血液透析患者90名に対し,下肢末梢動脈疾患(PAD)のスクリーニング検査として皮膚灌流圧(SPP)測定を行い,測定時期と測定部位の違いによる検査精度を比較した.測定部位は足背部および足底部とし,測定時期は透析前,透析後半(透析終了20分前)とした.各部位ともSPP値は透析後半に有意に低下した.測定部位の違いでは足底部が足背部に比し高値を示した.SPPのカットオフ値を50 mmHgとした場合,PADの検出率は足背部では透析前67.3%,透析後半77.6%,足底部では透析前32.7%,透析後半55.1%であった.受信者動作特性(ROC)分析を用い測定時期の違いによる検査精度を比較したところ,各部位ともカットオフ値は透析前64 mmHg,透析後半54 mmHgであった.透析中にSPPによるPADのスクリーニングを行う場合,測定時期の違いにより適したカットオフ値を設定することが重要である.
血液透析患者の血清アルカリフォスファターゼ(ALP)アイソザイム(ノイラミニダーゼ,プロテアーゼ処理)の測定により,小腸型の占める割合が多いことを認識し,骨型,肝型とともに分析した.78例の総ALPの経年的変動(12~65か月)では,高ALP血症は52.6%を占めた.小腸型は,血液型による検出の違いや食後の変化があるが,血液透析例では2~50%を占めた.小腸型は,検討した23例ではB型,O型の16例中15例の高頻度に出現した.小腸型の臨床的意義はないが,小腸型のみによる高ALP血症が存在した.骨型は高齢女性に多く存在した.肝型と思われた症例も,骨型,小腸型を含む症例がみられた.同一症例の同等な高ALP血症でも,時期により異なった分画により構成された.また,非小腸分画が基準範囲でも,肝型,骨型の検討を要する症例がみられた.今後,ALPは小腸型の検出性の問題から測定法が変更されるが,3分画の評価は重要である.
軽度認知障害を呈する血液透析(HD)患者8名に対し,N‒backトレーニングを1回20分,週3回,HD中に5か月間実施した.Mini‒Mental State Examination(MMSE),日本語版Montreal Cognitive Assessment(MoCA‒J),ベントン視覚記銘検査(BVRT),視覚性抹消課題(VCT),Symbol Digit Modality Test(SDMT),Paced Auditory Serial Addition Task(PASAT)を介入前と介入5か月後,介入終了から6か月後(フォローアップ)の計3回評価した.PASATにおいて介入前から介入後,介入前からフォローアップで有意な改善を認め,BVRTでは介入前からフォローアップで有意な改善を認めた.透析中のN‒backトレーニングは,MCIを呈するHD患者のワーキングメモリの改善に有用であることが示唆された.
【目的】イオン選択電極(ISE)希釈法による多項目生化学自動分析装置(BAA)が透析液電解質測定に適するか否かを検討した.【方法】調整後濃度(mEq/L)がNa 140,K 2.0,Cl 112.25,HCO3 27.5となる透析液(HD液n=10),透析液測定用真度管理物質JCTCM330(n=3),および生理食塩水(生食)(n=3)のNa,K,Cl濃度をBAA血清(s)モード,尿(u)モードで測定した.【結果】透析液,JCTCM330,生食のsモード,uモードによる測定Na,Cl濃度は,それぞれ透析液:Na 139.2±1.4,138.7±1.3(p<0.05),Cl 110.1±1.2,112.7±1.1(p<0.0001),JCTCM330: Na 139.1,138.4,Cl 106.0,108.7,生食:Na 152.3,151.8,Cl 150.8,152.4で,標準血清で校正されるsモードは,uモードに比べNaは高く,Clは低かった.【考察】測定値が想定値に近似したのは,ISE希釈法では検体希釈により活量係数は1に,血清固形成分の割合は0に近づくためと思われる.【結論】BAAは透析液電解質測定に適しているが,sモードはClが,uモードはNaが低く表示される.
自己血管による内シャント(arteriovenous fistula: AVF)は本邦における慢性透析用バスキュラーアクセスの中で最も多い.AVF造設術は一定の割合で不成功例を認めるが,本邦において大規模RCTは行われておらず,AVFの初期開存に影響を与える因子の詳細な解析は行われていない.今回AVF造設術を施行した症例群をレトロスペクティブに解析し,初期開存に影響を及ぼす因子を解析した.対象とした119例の内,シャント閉塞をきたした症例は15例(12.6%)であり,初期開存に影響を与える因子として有意差を認めた項目は深部静脈血栓症(deep vein thrombosis: DVT)の既往のみであった.過去の論文にて開存率に影響を与える因子とされている,性別,年齢,糖尿病の既往などの因子よりも,血栓素因の有無がAVF初期開存に重要な影響を与える可能性が示唆された.
69歳男性,透析歴44年(非糖尿病).頸椎脊柱管狭窄症,手根管症候群手術,左アミロイド股関節症,左重症下肢虚血にて経皮的血管形成術の既往あり.4年前から大動脈弁狭窄症を指摘されていたが,症状なく経過していた.2か月前より歩行時呼吸困難が出現.心臓超音波検査にて大動脈弁口面積0.9 cm2,最高大動脈弁口血流速度4.5 m/秒,平均圧較差45 mmHgと,大動脈弁狭窄症の増悪が認められ,症状の原因と考えられた.牛心のう膜生体弁を用いて大動脈弁置換術を施行.患者の大動脈弁は,3尖とも均一に高度に硬化していた.組織学的には,硝子化を伴う線維性肥厚と,結節状石灰化がみられ,透析アミロイドの高度沈着が認められた.経過良好であったが,心臓リハビリテーションに時間を要し,術後30日に退院した.労作時呼吸困難は改善し,退院時にはNYHA Ⅰ度となった.長期透析例であったが,大動脈弁置換術を安全に施行することができた.