症例は58歳の男性. 多発性嚢胞腎による末期腎不全のため, 2001年6月に血液透析を開始した. 以後, 抗凝固薬にヘパリンを使用し, 維持血液透析を継続していたが, 2006年1月11日, 透析開始数分後に発汗, 胸部不快感, 呼吸困難, 腹痛を訴えた. 血圧100/70mmHgと低下したため, アナフィラキシーショックと診断し, 透析を中止した. 血液検査所見では血小板は透析前36.8×10
4/mm
3から透析後11.4×10
4/mm
3と低下していた. 血液回路には動脈・静脈側のチャンバー内に凝血が認められた. 翌日は, メシル酸ナファモスタットを使用し著変なく透析を施行できたが, 翌々日には, 低分子ヘパリンを使用すると再度発汗・呼吸困難が出現した. 低分子ヘパリンの使用時にも血小板の減少は認められた. 臨床的にヘパリン起因性血小板減少症 (HIT) と診断したが, ヘパリン・PF4複合体抗体 (HIT抗体) とヘパリン惹起性血小板凝集試験はいずれも陰性であった. また, アレルギーに関する検査では, ヘパリンに対するオープンパッチテストが陽性であった. 以上の所見より, ヘパリンによるアナフィラキシーを合併したHITと診断した. 本症例は, ヘパリンの長期使用後に突然アナフィラキシーを契機に発症したこと, さらにHIT抗体が陰性であることから, 非常に稀なHITであると考えられた.
抄録全体を表示