日本透析医学会雑誌
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31 巻, 4 号
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  • 酒井 清孝
    1998 年 31 巻 4 号 p. 253-266
    発行日: 1998/04/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    透析治療に用いられている透析膜の素材には大別してセルロースと合成高分子がある. 透析膜は均質膜であるが, 最近では非対称膜が用いられている. 分子量が大きい病因物質の分離速度 (クリアランス) を大きくするには, 分離に寄与する緻密なスキン層は薄いほど好ましい. その機械的強度を保持するための粗な支持層とから構成された非対称膜の有利性が大いに評価されている.
    透析器のクリアランスおよび濾過係数は透析膜の性能と透析器の設計に依存する. すなわち濾過係数が数ml/m2hrmmHgの透析膜では分子量が1,000以上, 濾過係数が数十ml/m2hrmmHgの高性能透析膜では分子量が10,000以上の溶質の分離速度は透析膜律速である. すなわち分子量の大きい尿毒症病因物質の除去は透析膜の透過性能 (拡散透過係数および濾過係数) に左右される.
    基本的には, 透析膜の両側の流体の浸透圧差をゼロに設定し, ある一定の膜間圧力差で一定時間に得られた濾液量のデータから透析膜の濾過係数が求められる. また拡散透過係数は濾過流束をゼロに設定した時に得られる溶質濃度と拡散流束のデータから求められる. 濾過係数を測定するときに透析器内を血液と透析液が流れていると, 両流体の流動方向に (静) 圧力が変化するため, 膜間圧力差を正しく求めることができない. そこで透析器を完全濾過で操作すると, 正しい濾過係数が求められる.
    本稿では, 透析膜の性能評価について, 透析膜の拡散透過係数および濾過係数の測定法, さらに透析膜の構造と透過性の関係について述べたい.
  • 透析歴, 臨床学的背景との関連について
    齋木 豊徳
    1998 年 31 巻 4 号 p. 267-272
    発行日: 1998/04/28
    公開日: 2010/07/01
    ジャーナル フリー
    当院を含む関連5施設の血液透析 (HD) 患者120名を対象とし, 末梢血リンパ球よりDNAを抽出しpolymerase chain reaction (PCR) を用いてACE遺伝子多型性を検索し, 健常者と比較検討した. またACE genotype別に分類し, 年齢, 透析期間, 血液検査成績の観点から検討した.
    結果は健常人と比較するとACE genotypeでは, HD患者Deletion/Deletion (D/D) 多型が有意に多く, Insertion/Insertion (I/I) typeが少なかった. またD Alleleが有意に多く, I Alleleが有意に少なかった.
    HD 10年未満群 (以下<10群) とHD 10年以上群 (以下10≦群) の比較では, 血液検査値のみの多変量解析比較では最も有意差を示したのはKt/Vであった. また血液検査値ならびに遺伝子多型を加えた多変量解析比較で, Kt/V>I/Iの順に有意差を示した. またD/Dを含んだその他の血液検査値との比較検討ではいずれの検定においても有意差はみられなかった. このことは従来から危険因子といわれるD/Dは透析導入までには深く関与しているが, 導入後はD/Dであっても他の検討因子に透析期間別で有意差を認めない事実から長期透析が不可能であるとは考えにくかった. むしろKt/Vを高く保つことでD/Dであっても長期透析の可能性を考えさせられるものであり, D/Dよりも深く関与しているI/Iの存在が長期透析の可能性に重要な因子であることが示唆しえた.
  • 金澤 良枝, 中尾 俊之, 木村 佳子, 松本 博, 岡田 知也, 韓 明基, 日高 宏実, 吉野 麻紀, 篠 朱美, 山田 親行, 長岡 ...
    1998 年 31 巻 4 号 p. 273-277
    発行日: 1998/04/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    動脈硬化性疾患は, 慢性腎不全透析患者において生命予後やQOLを決定づける重要な合併症である. そこで, 透析患者の食事療法を脂肪摂取とくにその量的, 質的な面, および血清脂肪酸レベルについて検討し, 透析患者の動脈硬化進行阻止のための適正な食事内容について検討した. 対象は, 血液透析患者12名, CAPD患者10名である. 対象者の食事摂取脂肪量, 脂肪酸量の算出, 血清脂肪酸分画の測定を行った.
