度であり, 社会適応度も有意に良く, 中間安定群を中核に分布している.この群は予後中間群によって構成されており, 個体的要因を副因とし社会的要因を主因とする長期在院群といえる.2.B群の長期在院の主因である社会的要因を分析した結果, (1) 家族の態度は比較的良好だが受容能力は, 親の他界, 高齢化, 欠損家族の増加, 同胞の核家族化等により低下し, 引き取る家族が激減していること, (2) 患者は年金・手当の受給により経済的に自立している例が多く, 家族が引き取らなくなる遠因になりうること, (3) 住宅事情は極めて悪く, 精神障害者であるがゆえに住居を借りることが困難なこと等, 解決の困難な課題が改めて浮き彫りにされた.3.両群とも就労, 自立を目的とするリハの適応例は減少しており, 今後A群は緩やかなリハによる欠陥の進行および老化の予防を図ることが重要となる.B群は生活技術指導の必要性が高く, 社会生活に必要な基礎的技術の習得と生活習慣の回復を目的とする援護寮, 福祉ホーム, 救護施設等での生活訓練を要する者が多い.更にその延長線上に位置する定住施設としての各種の住宅を提供することにより, 家庭を喪失しつつある精神障害者の精神科医療と社会福祉によるリハの体系が完成する.
  • 野村 健
    1990 年 50 巻 3 号 p. 264-274
    発行日: 1990/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    ヒト大胸筋の停止側一定部位断面について筋線維構成を検討し, その機能的特徴を明らかにした.研究対象は30歳以上の成人22名 (男性10, 女性12) の病理解剖屍で, 筋線維の染色はSudan Black B染色により, 白筋線維, 中間筋線維, 赤筋線維に分別し, 筋線維の数, 型比率, 太さ, 密度を算定し, 男女差, 部位差を検討するとともに他筋と比較した.結果: 1.筋腹横断面積は胸肋部, 鎖骨部, 腹部の順に大で, 胸肋部は男性が, 腹部は女性がそれぞれ他よりも大なる傾向が認められた.1mm2中の筋線維数は男性では腹部, 胸肋部, 鎖骨部の順に多く, 女性では鎖骨部のみが他より少ない傾向がみられ, 腹部は女性の方が男性よりも多かった.断面の筋線維総数は男女とも胸肋部, 鎖骨部, 腹部の順に多く, 鎖骨部と胸肋部は男性が, 腹部は女性がそれぞれ他よりも優る傾向が見られた.以上のおのおのについて年齢的な特定の傾向は認められなかった.2.3筋線維型の頻度は3部とも白筋線維, 中間筋線維, 赤筋線維の順に高く, 白筋線維は男性が, 赤筋線維は女性が, また, 白筋線維は胸肋部がそれぞれ他よりも優る傾向が見られた.3筋線維型の太さは男女, 3部とも白筋線維と中間筋線維は相等しくして赤筋線維よりも優る傾向が見られた.また, 男性では3筋線維型とも鎖骨部, 胸肋部, 腹部の順に大の傾向が見られたが, 女性では白筋線維と中間筋線維は鎖骨部が他の2部よりも優る傾向が見られ, 赤筋線維は鎖骨部, 胸肋部, 腹部の順に有意差を示していた.男女別には鎖骨部と腹部では白筋線維は女性の方が男性よりも優る傾向が見られた.3.密度については, 男女とも80%台で胸肋部においてのみ男性が女性よりも優る傾向が認められ, 筋線維型別には白筋線維, 中間筋線維, 赤筋線維の順に高く、白筋線維は全部において, 男性が女性よりも優り, 特に胸肋部では差が大であったが, 中間筋線維は腹部においてのみ女性が男性よりも優る傾向が見られた.また, 自筋線維は密度の高低に最も大きく影響していることが認められた.4.比較した筋の中では, 筋線維総数は大腰筋および上腕三頭筋以外の上腕筋よりも著しく多かった.3筋線維型の頻度の白筋線維優位は他の四肢筋と同様であり, 赤筋線維は他よりも優る傾向が認められ, 女性ではその傾向が著しかった.3筋線維の太さは男女とも大腰筋, 腸骨筋よりも大, 上腕の大部分の筋よりも男性では一般に劣り, 女性では赤筋線維で優っていた.
