日本透析医学会雑誌
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54 巻, 1 号
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原著
  • 野島 武久, 本宮 康樹
    2021 年 54 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/28
    ジャーナル フリー

    過剰血流内シャントへの血流抑制術式であるgraft inclusion technique(GIT)19例の術後長期成績を検討した.GITは4 mm径人工血管を拡張した吻合部に縫着して縫縮し,長さ4 cm前後を血管内に内挿縫合して血流を抑制する術式である.術前血流量は2,200[1,830‒2,751]mL/min,術直後880[737‒974]mL/min,遠隔期856[687‒1,006]mL/minで,血流抑制率は術直後39.8%,遠隔期39.6%,手術時間90[61‒104]分で全例初期成功を得た.追跡期間3.0年,最長6.9年,人工血管への直接感染例はなく過剰血流の再発例もなかった.一次開存率は1年66.2%,3年42.8%,5年 28.5%,二次開存率は1年100%,3年87.1%,5年67.7%であった.GITの特徴は静脈側のみの剥離で人工血管を3~4 cm内挿する簡便で術中血流量の調節も不要な定型化できる方法である.肘部を含め吻合部位を問わず施術可能で,既存穿刺部に干渉しにくくアクセス温存可能な術式である.瘤化した吻合部も同時に縫縮される.GITの長期にわたる血流抑制効果と開存性が確認できた.

  • 三宅 範明, 宮本 忠幸, 篠藤 研司
    2021 年 54 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/28
    ジャーナル フリー

    【目的】自己血管による内シャント(以下AVF)動静脈吻合の際,機能的側端吻合法(従来法)では吻合部中枢側に屈曲を生じる例を経験する.屈曲防止目的で吻合部静脈壁を血管長軸に対し斜めに切開する方法(静脈斜切開法)を考案したので報告する.【方法】従来法52例,静脈壁斜切開法89例を対象とし一次開存率を比較検討した.【結果】両群間の患者背景に統計学的有意差は認めなかった.従来法群と斜切開法群の1年,3年,5年AVF一次開存率(Kaplan‒Meier法)はそれぞれ73.8% vs. 76.8%,47.5% vs. 68.4%,38.1% vs. 68.4%であり,斜切開群が有意に良好であった(Log‒rank test,p=0.0416).【考察および結論】斜切開法による吻合部屈曲防止がAVF開存率改善に寄与したのではないかと推察する.斜切開法がAVF開存率改善に有用である可能性が示唆された.

  • 小川 和俊, 玉谷 亮一, 林 直博, 三島 康生, 覚知 泰志
    2021 年 54 巻 1 号 p. 15-20
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/28
    ジャーナル フリー

    穿刺針における単針血液透析(SN‒HD)は返血側穿刺困難症例や在宅透析における自己穿刺の際に行われることがあるが,高度な透析効率を求めない症例にも良い適応である.また,緊急時アクセスではダブルルーメンカテーテル(DLC)を使用するのが一般的であるが,シングルルーメンカテーテル(SLC)を使ったSN‒HDも有効な場面があると考えたが,SLCを使ったSN‒HDでは透析効率がどのくらい下がるか不明であり,幅広い症例に使用するためにも効率を最大限向上できる条件を検討することとした.実験血流量は300 mL/minに固定し切替圧設定は11通りで計測項目は10分間の模擬血液の移動量および血液ポンプon‒off回数を計測した.結果は,デフォルト設定200/100 mmHgでの実質処理量は約104 mL/minに対し設定300/150 mmHgでは約130 mL/minと検証の中で最も多く得られ,SLCを使ったSN‒HD時の至適条件である.今回の検討からSLCによるSN‒HDの至適条件が判明し,デフォルト条件より透析効率を高めることが可能であった.

  • 吉澤 拓, 森田 るりの, 熊谷 純子, 高橋 直子
    2021 年 54 巻 1 号 p. 21-29
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/28
    ジャーナル フリー

    エボカルセトは,強いparathyroid hormone(PTH)値の低下作用を有するカルシミメティクスで,シナカルセト塩酸塩より上部消化管症状の発現頻度や他の薬物との相互作用が少ないため,より安全に継続投与ができる薬剤である.エボカルセトの開始用量は,添付文書よりそれまでのシナカルセト投与量に関係なく1 mgとされている.そこで,当院の血液透析患者92例をシナカルセト投与量25 mg未満(低用量群)33例,25以上50 mg未満(中用量群)46例,50 mg以上(高用量群)13例の3群に分け,エボカルセト1 mg投与への切り替え後12か月まで血清PTH値,補正Ca値,P値を測定しつつ経過を観察した.その結果,シナカルセト投与量に対するエボカルセト換算量は,それぞれ12.5 mgが0.2 mg,25 mgが1.4 mg,50 mgが4.0 mg,75 mgが6.9 mg,100 mgが10.3 mgとなった.以上よりエボカルセトへの切り替えは,換算量を目安とした初期投与量の設定,あるいは必要に応じた速やかな増量が必要であることが示唆された.

