症例は27歳, 男性. ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群のため1983年よりCAPD導入となった. 12年後の1995年にSEPと診断され, 血液透析に変更し, 栄養管理はTPNあるいは経腸栄養剤のみで行われた. 1997年11月末頃より, 動悸, 息切れを自覚. その後, 労作時の前胸部痛, 呼吸困難, 透析開始直後の急激な血圧低下を認めるようになった. 心臓超音波検査では左室駆出率は30%と著しく低下していた. 当初心不全の原因は不明であったが, 微量元素欠乏症の可能性も疑い, セレン血中濃度を測定したところ25μg/
l未満 (測定限度以下) であった. セレン欠乏症に伴う拡張型心筋症を疑い, 亜セレン製剤の経静脈的投与を開始した. 胸部症状はセレン投与開始後, 徐々に軽快し, 心臓超音波検査上も左室駆出率の改善を認めている.
SEPは, CAPDの最も重篤な合併症の一つである. TPNを中心とした内科的治療は, 現在一応の効果を収めつつある-方で, 長期にわたるTPNにおいては各種の微量元素の欠乏から, 種々の合併症を引き起こす可能性が危惧されている. 生体に必須な微量元素の一つであるセレンの欠乏は, 拡張型心筋症による心不全をきたすとされる. 現在市販されている経腸栄養製剤, 中心静脈栄養剤のセレンの含有量は極めて低く, 長期間にわたる経腸栄養法, TPNにおいてはセレン欠乏症が合併する可能性を常に念頭に置かなければならないと思われた.
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