  • 桜木 章司, 井上 悟, 井口 喬, 安部 康之, 出井 恒規, 大地 武, 平良 雅人
    1990 年 50 巻 3 号 p. 275-284
    発行日: 1990/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    昭和大学付属烏山病院に通院中の精神分裂病患者のうち, 5年以上外来通院を維持している183例を対象とし, その病像と社会生活状況をあきらかにした.この第二編では, ことにその社会生活状況を分析し社会生活を維持している要因, ひいては分裂病治癒の可能性について検討した.第一編において輪郭のあきらかとなった症状消褪型では, 1) 結婚歴を有するものが多く, また現在も婚姻状態にあるものが多い.2) 就業者が多く, 稼働経過も良好.3) ある程度の社会的自立を果たし, 収入を他に依存することが少なく, 独立した居住形態を有している.4) 退院後も早期に良好な社会適応を示し, 完全社会復帰への中間段階ともいえるリハビリテーションを必要としないものも多くみられた, 等の点がわかった.こうした長期間恒常的に高い社会適応水準を示す一群は, 竹村の規定した分裂病における社会的治癒群と言ってもよく, またそのなかに自然治癒例を含んでいる可能性も強く示唆するものと考えられた.
  • ―画像解析による肝細胞内脂肪の定量的解析―
    飯田 善樹, 九島 巳樹, 塩川 章, 太田 秀一
    1990 年 50 巻 3 号 p. 285-292
    発行日: 1990/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    飲酒による脂肪肝は禁酒により改善すると考えられている.今回, アルコール性脂肪肝の禁酒後経時的肝生検材料を用いて全自動画像解析装置により, 脂肪滴の沈着面積, 大きさを肝小葉内の領域ごとに測定し, 分布様式や改善率を検討した.検索した症例はHBs抗原陰性の常習飲酒家で, 初回の肝生検にてアルコール性脂肪肝と診断され, その後禁酒持続期間に追跡肝生検を施行し得た10症例で, 28歳から78歳 (平均51.1歳) , 全例男性であった.5例に肥満, 2例に糖尿病を合併していた.初回生検時の肝実質に対する脂肪沈着面積は0.92%から18.33%まで平均6.96%であった.小葉内での脂肪沈着の分布様式は, 中心帯 (平均4.32%) に最も強く, 次いで中間帯 (2.18%) , 周辺帯 (0.46%) の順であった.脂肪滴の大きさでは小脂肪滴 (2μ2未満) は平均0.72%, 中脂肪滴 (2μ2以上400μ2未満) 4.61%, 大脂肪滴 (400μ2以上) 1.63%であった.10例中2例では脂肪沈着が増加したが, 8例は減少し, 禁酒後2から3カ月以内にほぼ消失した.初回の脂肪沈着面積と積算飲酒量には相関傾向がみられた.改善群では禁酒2, 3カ月後に平均して初回の8.73%に減少し, 肥満例と糖尿病例を除いた症例では4.17%に減少していたが, 肥満例では4.56%, 糖尿病合併例では22.01%であった.糖尿病合併症ではとくに小脂肪滴の改善率が悪い傾向にあった.光顕的目測による脂肪沈着面積の判定は画像解析装置の測定結果よりも多い傾向がみられた.
