日本透析医学会雑誌
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44 巻, 5 号
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(社)日本透析医学会「血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン」
原著
  • 三橋 秀基, 後藤 真弓, 真下 啓一, 重原 哲也, 矢野 新太郎
    2011 年 44 巻 5 号 p. 427-433
    発行日: 2011/05/28
    公開日: 2011/06/29
    ジャーナル フリー
    危険な有毒ガスとして知られる硫化水素がヒト体内でもシステインからcystathionine β-synthase(CBS)やcystathionine γlyase(CSE)により産生されることが知られている.この物質は神経伝達物質や血管作動性物質としての働きが認められ,第3のガス状メディエーターとして認識されつつある.しかし,血液中硫化水素の濃度測定は低濃度であり干渉する物質の存在のため難しく臨床的研究は数少ない.一方,腎不全では含硫アミノ酸代謝異常がおこりシステインや亜硫酸などの硫黄化合物が血中に上昇することが知られている.われわれは透析患者において硫化水素代謝異常の可能性を推測し,高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography:HPLC)を用いたSavage法にて日本人透析患者の血中硫化水素濃度を測定した.液中に添加された硫化水素を経時的に計測してみると,純水中や血漿中の硫化水素は経時的に減少した.血液中の硫化水素はそれらよりさらに急速に失われる傾向があることから,血中の硫化水素濃度測定には採血後に迅速な処理が必要であることが明らかとなった.血漿中の硫化水素濃度は透析患者においては正常者血中濃度よりも有意に上昇していた.さらに,血漿中硫化水素濃度は慢性糸球体腎炎群に比較して糖尿病群で有意に低かった.そして,単回の透析治療により透析前に上昇している血中硫化水素濃度は正常血清レベル以下まで低下した.また,透析治療中の透析排液中に硫化水素が検出された.これらのことから透析患者では硫化水素産生能亢進または消去能低下のため硫化水素が恒常的に血液中に増加しており透析により除去されることがわかった.
  • ―Pulse dye-densitometryによる実測と推測式の差異に関して―
    大河原 晋, 鈴木 昌幸, 深瀬 幸子, 田部井 薫
    2011 年 44 巻 5 号 p. 435-440
    発行日: 2011/05/28
    公開日: 2011/06/29
    ジャーナル フリー
    血液透析(HD)症例における循環血液量(CBV)の評価は相対的変化の把握が主であり,絶対値の評価はほとんどなされていない.今回,維持HD症例15例を対象に,Pulse dye-densitometry(PDD)を用いてHD前後にCBVの実測(CBV-PDD)を施行し,CBV推測式との関連,さらには実測CBVおよびCBV推測式より得られる血管透過性の指標との差異に関して検討を加えた.CBV推測式は,一般的に使用される体重の7.7%がCBVであるとする方法(CBV1)に加えて,体表面積に基づく方法(CBV2),身長と体重に基づく方法(CBV3)を用いて,さらに血管透過性の指標としてplasma refilling rate(PRR)および血管透過性係数(mean Kr)を使用して検討を加えた.HD前におけるCBV-PDDとCBV1,CBV2,CBV3との間にはそれぞれ有意な正相関を認めた(CBV-PDD vs. CBV1;r=0.56,vs. CBV2;r=0.60,vs. CBV3;r=0.58,それぞれp<0.05).また,Bland-Altman分析においてもCBV-PDDと推測式それぞれには有意な差異を認めなかった.CBV-PDDおよび推測式(CBV1)から算出したPRRに有意な差異を認めず(CBV-PDD;86.9±1.8,CBV1;87.9±1.7%),mean Krにも差異を認めなかった(CBV-PDD;2.5±0.4,CBV1;2.6±0.4 mL/min/mmHg).以上より,従来までのCBV推測式を用いた体液管理は,CBV-PDDと相同性を有し血管透過性の指標の把握にも差を認めないことより,臨床的に有用であると考えられた.
