南九州における皮膚悪性腫蕩の発生頻度は他の地域に比べ非常に高い割合で発生している.鹿児島県の基幹病院である今給黎総合病院形成外科においても皮膚悪性腫瘍の症例が増加しているため, 今回過去17年間の当院における皮膚悪性腫瘍を病理組織学的に分類し, 統計学的な検討とともに疫学的にも考察を加えた.症例数は763例でその内訳は, 基底細胞癌251例, 有棘細胞癌194例, 日光角化症116例, ボーエン病60例, 転移性皮膚癌37例, ケラトアカントーマ28例, 肉腫22例, 悪性黒色腫17例, 乳房バジェット病8例, 腺癌7例, 悪性リンパ腫5例, その他18例であった.それぞれの疾患について年齢, 性別, 発生部位, 地域性を調査し, 統計学的に検討を加えた.その結果基底細胞癌や有棘細胞癌は, これまでの2005年石原の統計の全国平均に比して頭頸部に多く, 女性に多い傾向が見られた.また平均年齢も高く高齢者に多い点が挙げられた.また全国の皮膚悪性腫瘍の総数では日光角化症が最も多い割合を占めているのに対し, 当院では基底細胞癌, 有棘細胞癌に次いで多かった.同じ前癌病変であるボーエン病は, 全国の総数では基底細胞癌と変わらないのに対し, 当院では60例と1/4程度であった.それらの理由として, 農家や漁業関係者の日光被曝量の増大, 離島も多く受診が困難な地域性があげられ, 長期間放置した結果, 悪性度の進行や腫瘍サイズの増大を招いたと考えられた.悪性黒色腫の当院での症例数は少なかったが, 鹿児島大学病院には形成外科がなく主に皮膚科で化学療法を含めた治療がなされていることが要因と考えている.当院における皮膚悪性腫瘍症例数は, 年々増加傾向にあるが, その理由として病理診断の確立により, 潜在的に存在した皮膚悪性腫瘍症例が統計として挙げられてきた点や, 地域への認知度上昇により早期発見が可能となり, 皮膚科, 形成外科での早期治療がなされてきていることが示唆された.今回の統計において, TMN分類, 予後の統計は行わなかったが, 更なる調査を行うことで, 鹿児島における皮膚悪性腫瘍の現状を正確に把握することが可能であり, 予後因子や治療の改善につながると考えられた.そのためにも今後更に皮膚科, 形成外科の地域への啓蒙の必要性を認めた.
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