  • ―連続切片標本による組織学的研究―
    廣本 浄子, 井上 紳
    1990 年 50 巻 3 号 p. 293-298
    発行日: 1990/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    Sick sinus syndrome (以下SSS) の洞結節病変については諸説があり, 心房病変を重視すべきとの意見もある.Rubenstein分類が一般的に用いられているが, この3群に関し臨床病理学的検討は未だ十分なされていない.今回われわれは, SSSの剖検心を用いLev法による連続切片標本を作製し観察, 心電図によるRubenstein分類と比較検討した. (対象および方法) 症例は35例 (Rubenstein I型1例, II型6例, III型21例, 徐脈性心房細動7例) .男19例, 女16例.年齢は42-86歳II型の1例, III型の11例にAdams-Stokes発作があった.電気生理学的検査の施行されたものは10例, 体内式ペースメーカーの植え込み例は15例であった.ホルマリン固定後の心臓をLev法で切り出し, 刺激伝導系連続切片を作製し観察した. (結果) 平均心重量476g.大半に拡張性心肥大がみられ, さらに右心房の拡張が半数に認められた。刺激伝導系各部は洞結節の線維化12例, 炎症細胞浸潤9例, 脂肪浸潤4例.房室結節・His束は炎症細胞浸潤2例, 脂肪浸潤7例, 線維化3例.左脚・右脚の線維化8例.Rubenstein I型は1例であったが, 心房筋に多発性筋炎による変性所見が見られた.II型6例では心アミロイドーシス2例, 肺性心, 制癌剤による心筋障害で変性・線維化がみられた.それに対しIII型21例は, 15例に心膜心筋炎およびその治癒後の所見がみられ, 心外膜肥厚, 心外膜下および心房中隔のリンパ球浸潤, 限界稜・洞房接合部の線維化を認めた.徐脈性心房細動7例では4例に心外膜炎が認められた. (考察) 洞結節は心外膜直下に位置し, 刺激伝導系の中では, 最も心外膜炎の影響を受けやすいところである.Rubenstein II型では変性像が6例中3例にみられた.Rubenstein III型の組織所見の主体をなすのは慢性の心外膜炎であると考えられた.SSSでは洞結節およびその周囲の線維化が認められ, その成因として慢性の心膜心筋炎の存在が高率に示された.
  • 大村 勇二
    1990 年 50 巻 3 号 p. 299-314
    発行日: 1990/06/28
    公開日: 2010/11/19
    ジャーナル フリー
    唇顎口蓋裂児において, 手術の顔面骨への影響については数多くの報告がある.しかし, 頬部粘膜に対する手術侵襲が顔面骨成長に及ぼす影響についての報告は幼若ラットによる実験のみで, その経時的上顎歯槽の成長に関するものは少ない.そこで, 著者らは頬部粘膜弁を使い硬口蓋前方の披裂を閉鎖する口唇形成術を行い, その後に口蓋形成術を加えて経時的変化を検討した.すなわち, 口唇粘膜に手術による緊張が生じていると考えられる片側唇顎口蓋裂群 (22名) と口蓋形成術のみで口唇粘膜に手術による影響がない硬軟口蓋裂単独群 (10名) について上顎歯槽弓を比較観察した.方法は, 片側唇顎口蓋裂群では, 口唇形成術前 (3カ月時) , 口蓋形成術前 (1歳時) , 口蓋形成術後3年 (4歳時) について, 硬軟口蓋裂単独群では, 口蓋形成術前 (1歳時) , 口蓋形成術後3年 (4歳時) についてそれぞれ上顎歯槽模型を作製し, 各歯間距離, 歯槽の傾斜角, 歯槽高を計測, 健常群 (10名) と危険率5%のt検定比較を行った.上顎歯槽弓の経時的また二次元的評価のために三豊製作所製MX-203 MICROPAK 21によって片側唇顎口蓋裂群は同一症例16名の3カ月および1歳時, 同一症例10名の1歳時および4歳時, 硬軟口蓋裂単独群は, 同一症例10名の1歳時および4歳時についてそれぞれ歯槽輪郭模型を作製した.結論: 口唇形成術に頬部粘膜弁を併用し口蓋前方部を閉鎖する方法によって得られた結果は次のごとくである.1.1歳時では上顎歯槽弓のmolding actionを妨げるような働きは認められず, 歯槽弓自体の成長も順調であった.2.また1歳時では披裂部は全例end to endに近い状態でcollapseは認められなかった.3.上顎歯槽傾斜角, 上顎歯槽高については, 1歳時に著明な影響は認められなかった.一方, 片側唇顎口蓋裂群では口蓋形成術後4歳時に披裂側の内側後方へ偏位 (collapse) するものが30%に認められた.4.片側唇顎口蓋裂群と硬軟口蓋裂単独群では, 前方部歯槽幅径 (C-C') の狭小化, 上顎歯槽上部傾斜角 (β角) の鋭角化, 歯槽高の浅化が認められ口蓋形成術後の口蓋の瘢痕拘縮の内側への牽引が強く示唆された.これらのことより, 片側唇顎口蓋裂群4歳時の披裂側の内側後方への偏位 (collapse) については, 口蓋形成術後の瘢痕拘縮の影響が強く, 口唇形成術と同時に行った頬部粘膜弁による影響は小さいと推測された.