  • 小口 智雅, 櫻井 俊平, 白鳥 勝子, 南 聡, 鈴木 智裕, 羽田 健紀, 加藤 太門, 小口 和浩
    2011 年 44 巻 5 号 p. 441-447
    発行日: 2011/05/28
    公開日: 2011/06/29
    ジャーナル フリー
    当院に外来通院していた透析歴2年未満の血液透析患者全61名のうち,80歳以上の6名,心臓カテーテル検査による冠動脈造影(CAG)をすでに受けていた10名,CT撮影の同意が得られなかった13名を除く,32名(年齢59.2±12.7歳,透析期間12.6±7.3か月)に,320列CTを撮影して冠動脈狭窄の有無を調べた.撮影できた32名と,同意が得られず撮影できなかった13名の平均年齢や糖尿病の有無に有意差はなかった.32名にCT撮影した結果,6名が冠動脈狭窄あり,20名が冠動脈狭窄なしと判定され,6名は判定不能(高度石灰化5名,描出不良1名)だった.平均年齢は,冠動脈狭窄あり(67.3±9.5歳)や判定不能例(68.3±9.7歳)がそれぞれ,冠動脈狭窄なし(54.0±11.8歳)より有意に高齢だった(p<0.05,p<0.01).判定不能例の石灰化スコア(1088±907)は,冠動脈狭窄あり(351±356)や冠動脈狭窄なし(100±217)よりそれぞれ有意に高値だった(p<0.05,p<0.01).糖尿病は冠動脈狭窄ありの6名中4名(67%)にあり,冠動脈狭窄なしの20名中5名(25%)より多かったが,有意差ではなかった.CTで冠動脈狭窄がみられた6名にCAGを行ったところ,5名に治療が必要な有意狭窄を認め,1名は冠動脈バイパス手術,2名は経皮的冠動脈形成術(PCI),2名は薬物治療を実施した.CTで判定不能だった6名のうち5名にCAGを行ったところ,1名に冠動脈有意狭窄を認めPCIを実施した.CTによる冠動脈スクリーニングをきっかけにCAGを行い,初期血液透析患者32名中6名(19%)に治療が必要な冠動脈疾患を見つけ出すことができた.320列CTによる冠動脈スクリーニングは,未治療で潜在している冠動脈狭窄をみつけられるので,維持透析導入初期の患者に有用である.
症例報告
  • 田中 勝喜, 西口 健介, 高折 光司, 村上 徹, 岸本 聡子, 玉置 佐奈美, 井ノ口 眞澄美, 左海 佳奈子, 門脇 勧, 織田 浩彰 ...
    2011 年 44 巻 5 号 p. 449-453
    発行日: 2011/05/28
    公開日: 2011/06/29
    ジャーナル フリー
    67歳,女性.糖尿病性腎症による血液透析歴16年.週3回3.5時間の維持透析で,体重増加は基本体重(40.2 kg)の約4%である.起床時の血圧は190/90 mmHg,透析前座位血圧120/60 mmHg,透析開始直後(仰臥位)血圧200/90 mmHgにも上昇する.透析終了後起立により血圧が90/50 mmHgまで低下し,当日はほとんど起立できない状況が続いていた.透析中の仰臥位血圧上昇については,透析開始時にニトロダームTTS貼付により透析中血圧を150/80 mmHgに維持することができた.透析後の起立性低血圧に関しては以前からのメチル硫酸アメジニウム(リズミック® 10 mg)内服は有効ではなく,ドロキシドパ(ドプス® 100 mg)透析終了前および後内服により不充分ながらの改善を得,さらに加えたコリンエステラーゼ阻害剤(ウブレチド®)透析終了前内服により,全身倦怠感やふらつきの出現が非常に軽くなり買い物や家事などの日常生活が制限なく行えるほどに症状は劇的に改善した.糖尿病性腎不全による透析患者に仰臥位高血圧・立位低血圧を伴うことはまれではない.透析中の仰臥位血圧上昇抑制には,透析開始時のニトロダームTTS® 貼付は効果があり,透析後の起立性低血圧に対するコリンエステラーゼ阻害剤使用は,患者QOLを改善した.