    その結果, 維持透析患者の総摂取エネルギー量に占める脂肪量は, HD27.7±7.0, CAPD26.6±7.3%と厚生省の一般国民に対する推奨量より多かった. 飽和脂肪酸: 一価不飽和脂肪酸: 多価不飽和脂肪酸の摂取比率は, HD1.1:1.5:1, CAPD1.2:1.5:1で, 飽和脂肪酸の摂取量が多かった. 多価不飽和脂肪酸のn-6/n-3摂取比は, HD5.8, CAPD3.4で, 食事摂取n-6/n-3と血清n-6/n-3は有意の相関関係を認めた.
    以上より, 慢性腎不全透析患者の脂質栄養からみた動脈硬化性疾患予防のための臨床栄養学的アプローチとして, 飽和脂肪酸の摂取を減らすことにより脂肪エネルギー比率を下げ, さらに多価不飽和脂肪酸のn-6系脂肪酸摂取量を減らし, 代わりにn-3系脂肪酸を増やすことが, 動脈硬化進行阻止に意義があると考えられた.
  • 長田 太助, 杉本 徳一郎, 山門 実, 福田 一郎, 多川 斉
    1998 年 31 巻 4 号 p. 279-284
    発行日: 1998/04/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    血液透析導入患者37例, 維持透析患者33例, 対照群82例を対象として, 脳magnetic resonance imaging (MRI) を施行し, lacunae (ラクナ) およびpriventrocular hyperintensity (PVH) について評価した. ラクナは透析導入期群の56%, 維持期群の73%に, PVHはそれぞれ44%, 39%に認められ, いずれも対照群に比べて有意に高頻度であった (p<0.05). ラクナ数と, PVHの重症度は, いずれも加齢に伴って増加した. ラクナ数は, 糖尿病患者において, また透析維持期群では高血圧患者において高値であった. 以上のことから, 無症候性脳虚血病変が血液透析患者において高頻度に合併し, 腎不全, 加齢, 高血圧, 糖尿病が病因として深く関与している可能性が示唆された.
  • 平中 俊行, 金 昌雄
    1998 年 31 巻 4 号 p. 285-288
    発行日: 1998/04/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    1996年1月から1997年3月の間に, 血液透析用内シャントとしてHDS®グラフトを47症例に49本移植し, 早期使用を行った結果につき臨床的検討を行った. 性別は男25例, 女24例, 年齢は平均59.3歳, 透析歴は平均3.7年, ブラッドアクセス手術回数は平均2.4回であった. 原疾患は糖尿病21例 (42.9%), 慢性糸球体腎炎11例 (22.4%), その他17例 (34.7%) であった. 人工血管移植部位は, 上腕近位42件, 前腕3件, 上腕遠位3件, 上腕動脈-腋窩静脈1件であった. 人工血管の穿刺までの期間は, 術後1日から37日, 平均8.5日であり, 46.5%の症例は術後1週間以内に使用した. 早期穿刺に伴う合併症は, 1例に出血による血腫を認めたのみであった. 止血時間は全例15分以内であり, 従来のePTFEグラフトより短時間であった. 経過観察中の合併症は血栓閉塞が9件で最も多く, 感染2件, 血清腫1件, 人工血管露出1件であった. 経過観察期間に5例の死亡症例を認めたが, 人工血管に関連した死亡はなかった. 救済処置を行わなかった一次開存率は, 6か月85%, 12か月77%であり, 救済処置を必要とした二次開存率は, 6か月87%, 12か月83%であった. 従来のePTFEグラフトと比較して, HDS®グラフトの開存率は有意に良好であった. HDS®グラフトは早期使用が可能であり, 開存性にも問題はないことから, 血液透析用グラフトとして優れていると思われるが, 今後さらに長期にわたる追跡調査が必要と考えられる.
  • 柳沢 良三, 岸 洋一
    1998 年 31 巻 4 号 p. 289-293
    発行日: 1998/04/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    慢性血液透析患者14例について, シャント血流不足や静脈圧上昇などのシャント機能不全をきたした血液透析用動静脈瘻をBモード・カラードップラー複合法を用いて評価した. シャント機能不全の原因として静脈拡張不全や血栓形成の存在を認めた. また静脈壁の解離像や静脈弁などの内部構造のほか, カラードップラー表示により, 深部静脈への側副血行路も確認できた. 血液透析用動静脈瘻の面積狭窄率は狭窄部と前後の非狭窄部の血流速度を計測することで算定し得た. Bモード・カラードップラー複合法は血管の内部構造や深部静脈への流入などの立体的観察, 面積狭窄率の血流速度による算定などが可能であり, 血液透析用動静脈瘻の機能不全の診断に有用と考えられた.
