日本透析医学会雑誌
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43 巻, 12 号
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総説
  • 大井 洋之
    2010 年 43 巻 12 号 p. 969-977
    発行日: 2010/12/28
    公開日: 2011/01/21
    ジャーナル フリー
    血液透析患者においては高齢化,糖尿病性腎症の増加などにより感染症の死亡率が高いことが問題となっている.血液透析患者は以前より免疫不全の状態にあるといわれ,感染症の多いことの理由として考えられているが病態に関しては多くは不明である.一方,補体レセプター1(CR1)は主に赤血球に存在し,補体レセプターと制御因子としての二つの機能がある.赤血球補体レセプター(E-CR1)の機能はImmune complex(IC)などに沈着した補体と結合し,肝,脾で処理するためにICを運搬する役目を担っている.血液透析患者は腎からのエリスロポエチン(EPO)の産生量の低下により腎性貧血となり,赤血球数が減少する.さらに,病態の影響によりE-CR1の発現が抑制されているなら,体内のE-CR1は極めて少なくなり,感染などに対し不利な状態になると考えられる.このような考えから検討した結果,次のようなことがわかっている.Recombinant EPO治療により補体制御因子(DAF,CD59)の発現増強を認めたが,E-CR1は発現増強を認めるものと認めないものが存在した.また,遺伝的な影響をみるためCR1のポリモルフィズムの検討で低発現のLL型のみならず本来高値を示すHH型においても低値を認め,血液中の変化などの後天的な影響が考えられた.特に非糖尿病群との比較で糖尿病においてはE-CR1の有意な低値を認めた.また,E-CR1低値の群は高値の群に比較し,感染症が多く,シャント血管炎,HCV感染を多く認め,5年の経過観察で生存率の有意な低下を認めた.血液透析患者のE-CR1は遺伝,病態,治療の影響をうける.腎性貧血による体内のE-CR1の減少は生体防御のうえで不利な状態を招き,血液透析患者の感染症および予後不良の危険因子と考えられる.
原著
  • 徳山 清之, 井関 邦敏
    2010 年 43 巻 12 号 p. 979-982
    発行日: 2010/12/28
    公開日: 2011/01/21
    ジャーナル フリー
    2009年8月,わが国初の透析患者の「新型インフルエンザ」による死亡例を沖縄県で経験した.感染者の増加および重症化が懸念されたため沖縄県全体の維持透析患者および透析施設スタッフを対象に「新型インフルエンザ」罹患状況調査を行った.調査期間は2009年8月4日~2010年2月18日(26週間)で最初の調査のみ2週間,その後は1週ごとに実施した.「新型インフルエンザ」の透析患者での罹患率はスタッフの約4割であった.透析患者に対し早期治療,予防投与を積極的に行った.「新型インフルエンザ」ワクチン接種は透析患者においても有効であると考えられたが,感染者の重症化の可能性は否定できなかった.より致死率の高い「新型インフルエンザ」流行に備え透析施設,地域,行政との連携のさらなる充実が必要である.
  • 市丸 直嗣, 児島 康行, 辻本 吉広, 奥見 雅由, 矢澤 浩治, 野々村 祝夫, 貝森 淳哉, 高原 史郎
    2010 年 43 巻 12 号 p. 983-987
    発行日: 2010/12/28
    公開日: 2011/01/21
    ジャーナル フリー
    目的:プルリフロキサシン(PUFX)の血液透析療法下における薬物動態を検討する.対象および方法:血液透析(HD)療法を受けている腎不全患者8名に対して264.2mgのPUFXを単回または24時間間隔で4日連日投与し,血中濃度を測定した.HDは投与2時間後から4時間施行し,血液流量は180~290mL/minとした.なお,連日投与時におけるHDは1日目と3日目に行った.結果:単回投与におけるHD施行時の血中半減期は15.4±4.5時間(平均値±標準偏差,n=3),薬物濃度曲線下面積は12.9±6.7μg・hr/mLであった.連日投与時におけるウリフロキサシン(UFX;PUFXの活性本体)の血中濃度はHD施行前およびHD施行後のいずれにおいても内服3日目の方が内服1日目よりも高い値を示したが,有意差は認められなかった(HD施行前:p=0.2180,HD施行後:p=0.1635).なお,投薬期間中に副作用は認められなかった.結論:HD療法下におけるPUFXの薬物動態の特性が明らかとなった結果,HD患者においては132.1mgのPUFXを1日1回投与し,HDをPUFX投与4時間から6時間後に施行開始することが適切であると示唆された.