  • ―重量および内腺の測定値について―
    簡野 芳憲, 簡 亦淇, 斎藤 豊彦, 今村 一男, 安藤 治憲, 杉山 善彦
    1990 年 50 巻 3 号 p. 315-321
    発行日: 1990/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    高齢化がすすむにつれて, 排尿障害を訴え泌尿器科を受診する患者が年々増加傾向にあるが, そのなかには前立腺肥大症も多くみられる.泌尿器科以外の疾患で死亡した30歳から86歳までの剖検例90例について, 剖検時に前立腺を摘出し, 病理組織学的検索を行い, また前立腺の重量, 内腺の最大径の左右径, 前後径との相関関係を比較検討した.その結果, 組織学的に, 40歳代で肥大症が始まり, 50歳代では半数は肥大症を合併する傾向がみられ, 一方, 高齢になっても全く肥大症にならない症例もみられた.前立腺の全重量が20g以上で, 内腺の左右径, 前後径が2.0cm×1.5cmの場合, 肥大症である確率が高いことが示唆された.前立腺の左右径と前後径に相関関係がみられ, 特に肥大症群において強いこと, また重量と左右径および重量と前後径は, 正常前立腺群にはいずれも相関関係はないが, 肥大症群にはそれぞれ相関関係が存在した.
  • 野上 真, 篠塚 明, 広野 良定, 武中 泰樹
    1990 年 50 巻 3 号 p. 322-330
    発行日: 1990/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    われわれは67Gaシンチグラフィにおいて77件の肝不描出症例を経験し, そのうちの多くにUIBCの著明な低下を見出し, これが肝不描出の主要因であることを明らかにした.その後ラットを用いて鉄剤とビンクリスチン (VCR) の大量投与によりUIBCを著明に低下させることにより肝不描出状態を作り出すことに成功し, その説を裏付けた.しかし大量の鉄剤とVCRによる肝機能障害のための取り込み低下の可能性も否定できないので, 今回確認実験を行った.鉄剤とVCRの投与により肝不描出状態を作り, その翌日に再度67Gaを静注して2日後に撮影すると肝不描出状態は持続しており, UIBCは低下したままであった.そこで2回目の67Gaの投与前にアポトランスフェリン (ATF) やデフェロキサミン (DEF) の投与を行い, 肝や各臓器への取り込みやUIBCの変化を検討した.また肝不描出状態における膿瘍への取り込みの変化も検討した.2回目の67Gaの投与の前日にATFを投与すると肝への取り込みはほぼ正常まで回復し, UIBCもかなり回復していた.DEF投与では肝不描出状態は持続しており, UIBCも低下したままであった.膿瘍への取り込みは対照群よりもやや低下したが有意差はなく, 膿瘍/筋肉と膿瘍/血液のカウント比は著明に増加した.67Gaの組織への取り込み機序としては, トランスフェリン (TF) ・レセプターを介したendocytosisとdiffusionの2つの説がよく知られているが, 酸性ムコ多糖との結合による取り込み説など他の考え方もあり, まだ十分に解明されていない.肝への取り込みに関しては, 肝細胞内の貯蔵鉄量が重要であるという説もある.また抗癌剤によるTFや肝細胞内の67Ga結合物質の合成障害やTF・レセプターの障害により肝への取り込みが低下するという説もある.今回の実験で肝への取り込み低下がATFの投与により速やかに回復したことより, 少なくともin vivoではこれらの説は考えにくく, 肝への取り込みを決定する主要な因子はUIBCであることが明らかになった.膿瘍と肝などの軟部組織への67Gaの取り込みの経路は同じであるという説があるが, 今同の結果では肝不描出状態において膿瘍への有意の取り込み低下はみられなかった.これはVCRの影響による免疫力の低下のために炎症の活性が高まったためかもしれない.しかし膿瘍と肝では取り込み経路が異なる可能性も示唆される.
