日本透析医学会雑誌
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43 巻, 9 号
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原著
  • 松下 和通, 田端 秀日朗, 新田 孝作, 多胡 紀一郎
    2010 年43 巻9 号 p. 763-768
    発行日: 2010/09/28
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    血液透析患者の代謝性アシドーシス状態の持続は入院頻度の増加や生命予後の悪化につながり,骨代謝に対して悪影響を与えることも報告されている.今回われわれは,重炭酸を多く含むクエン酸透析液(カーボスター®)を使用した血液透析時に,リン(P)吸着剤の塩酸セベラマー:SHと炭酸ランタン:LCを用いた前向き観察研究を行い,両P吸着剤が血液透析患者の酸塩基平衡に及ぼす影響について検討した.方法:食事療法にもかかわらずSHを多く(≧5,250 mg/日)内服する患者40名を20名ずつランダムにSH群とLC群の2群に分けた.それぞれのP吸着剤を5週間内服し,その後両群ともSHを4週間内服した.結果:両群ともベースラインにおいてクエン酸透析液の使用にもかかわらず強い代謝性アシドーシス(HCO3≦20 mEq/L)を認めたが,研究開始とともにLC群は経時的にHCO3濃度の上昇傾向を認め5週間にわたり,2群間の有意差を認めた(LC群:4週後透析前HCO3濃度22.3±2.5 mEq/L,5週後HCO3濃度23.0±2.0 mEq/L).しかし6週以降LCからSHに内服を変更することにより,第7週にはベースラインの代謝性アシドーシスレベルにまで速やかに低下した.第5週において,6,588±971 mgのSHを内服していたLC群が1,500±730 mgのLCを内服しており,約4倍(SH:6,500 mg≒LC:1,500 mg)のP低下作用を認めた.考察:高P血症治療時にはSHによる代謝性アシドーシス増大を念頭に置き,P吸着剤を適切に選択することが必要であると考える.
  • 関谷 秀介, 村尾 命, 島 芳憲, 小島 茂利, 森 隆司, 久世 学, 末木 志奈, 安田 隆, 木村 健二郎
    2010 年43 巻9 号 p. 769-777
    発行日: 2010/09/28
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    骨粗鬆症では,血清undercarboxylated osteocalcin(ucOC)4.5 ng/mL以上はビタミンK(VK)不足とされ,VK投与が推奨されているが,血液透析患者では血清ucOCは異常高値を示し,VK投与の基準値が不明である.そこで,血液透析患者におけるVK投与開始の血清ucOC基準値の設定を試みた.血清ucOCを測定した血液透析患者54例で,血清VK,ucOC,osteocalcin(OC),intact parathyroid hormone(iPTH)を測定後,menatetrenone 45 mg/日の内服を開始した.投与後1か月(1 M)と3か月(3 M)にucOC,OC,iPTHを測定した.VK投与前の血清VK 2.36 ng/mL未満をVK不足群,血清VK 2.36 ng/mL以上をVK充足群と区分し,この2群間のROC解析から求めたVK充不足を判別するucOCのcut off値は,35.9 ng/mLが最適であった.VK投与後,VK不足群では,ucOC値はVK投与前の57.7±54.4 ng/mLから投与後1 Mで39.3±29.8 ng/mL,3 Mで40.9±35.3 ng/mLと1 M,3 Mで投与前にくらべ有意な低下を示した.1 Mから3 Mで変化はなく,投与したVKの効果は1 Mで定常化したと推測した.投与前後でOCとiPTHに変化はなく,ucOCの低下は血清VK値の上昇によると思われた.そこで,次に,血清ucOC上昇の因子に腎障害による蓄積や骨回転亢進も考慮するべきと考え,VK不足群においてVK投与前と投与後1 MのucOC値からucOCのcut off値の設定を試みた.投与前と投与後1 MのucOC値の2群間でのROC解析から求めた結果,VK投与の効果の定常化を判別するucOC値,すなわちその値以上ならばVKの不足が推測されるucOC値のcut off値は,36.2 ng/mLが最適であった.投与前のVK値およびVK投与前後のucOCの推移からの両者での検討で,ほぼ一致したucOCのcut off値を得た.ucOC 35 ng/mL以上の群では,ucOCはVK投与前の73.5±49.7 ng/mLから1 Mで50.9±26.1 ng/mLと有意に低下がみられ,投与前のVKが不足していた可能性が確認できた.実用的な数値としてucOC 35 ng/mL以上はVK不足の可能性があり,VK投与の適応と考えられた.