短報
  • 小川 千恵, 岡田 一義, 飯島 真一, 水盛 邦彦, 大塚 恵子, 吉田 好徳, 丸山 範晃, 丸山 高史, 阿部 雅紀, 當間 茂樹
    2010 年 43 巻 12 号 p. 989-992
    発行日: 2010/12/28
    公開日: 2011/01/21
    ジャーナル フリー
    われわれは,Twardowskiらの方法と當間らの方法を組み合わせた簡易ボタンホール作製法を報告した.しかし,この方法では,同一スタッフが同一部位に同一方向で通常の穿刺針を数回反復穿刺しボタンホール(BH)を作製するため,穿刺孔の広がりおよびBHが完成するまでの穿刺スタッフ固定の問題があった.今回,これらの問題を改善するために,穿刺針1回穿刺によるBH作製法を考案し,安全性と有用性を検討した.週3回血液透析を継続している外来患者で,血管の可動が大きい症例と内シャント感染の既往症例を除外した9例の中から文書による同意が得られた8名(男性2名,女性6名,年齢64.3±8.5歳,原疾患:慢性糸球体腎炎5名,糖尿病性腎症2名,腎硬化症1名)を対象とした.なお,7名は穿刺痛軽減,1名は止血時間短縮を目的に同意した.初回穿刺は通常のカニューラ穿刺針を用いて行い,次回穿刺以降は,BH専用針を用いて挿入を行った.7症例(87.5%)が通常穿刺針による1回穿刺のみで,次回透析からBH専用針で挿入できたが,1症例が挿入不可能であった.BH作製可能であった症例において,現在までのところBH使用期間は約3か月であるが,感染やドロップアウトはなくBH挿入を継続中である.また,BH作製前穿刺痛とBH作製30日後挿入痛を比較すると,6例(85.7%)で低下し,疼痛をまったく自覚しなくなった症例も認めたが,VAS scoreによる比較では,46.7±22.5(10~70)から25±13.9(0~40)に減少したものの,有意差は認めなかった.止血時間短縮目的の1例では,20分かかっていた止血時間が10分へ短縮した.穿刺孔の広がり,コスト面,穿刺スタッフの固定などの指摘されているBH作製法の問題を改善できる通常針1回穿刺によるBH作製法は,多くの症例に安全に施行できる有用な方法であり,BH作製法の普及につながることが期待される.
症例報告
  • 鈴木 康紀, 酒井 謙, 大谷 隆俊, 服部 吉成, 田中 仁英, 大橋 靖, 河村 毅, 水入 苑生, 相川 厚
    2010 年 43 巻 12 号 p. 993-997
    発行日: 2010/12/28
    公開日: 2011/01/21
    ジャーナル フリー
    症例は34歳,男性.非IgAメサンギウム増殖性糸球体腎炎による末期腎不全のため,2006年3月(31歳)に当院で腹膜透析(PD)を導入した.既往歴として1990年(15歳)より貧血を指摘されていたが原因不明であった.透析導入後も高度の貧血が遷延し,頻回の赤血球輸血を必要としたため,精査目的で2006年8月に再入院した.骨髄所見に基づき骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)と診断,病型は不応性貧血(refractory anemia:RA),重症度分類は低リスク群であった.輸血,エポエチンβ 12,000IU/2週投与に加え,蛋白同化ステロイドの投与,さらに十分な透析量確保のためにPD/血液透析(HD)併用療法を開始したが,貧血の改善は得られなかった.しかし,赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis stimulating agents:ESA)をダルべポエチン(darbepoetin alfa:DA)に変更し180μg/週まで増量したところ,貧血の改善と輸血量の軽減が得られ,生活の質(quality of life:QOL)は向上した.DAを用いた十分量のESA投与がRAに対して有効であることを示す症例と思われ,今後,MDSの治療においてESAが広く使用可能になることが期待される.
