関節軟骨マトリックス内のプロテオグリカン (以下PG) の含量及び分子の大きさ等は, 加齢や関節に対する負荷程度により大きく変化するとされている.またマトリックスを形成しているコラーゲンの高次構造もその機能に影響を及ぼすものと考えられる.しかし, PGの性状変化の詳細については未だ不明である.そこで, 末期変形性股関節症 (以下OA) 患者の大腿骨頭軟骨から抽出した遊離PGと会合体PGの含量, 分子量分布を大腿骨頸部内側骨折 (以下Fx) 患者と比較検討した.またコラーゲン抽出率についても検討した.さらにOAの中で, 軟骨変形の程度によるPGの性状変化についても検討した.
調査試料としてOAの骨頭27個とFxの骨頭22個を用いた.試料遊離PGと会合体PGは, 骨頭よりそれぞれ抽出した後, 塩化セシウムによる平衡密度勾配遠心法により精製した.コラーゲンは, 残渣骨頭軟骨より酸性条件下でペプシン消化を行うことにより抽出した.
またOAの中でも変形のより著明なものと比較的軽度なものに分けて同様の操作によりPGを抽出した.
OA群ではFx群に比較して, 遊離PGの分子量は共に約70万と変化はなかったが, ウロン酸含量が2.5倍, 蛋白含量が1.8倍増大していることから, 代謝回転が亢進して会合能を持たない遊離PGがより多く存在していると考えた.会合体PGの場合, ウロン酸含量は類似していたが, 蛋白含量はFx群の方が1.6倍多く, そして分子量はOA群の方が2~3倍大きかった.またOA群のコラーゲン抽出率はFx群の約22倍と顕著に大きかったことから, OA軟骨は酵素消化に対する抵抗性が著しく低いことが示された.つまりOAにおいては, その軟骨の高次構造が粗になっていて, その広がったマトリックス内に大きな分子量の会合体PGが入り込んでコラーゲンと絡み合い軟骨機能を維持しているものと推測できた.
OAの中でも変形の著明なものでは, 会合体PGの分子量は変形の軽度なものに比べて有意な変化を示さなかった, しかし, 会合体を形成していない遊離PGの含量及びその分子量には増加傾向が認められたことより, PGの代謝回転が亢進し, 遊離PGの分子量が大きくなり, その含量も増加して軟骨機能の維持に関与しているものと考えた.
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