  • ―虚血性心疾患に対するリスク評価―
    廣津 芳男, 蝦名 尚典, 川添 順子, 上田 千幸, 三上 京子, 村上 秀一, 藤田 雄, 嶋谷 祐子, 村上 礼一, 中村 典雄, 奥 ...
    2010 年43 巻9 号 p. 779-785
    発行日: 2010/09/28
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    血液透析症例の死因の第一位は心血管系イベントである.糖尿病症例の増加や高齢化に伴い,維持血液透析症例の経過観察において動脈硬化の評価はますます重要性を増している.近年,頸動脈エコー検査は粥腫の質的評価も可能であり,非侵襲的に虚血性心疾患や脳血管障害等の動脈硬化性疾患が予測可能であると報告されている.また,冠動脈CT血管造影(以下冠動脈CTA)により冠動脈病変を簡便に診断することも可能となってきている.今回われわれは,血液透析症例を対象とし,冠動脈病変の評価に対する頸動脈エコーの有用性について検討した.対象は当院血液透析症例108名(男性58名,女性50名,平均年齢69±12歳,平均透析歴6.7±6.2年)である.頸動脈エコーでは最大内膜中膜複合体厚(以下max-IMT),プラークの発生部位,性状,プラークスコア(以下PS)を,冠動脈CTAでは主要分枝の狭窄率および狭窄分枝数を求め,頸動脈エコー所見と冠動脈CTA所見の関連性を比較検討した.結果として冠動脈狭窄率はmax-IMT・PSともに高値となるにつれて高度となり,狭窄分枝数はmax-IMT・PSともに高値となるにつれて多枝病変症例が増加し,いずれも十分な統計学的有意差を示した.血液透析症例は虚血性心疾患のハイリスク群であるが,糖尿病症例を中心として典型的な自覚症状を伴わないこともあり,加えて心肥大や電解質異常等により心電図所見が修飾され,虚血性心疾患の鑑別診断が困難になる場合がある.今回のわれわれの検討では,頸動脈のmax-IMT・PSともに冠動脈狭窄率・狭窄分枝数と関連性を認めた.血液透析症例を対象としても,侵襲度の低い頸動脈エコー検査が冠動脈病変を予測する手段の一つとなり,虚血性心疾患に対するリスク評価に有用であると思われた.
  • ―びわこ臨床透析カンファレンス共同研究―
    有村 徹朗, 磯野 元秀, 大橋 誠治, 近藤 守寛, 鹿野 勉, 富田 耕彬, 西尾 利二, 西村 正孝, 八田 告, 西尾 利樹, 永作 ...
    2010 年43 巻9 号 p. 787-794
    発行日: 2010/09/28
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    目的:シナカルセトによる二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)治療に関し,治療目標達成に影響を与える因子を検討した.対象と方法:びわこ臨床透析カンファレンス共同研究参加施設においてシナカルセト投与を受けた血液透析患者52例を対象とした.シナカルセト開始24週間観察し,日本透析医学会(JSDT)SHPT治療ガイドラインの目標値達成に関して後ろ向きに調査した.一部の症例では副甲状腺体積を超音波にて測定した.結果:治療中断した5例,intact PTH(iPTH)値の追跡不能であった1例を除く46例(平均年齢57歳,平均透析期間12年)を解析対象とした.iPTH目標値を達成したのは24例(52%)であり,iPTH,リン,カルシウムの3項目目標値をすべて達成したのは19例(41%)であった.3項目達成群は,未達成群に比し,iPTHおよびカルシウムが有意に低値であり,iPTH基礎値が500 pg/mL以下の群では,500 pg/mLを超える群に比し,高い達成率を示した(63% vs. 11%,p<0.001).また,前カルシウム値が目標範囲内の群では,目標値を超えた群に比し,3項目達成率が高い傾向を示した(52% vs. 23%,p=0.06).iPTH目標値を達成した24例のうち,18例(75%)が投与開始8週後以内に達成していたが,20週以降に目標値を達成した症例も存在した(3例,12.5%).達成までの期間は前iPTH値と相関しなかった.超音波検査を行った5例では,副甲状腺総体積は投与開始前580±349 mm3から投与24週後357±254 mm3と62%減少した(p=0.03).結論:Ca値が目標範囲内でかつiPTHが比較的低値の症例ではシナカルセトによるJSDTガイドライン達成率が高い.また,腫大した腺腫に対してもシナカルセトは縮小効果を有する可能性が示された.