  • 若杉 三奈子, 市川 紘将, 本間 照, 若木 邦彦, 本間 則行
    2010 年 43 巻 12 号 p. 999-1003
    発行日: 2010/12/28
    公開日: 2011/01/21
    ジャーナル フリー
    症例は83歳,女性.83歳から慢性腎不全のため,血液透析を導入.透析導入時の血液検査で,高ガンマグロブリン血症と抗核抗体320倍を認めたが,その他自己免疫疾患を示唆する所見は認めなかった.また,慢性腎不全の原疾患は不明であった.週3回の外来血液透析を継続中,平成20年6月末から水様性下痢(5~6行/日)が出現.整腸剤,塩酸ロペラミド,バンコマイシンなどの内服を行ったが,下痢は慢性再発性に出現を繰り返していた.下痢に伴う低アルブミン血症,浮腫を認めた.それまで服用していたランソプラゾールを塩酸ラニチジンに変更したが,下痢は出現を繰り返し,大腸内視鏡検査を行った.肉眼では異常所見を認めずほぼ正常の粘膜所見であり,横行結腸からの粘膜生検で粘膜表層部上皮直下にエオシン好性で,マッソントリクローム染色では25~35μm幅の沈着物を帯状に認め,粘膜固有層全層に小型リンパ球,形質細胞といった慢性炎症性細胞浸潤に加え,好酸球浸潤が目立ち,collagenous colitisと診断した.塩酸ラニチジンを中止後,下痢は消失し,低アルブミン血症も徐々に改善した.Collagenous colitisは1976年にLindstromによって報告され,慢性水様性下痢,肉眼的にほぼ正常な大腸所見,特徴的組織所見を有する臨床的症候群である.欧米では数百例の報告があり,慢性水様性下痢の原因として決して稀ではないと報告されている.本邦での報告例はまだ少ないが,年々増加傾向にある.病因は不明だが,自己免疫や薬剤の関与などが考えられている.本例も薬剤中止後に下痢が消失したことから,その関与が考えられた.透析患者での報告はまだないが,慢性下痢の鑑別疾患の一つとして念頭に置くことが必要と考え,報告した.
  • 荒木 久澄, 高谷 季穂
    2010 年 43 巻 12 号 p. 1005-1010
    発行日: 2010/12/28
    公開日: 2011/01/21
    ジャーナル フリー
    症例は23歳,男性.2008年7月23日,運動会で200mを全力疾走した後,全身倦怠感,上腹部痛,嘔気,嘔吐出現.夕方に近医にて点滴を受けるも症状は改善せず,翌日,当院受診.腎機能障害を認め入院となる.入院時,身体所見の異常は認めず,血液検査で,BUN 23.2mg/dL,血清Cre 2.4mg/dLと高値を示したが,尿酸値は5.2mg/dLと正常範囲内であった.脱水による急性腎不全と考えたが,輸液療法にもかかわらず,嘔気,嘔吐は治まらず,腎機能は悪化する一方であった.高血圧,全身浮腫も出現したため,血液透析療法を施行.同時に,99mTc-MDP骨スキャンを撮影した.その結果,腎内に斑状集積が認められた.透析離脱,腎機能も完全に戻り,退院となった.尿酸値は1.1mg/dLと低値になり,尿酸排泄率(FeUA)56%と異常高値を示した.本症例は腎性低尿酸血症患者にみられた,運動後急性腎不全と診断した.その原因検索のため,遺伝子検査を行ったところ,尿酸トランスポーターURAT1遺伝子,W258XとR90Hの複合ヘテロ接合体との結果であった.本症例はURAT1遺伝子の異常による低尿酸血症で,ALPEを起こしたと考えられる.この異常の10%がALPEまたは尿路結石となり,さらに透析が必要となるのはALPEの21%であり,貴重な症例と考えられた.また,99mTc-MDP骨スキャンは造影剤を使用しないため,ALPEには有用な検査と考えられた.
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