  • 井崎 博文, 滝下 佳寛, 水田 耕治, 林 尚彦, 香川 賢一, 山本 修三, 炭谷 晴雄
    1998 年 31 巻 4 号 p. 295-298
    発行日: 1998/04/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    症例は71歳男性. 68歳の時腎機能低下を指摘され, 平成8年1月 (71歳時) より嘔気, 食欲不振が出現, 近医で末期腎不全を指摘され透析導入の目的で当院に紹介され入院した. 入院中に施行した腹部超音波で肝S8に肝癌を疑わせる腫瘤を認めたため, 腹部CT, 肝動脈造影を施行し肝癌と診断した. Zinostatin stimalamer (SMANCS) を, 初回は常用量の2/3に相当する4mgをlipiodolに溶解して選択的に肝動脈より注入した. 注入後, 白血球減少, 血小板減少, 肝機能および腎機能の増悪等の副作用は認めなかった. 9か月後, 腫瘍の増大を見たため, 再度SMANCS 6mgを含むSMANCS/Lipiodolとともに, ゼラチンスポンジゲルによる塞栓術を併用した (SMANCS/TAE). 特記すべき副作用もなく, 13か月後の現在良好に経過している. 今回の経験より, 透析患者にも常用量のSMANCSを用いた動注療法の可能であることが示唆された.
  • 黄 泰奉, 池田 裕次, 冨吉 義幸, 宮園 素明, 酒見 隆信
    1998 年 31 巻 4 号 p. 299-302
    発行日: 1998/04/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    症例は59歳, 女性. 1991年11月8日早期胃癌で胃全摘術を受け, 術後3日目より嘔気・嘔吐および発熱を認めた. 炎症所見が顕著であったため抗生剤を投与したところ乏尿および高カリウム血症が出現した. 術後11日目には血清Cr 8mg/dlと腎機能は急激に悪化し血液透析を開始した. その後, 免疫電気泳動にて尿中Bence-Jones (BJ蛋白), 血中モノクローナルlgAを確認し, 骨髄穿刺においても異型形質細胞を約20%認めた. 術後88日目に行われた腎生検にて尿細管円柱を多数認めたため, 多発性骨髄腫とそれに起因する腎不全と診断した. 約1か月の乏尿期の後, 次第に尿量は増加してきたが感染症を契機に全身状態が悪化し死亡した.
    本症例は術前の検尿や血液検査で問題となる異常を指摘されていなかった. 術後の感染症に起因する発熱や脱水により, 尿中のBJ蛋白濃度が上昇し, それにより腎毒性を高め急性腎不全に至ったものと思われた.
  • 1997年における改訂
    野本 保夫, 川口 良人, 酒井 信治, 平野 宏, 久保 仁, 大平 整爾, 本間 寿美子, 山縣 邦弘, 三浦 靖彦, 木村 靖夫, 栗 ...
    1998 年 31 巻 4 号 p. 303-311
    発行日: 1998/04/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    硬化性被嚢性腹膜炎 (sclerosing encapsulating peritonitis, SEP) はCAPD療法における最も重篤な合併症の1つである. 平成7-9年度にわたり, 厚生省長期慢性疾患総合研究事業慢性腎不全研究班に参加した『CAPD療法の評価と適応に関する研究班』にてこの病態に焦点をあてSEPの診断基準, 治療のガイドラインを作成し検討を重ねてきた. 今回平成7-8年度の成果を土台に1年間経験を各施設より持ち寄りその実際的な問題点を明らかにし, 改訂するべき事項があればさらに検討を続けることを目的として叡知をあつめ, 平成9年度硬化性被嚢性腹膜炎コンセンサス会議を開催した.
    今回は主に診断指針の見直しおよび治療および中止基準の妥当性に焦点をあて検討し改訂案を作成した. 診断基準に関しては昨年度に提示した定義に根本的な変更点はなかった. しかし, 治療法に関し若干の手直しを行った. 栄養補給は経静脈的高カロリー輸液 (TPN) を主体に行うが, 具体的投与量を提示した. 一部症例にステロイド薬 (含パルス療法) がSEP発症直後の症例に著効を示した症例に加えて, 一方不幸な転帰をとった症例も報告された. また, 外科的腸管剥離についても再検討を行った. 中止基準に関しては一部の手直しと小児症例に関するガイドラインも新たに加えた.
    以上当研究班で3年余にわたる作業を行ってきたが, 現時点での諸家のコンセンサスを得たSEP診断治療指針 (案) を上梓することができた. しかしながら本病態の多様性, 治療に対する反応性の相違から基本的な治療方針の提示にとどめた. 今後さらに中止基準を含んだSEP予防法の確立や生体適合性の良い透析液の開発が重要であることはいうまでもない.
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