  • 牧野 武志, 安藤 航, 長場 泰, 島田 肇, 鎌田 貢壽, 小宮山 貴子
    2010 年43 巻9 号 p. 795-800
    発行日: 2010/09/28
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    腎不全患者の腎性貧血の治療として遺伝子組み換えヒトエリスロポエチン(rHuEPO)製剤の投与があり,現在エポエチンαおよびβの二種類が発売されている.皮下投与時の問題点として疼痛があげられ,添加物やpHが原因とされている.2009年にエポエチンβが製剤改良を行いpHが6.8~7.2となり,これにより疼痛の軽減が期待された.われわれは両製剤間での疼痛について比較検討を行った.対象は保存期慢性腎臓病(以下CKD)で腎性貧血に対して外来でrHuEPO製剤の投与を受ける患者38名である.試験方法として患者を年齢,性別でおよそ2群に分け,A群は1回目エポエチン(以下略)α,2回目β,3回目α,B群は1回目β,2回目α,3回目βのクロスオーバー法で行った.毎回投与後に痛みアンケートを実施し,その評価方法としてvisual analogue scale(VAS)を用いた.解析結果はエポエチンαとエポエチンβのVAS値を比較したところ前者が0.46±2.75 cm,後者は-1.04±3.50 cmでありp=0.032で有意差をもってエポエチンβで痛みが少なかった.さらに各製剤投与時のVASの値が患者背景の因子によって左右されるか否かを検討したが,どの因子も有意差を認めず,製剤投与時の疼痛にいずれも影響を与えなかった.保存期CKD患者でrHuEPO製剤の皮下注射による疼痛比較研究を行った.エポエチンβはエポエチンαにくらべ疼痛が軽度であることが示された.
透析技術
  • ―より正確に排液中溶質濃度を測定するために―
    松本 正典, 佐藤 智香, 栗栖 一恵, 松川 誠, 喜田 智幸, 坂井 瑠実
    2010 年43 巻9 号 p. 801-806
    発行日: 2010/09/28
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    透析排液(以下,排液)の全量を貯留する全量貯留法と一部分を貯留する部分貯留法の比較検討を進めていく中で,両貯留法間において,尿素などの小分子溶質の濃度に有意な差は認めなかったにもかかわらず,蛋白質であるβ2マイクログロブリン(以下,β2M)およびアルブミン(以下,Alb)については,全量貯留法が部分貯留法にくらべ有意な高値を示す結果を得た.両貯留法間で,排液1 mL当たりのプラスチック製貯留容器内表面の接触面積に違いを認め,蛋白質が低値を示した部分貯留法の排液単位当たり接触面積が数倍大きかった.これは,プラスチック表面の疎水基と,β2MやAlbなどの蛋白質の疎水基による相互作用による,蛋白質の非特異的吸着現象のためであると考えられた.そこで,親水基と疎水基を併せ持つ界面活性剤に蛋白質の非特異的吸着現象に対する緩和効果について検討した.なお,界面活性剤には,非イオン性界面活性剤のポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween20)を使用した.その結果,界面活性剤添加による蛋白質の非特異的吸着現象緩和効果により,全量貯留法と部分貯留法の比較において,蛋白質濃度の有意差は解消され,排液への界面活性剤添加の有効性を認めた.
症例報告
  • 武田 彩乃, 真杉 洋平, 門川 俊明, 石黒 喜美子, 武光 智子, 原 義和, 伊東 大介, 橋口 明典, 小西 孝之助, 林 松彦, ...