  • 赤塚 祝子
    1990 年 50 巻 3 号 p. 331-339
    発行日: 1990/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    急性白血病8例・非Hodgkinリンパ腫11例に, 寛解導入後の維持療法として, OK-432, 5KEを隔週投与し, 対照群と比較した.生存曲線では差が得られなかったが, 4年後の寛解維持例は, 急性白血病の投与群では50%であるのに対し, 対照群では16%, 非Hodgkinリンパ腫の投与群では54.5%であるのに対し, 対照群では33.7%の有意の差が得られた.特にANLLではこの傾向が強く, 4年後の寛解維持例は, 投与群で66.7%と良好であったのに対し, 対照群では20.4%にすぎなかった.免疫学的パラメーターとして, PPD・Su-Ps反応・リンパ球実数・IgGの推移を3~6カ月毎に調べたところ, 寛解を維持している10例では, 1年以内に反応や数値が増加した.しかし, 抗ATLA抗体陽性の白血病患者では, PPDの陰性化, リンパ球数の絶対的減少が続いている.
  • 中野 浩, 幡谷 潔, 佐々木 栄一, 島田 徹治, 辻本 志朗, 佐川 文明, 生田目 公夫
    1990 年 50 巻 3 号 p. 340-345
    発行日: 1990/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    虫垂杯細胞カルチノイドは虫垂カルチノイドの一亜群であるが, わが国では比較的まれな腫瘍である.本腫瘍はその病理組織学的所見上, また, 臨床上通常のカルチノイド腫瘍とは区別して考えるべき特徴を有している.組織学的には本腫瘍は銀反応陽性の粘液産生性細胞より構成されている.臨床的悪性度としては通常のカルチノイドと分化型腺癌との中間に位置すると考えられる.また, 手術としては右半結腸切除術の必要な症例も多いと考えられる.その予後に関しては, 腹膜再発をきたし予後不良の症例も数多く報告されている.今回われわれは虫垂杯細胞カルチノイドの症例を経験したので, 若干の文献的考察を加え報告する.
  • 中林 秀夫, 平泉 裕, 林 良彦, 藤巻 悦夫, 細山田 明義
    1990 年 50 巻 3 号 p. 346-350
    発行日: 1990/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    著明な脊髄障害を示したT11/T12椎間板レベルに発生した髄膜腫と, 第1~3胸椎の脊椎カリエスに対して脊椎・脊髄手術を行った.その際脊髄誘発電位を頻回に測定することにより, 術中の脊髄機能をモニタリングしながら脊髄機能の悪化を予防することが可能となった.
  • 門倉 光隆, 谷尾 昇, 森保 幸治, 野中 誠, 小林 聡, 松尾 義昭, 阿部 正, 井関 雅一, 高場 利博, 横川 敏男
    1990 年 50 巻 3 号 p. 351-354
    発行日: 1990/06/28
    公開日: 2010/09/09
    ジャーナル フリー
    気管・気管支内異物は誤嚥後短時間のうちに処置を受け, 発見までに長期間経過することはきわめて稀であると考えられる.今回, 誤嚥から少なくとも7年以上が経過し, 内視鏡的摘出が可能であった症例を経験した.症例は71歳, 男性.9年前から脳梗塞に対して某医において経過観察中であったが, 軽度咳嗽出現を主訴に内科受診した際の胸部レ線像にて気管内異物を指摘され, 当科へ紹介入院となった.内視鏡所見では異物は気管分岐部から右主気管支内へ向かって存在したが, 異物鉗子を用いて異物 (義歯) を摘出しえた.患者は7年前にすでに総義歯となっており, 義歯は少なくとも7年あるいはそれ以前に誤嚥したものであった.
  • 服部 真紀, 永田 善之, 鈴木 美, 滝 茂樹, 扇内 幹夫, 知野 公明, 亀山 秀人, 安井 昭, 西田 佳昭, 熊谷 一秀, 真田 ...
    1990 年 50 巻 3 号 p. 355-359
    発行日: 1990/06/28
    公開日: 2010/09/09
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