ヒト大胸筋の停止側一定部位断面について筋線維構成を検討し, その機能的特徴を明らかにした.研究対象は30歳以上の成人22名 (男性10, 女性12) の病理解剖屍で, 筋線維の染色はSudan Black B染色により, 白筋線維, 中間筋線維, 赤筋線維に分別し, 筋線維の数, 型比率, 太さ, 密度を算定し, 男女差, 部位差を検討するとともに他筋と比較した.結果: 1.筋腹横断面積は胸肋部, 鎖骨部, 腹部の順に大で, 胸肋部は男性が, 腹部は女性がそれぞれ他よりも大なる傾向が認められた.1mm
2中の筋線維数は男性では腹部, 胸肋部, 鎖骨部の順に多く, 女性では鎖骨部のみが他より少ない傾向がみられ, 腹部は女性の方が男性よりも多かった.断面の筋線維総数は男女とも胸肋部, 鎖骨部, 腹部の順に多く, 鎖骨部と胸肋部は男性が, 腹部は女性がそれぞれ他よりも優る傾向が見られた.以上のおのおのについて年齢的な特定の傾向は認められなかった.2.3筋線維型の頻度は3部とも白筋線維, 中間筋線維, 赤筋線維の順に高く, 白筋線維は男性が, 赤筋線維は女性が, また, 白筋線維は胸肋部がそれぞれ他よりも優る傾向が見られた.3筋線維型の太さは男女, 3部とも白筋線維と中間筋線維は相等しくして赤筋線維よりも優る傾向が見られた.また, 男性では3筋線維型とも鎖骨部, 胸肋部, 腹部の順に大の傾向が見られたが, 女性では白筋線維と中間筋線維は鎖骨部が他の2部よりも優る傾向が見られ, 赤筋線維は鎖骨部, 胸肋部, 腹部の順に有意差を示していた.男女別には鎖骨部と腹部では白筋線維は女性の方が男性よりも優る傾向が見られた.3.密度については, 男女とも80%台で胸肋部においてのみ男性が女性よりも優る傾向が認められ, 筋線維型別には白筋線維, 中間筋線維, 赤筋線維の順に高く、白筋線維は全部において, 男性が女性よりも優り, 特に胸肋部では差が大であったが, 中間筋線維は腹部においてのみ女性が男性よりも優る傾向が見られた.また, 自筋線維は密度の高低に最も大きく影響していることが認められた.4.比較した筋の中では, 筋線維総数は大腰筋および上腕三頭筋以外の上腕筋よりも著しく多かった.3筋線維型の頻度の白筋線維優位は他の四肢筋と同様であり, 赤筋線維は他よりも優る傾向が認められ, 女性ではその傾向が著しかった.3筋線維の太さは男女とも大腰筋, 腸骨筋よりも大, 上腕の大部分の筋よりも男性では一般に劣り, 女性では赤筋線維で優っていた.
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