    2010 年43 巻9 号 p. 807-813
    発行日: 2010/09/28
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は55歳,女性.骨髄増殖性疾患に対する治療経過中に腎不全に至り,54歳時に血液透析導入となった.透析導入10か月時に小脳失調症状が出現し,当院に入院となり,頭部MRIにて小脳にT2強調画像で異常信号を認めた.病変部位は小脳のみであり非特異的であったが,脳脊髄液検査にてJCウイルスPCR陽性であったことから,進行性多巣性白質脳症が第一に疑われた.病巣が急速に拡大するにつれて症状は進行し,不随意運動・構音障害・嚥下障害が出現,誤嚥性肺炎を繰り返すようになり,発症後10か月(透析導入後20か月)に死亡された.剖検にて小脳・脳幹部に脱髄を認め,同部位にJCウイルスの存在を確認し,小脳型進行性多巣性白質脳症の確定診断に至った.また本症例の透析導入前の腎生検を再度検討したところ萎縮・変性した尿細管上皮細胞内に一致して免疫組織化学ならびに電子顕微鏡的に多量のJCウイルス蛋白が確認された.一般に進行性多巣性白質脳症の中で小脳・脳幹を侵す病型は稀であるが,本邦の透析患者における進行性多巣性白質脳症では,小脳型の報告が散見されており,透析患者では小脳型が稀でない可能性がある.また,本症例において透析導入に至った腎不全の原因として,JCウイルス腎症が関与した可能性が高いことが示唆された.JCウイルス感染の腎障害における病的意義については不明な点が多く,今後,症例の蓄積による病態の解明が必要である.
平成21年度コメディカル研究助成報告
委員会報告
  • 岡田 一義, 天野 泉, 重松 隆, 久木田 和丘, 井関 邦敏, 室谷 典義, 岩元 則幸, 橋本 寛文, 長谷川 廣文, 新田 孝作
    2010 年43 巻9 号 p. 817-827
    発行日: 2010/09/28
    公開日: 2010/10/26
    ジャーナル フリー
    社団法人日本専門医制評価・認定機構が設立され,学会ではなく,第三者機関が専門医を認定する構想も浮上してきており,現状の専門医制度の問題点を早期に改善し,誰からも評価される専門医制度に改訂しなければならない時期に来ている.全会員と現行の専門医制度の問題点を共有するために,今回,専門医制度の現状を分析するとともに,意識調査を実施した.専門医制度委員会が把握しているデータを2009~2010年の各時点で集計した.さらに,認定施設または教育関連施設が2施設以下の7県の専門医180名および指導医50名を対象に,無記名アンケート調査を2009年10月に実施し,12月までに回収した.2009年9月1日時点での施設会員は3,778施設であり,認定施設は420施設(11.1%),教育関連施設は456施設(12.1%)であり,合格期より認定を継続している認定施設数は45.1%であった.正会員数は11,303人であり,専門医は4,297人(38.0%),指導医は1,620人(14.3%)であった.認定施設における専門医在籍数は,専門医0人0施設(0%),専門医1人(代行)11施設(2.6%),専門医2人256施設(61.0%),専門医3人以上153施設(36.4%)であった.施設コード別の認定施設数と教育関連施設数は私立病院が最も多く,大学附属病院の多くは認定施設であったが,教育関連施設も12施設認めた.認定施設が指定している教育関連施設は,0施設が39.4%,1施設が24.2%,2施設が19.6%,3施設が12.1%,4施設が3.7%,5施設が0.9%であった.意識調査の回収率はそれぞれ専門医38.9%と指導医76.0%であった.専門医は,指導医の申請について申請予定あり:17名(24.3%),申請予定なし:44名(62.9%),未記載:9名(12.9%),指導医は,指導医の更新について更新予定あり:36名(94.7%),更新予定なし:1名(2.6%),未記載:1名(2.6%)であった.低い施設認定率,低い認定施設継続率,低い専門医認定率,低い指導医認定率,認定施設継続のための余裕の少ない専門医在籍数,代行施設認定,基幹病院の非認定施設化,教育関連施設指定のない認定施設,専門医の低い指導医申請予定率,地域格差など解決しなければならない問題があり,専門医制度委員会において議論を継続している.
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