  • 川尻 将守, 渡邊 尚, 井上 愛, 岩谷 理恵子, 平塚 明倫, 保科 斉生, 山本 泉, 丸山 之雄, 大城戸 一郎, 横尾 隆
    2021 年 54 巻 1 号 p. 31-35
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/28
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019: COVID‒19)が世界中で拡大し,感染による急性腎障害(acute kidney injury: AKI)の発生に伴い透析を必要とする患者が増加している.血液浄化装置を介した感染拡大を防ぐ必要があるが,装置の汚染状況が不明確なため,現在は約10日間装置をウイルスから隔離した状態で静置した後,他の患者へ使用する運用を行っている.今回,COVID‒19患者の血液透析に使用した直後の血液浄化装置に新型コロナウイルス(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2: SARS‒CoV‒2)が存在するか調査し,今後の装置の運用に役立てることを目的とした.血液浄化装置の9か所で採取した検体において逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(reverse transcription polymerase chain reaction: RT‒PCR)検査はすべて陰性であった.COVID‒19患者に使用後の装置待機期間短縮は慎重に検討すべきであり,検体の採取箇所や環境等の条件を変更した追加調査が必要と考える.

症例報告
  • 喜多 秀仁, 上野 恵輝, 中島 英, 林 秀樹, 水田 耕治, 橋本 寛文
    2021 年 54 巻 1 号 p. 37-43
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/28
    ジャーナル フリー

    症例は56歳,男性.2018年5月にCAPDを導入(原疾患:糖尿病性腎症).導入2か月後,倦怠感のため外来を受診.胸部X線検査で右胸水貯留を認めた.CAPD中断で胸水は減少したが,CAPD再開後に再燃した.胸水穿刺で漏出性胸水と判断した.胸部X線検査の経過を踏まえ,横隔膜交通症と判断し,胸腔鏡下横隔膜縫縮術を施行.術中,横隔膜に瘻孔を認め,インジゴカルミン混合の透析液を腹腔内に投与し同部位からの漏出を確認.瘻孔は自動吻合器で切除.術後2週間後にCAPDを再開,右胸水貯留を認めた.横隔膜交通症の再燃を疑い,インジゴカルミン混合の透析液を腹腔内に貯留したのち,胸水穿刺を行った.胸水にはインジゴカルミンの着色はみられず,滲出性胸水であった.癌性胸水や結核性胸水が除外できたことから尿毒症性胸膜炎と診断し,HD併用療法に変更,胸水は減少し,現在のところ再燃を認めていない.

  • 伊藤 富良野, 大山 聡子, 齋藤 快児, 堀 賢一郎, 佐々木 奈都江, 田村 博之, 冨田 公夫
    2021 年 54 巻 1 号 p. 45-49
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/28
    ジャーナル フリー

    【症例】81歳,女性.4年前に維持透析導入となる.透析中に呼吸困難,ショック,汎血球減少,DICをきたし,入院となる.第1病日より抗菌薬にて治療を開始した.血液培養にて大腸菌が検出された.第5病日に上下肢,鼠径,背部に辺縁に紫斑を伴う灰白色斑を認め,徐々に壊死が進行し電撃性紫斑病(purpura fulminans: PF)と診断した.第8病日にはプロテインC活性35%と低値であったため新鮮凍結血漿(FFP)投与を開始したが,その後も皮膚の壊死は進行し第15病日に永眠した.【考察】本症例は過去にシャント閉塞を繰り返しているがプロテインC/Sの欠乏は認めていなかったことにより敗血症による急性感染症性電撃性紫斑病(acute infectious purpura fulminans: AIPF)と考えた.AIPFは敗血症の最重症型であり致死率が高い.本邦透析患者で大腸菌によるPFの報告はみられず貴重な症例と思われる.

  • 小野 高志, 尾上 友朗, 福満 研人, 佐内 透, 福満 東馬
    2021 年 54 巻 1 号 p. 51-56
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/28
    ジャーナル フリー

    症例は71歳男性でX‒8年より維持血液透析を施行中である.X‒5年に関節リウマチ(RA)と診断された.近医にてサラゾスルファピリジン腸溶錠(salazosurufapyridine: SASP),プレドニゾロン(predonisolone: PSL)が開始されるも,PSLは消化器症状にて自己中止された.SASPのみ継続するも効果は不十分であった.X‒4年に生物学的製剤投与を開始した.1剤目のエタネルセプト(etanercept: ETN)は効果不十分で,トシリズマブ(tocilizumab: TCZ)に変更し関節症状と検査所見は改善した.しかし1年2か月後皮膚掻痒感にて中止した.そのあと,ゴリムマブ(golimumab: GLM),続いてアバタセプト(abatacept: ABT)に変更し,掻痒感は改善したが関節炎は再燃した.現在,5剤目のサリルマブ(sarilumab: SAR)で治療中である.関節症状と炎症反応は改善した.多剤の生物学的製剤で治療に難渋したがSARが有効であったと考えられた.

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