  • 本田 謙次郎, 大瀬 貴元, 須藤 裕嗣, 上田 浩平, 鮎澤 信宏, 正路 久美, 藤乘 嗣泰, 関 常司, 藤田 敏郎
    2011 年 44 巻 5 号 p. 455-461
    発行日: 2011/05/28
    公開日: 2011/06/29
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,女性.生来健康だったが3年前から両手指ソーセージ様腫脹,指尖潰瘍とRaynaud症状が出現,口周囲皺の減少もみられ,1年前から労作時呼吸困難も出現した.近医で漢方薬を処方されたが症状に改善はみられなかった.起座呼吸を主訴に前医に入院,乳頭浮腫を伴う高血圧,大量心膜液,うっ血性心不全,肺線維症,破砕赤血球像と腎機能障害を認めた.入院後は降圧治療を行い血圧は150/80 mmHg程度まで改善,破砕赤血球も消失したが,腎機能悪化と浮腫の増悪を認め入院3日後に当科転院となった.入院時は上記皮膚所見に加え収縮期心雑音と肺野の乾性ラ音,四肢の浮腫を認め,尿蛋白・尿潜血を伴う腎機能障害,胸部X線で心拡大と肺うっ血像を認めた.心エコーでは心膜液貯留があり胸部CTでは両側肺野に軽度の間質性変化も認めた.抗Scl-70抗体が陽性であり全身性強皮症に伴う強皮症腎クリーゼと診断,心膜液を伴ううっ血性心不全を併発したと考えた.ACE(angiotensin-converting enzyme)阻害薬とCa拮抗薬で降圧を行うとともに血液透析を開始,透析前血圧は138/68 mmHg程度まで改善し,肺うっ血と四肢の浮腫は消失したため入院27日目に退院となった.本邦での全身性強皮症患者における腎クリーゼの発生頻度は海外にくらべ少ないといわれており,今回心膜液を伴い血液透析導入に至った重症例を経験したので報告する.
  • 吉原 真由美, 長谷川 浩一, 小原 史生
    2011 年 44 巻 5 号 p. 463-467
    発行日: 2011/05/28
    公開日: 2011/06/29
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,男性.2008年7月発熱,尿蛋白および尿潜血反応陽性,血清Cr値の上昇(0.9→2.3 mg/dL)を認め当科入院となった.ミエロペルオキシダーゼ抗好中球細胞質抗体(MPO-ANCA)が83 EUと高値で,腎生検上pauci-immune型半月体形成性糸球体腎炎の所見を認めたことから,MPO-ANCA関連急速進行性糸球体腎炎(RPGN)と診断し,methylprednisolone(mPSL)パルス療法後,prednisolone(PSL)の後療法を開始した.その後Cr 1.2 mg/dL,MPO-ANCA<10 EUと改善を認め,以後PSLの維持量内服にて外来通院とした.しかし2010年1月にMPO-ANCA 212 EUと再上昇を認め,4月にはCr 4.5 mg/dLと腎機能障害が急速に進行したため,5月17日に再入院となった.さらに抗糸球体基底膜(GBM)抗体も50 EUと高値を認めたため,mPSLパルス療法およびplasma exchange(PE)療法を施行し,引き続きPSLの後療法を開始した.血清Cr値は6.1 mg/dLと改善をみないため血液透析療法を開始したが,その後両抗体価はともに<10 EUと陰性化した.しかし7月上旬頃より血小板数の減少が持続し,ハプトグロビンの低下および破砕赤血球の出現等を認めたことより,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)と診断.PE療法を再開したが,その後TTPによる臓器障害と思われる膵炎を併発し,多臓器不全にて8月14日に死亡した.ANCAもしくは抗GBM抗体のいずれかが単独陽性のRPGNにTTPを合併した症例報告は散見されるが,両抗体がともに陽性例でTTPを併発したとする報告は非常に少ない.今回,われわれは両抗体陽性のRPGN加療中に,PE療法抵抗性のTTPを併発して致死的経過をたどった1例を経験した.
平成22年度コメディカル研究助成報告
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