CAPDの透析液曝露による腹膜形態の変容を検討する目的で, 腹膜炎の既往がない生検腹膜の臨床病理学的検討を行った. 腹膜生検プログラムに登録された症例の中, 腹膜炎非既往の65例を対象とした. なお, CAPD新規導入時の腹膜形態を対照とした. いずれもカテーテル抜去時の腹膜生検例であるが, CAPD中止目的は除水不全18例, 非除水不全47例 (出口部・トンネル感染13例, カテーテル位置移動6例, 腹部手術3例, 精神的理由10例, 死亡6例, 腎移植2例, その他7例) である. CAPD継続期間と腹膜形態を比較検討するため, CAPD継続5年未満の36例 (1群) と5年以上の29例 (2群) に分けて臨床所見と病理組織所見を比較検討した. 生検腹膜は病理組織観察 (肉眼, 光顕, 透過電顕, 走査電顕) と, 酵素抗体法によりadvanced glycation endproducts (AGEs), collagen (I, II, III, IV, VI), fibronectin, Iaminin, matrix metalloproteinases (MMP-1, MMP-2, MMP-9), tissue inhibitors of metalloproteinases (TIMP-1, TIMP-2) の局在を観察した. CAPD新規導入時と同様の腹膜形態を示した14例を除く51例は腹膜肥厚を認め, その腹膜所見は線維性腹膜肥厚 (腹膜線維症, peritoneal fibrosis) 33例と硬化性腹膜肥厚 (腹膜硬化症, peritoneal sclerosis) 18例に分類された. 腹膜形態は透析液の長期曝露により経時的に変化した. CAPD継続5年までの腹膜肥厚は全例が腹膜線維症であった. 中皮細胞下結合織に元来存在するcollagen IIIが増殖したものであり, 腹膜表面には中皮細胞が存在した. 除水能低下は伴わず, CAPD継続には支障がなかった. 一方, 5年以降では腹膜硬化症が出現するが, これは中皮細胞下結合織のcollagen fiberが変性してgelatin化したものと考えられ, 腹膜線維症とは明らかに異なる病態であった. 臨床的には除水能低下を伴い, 腸閉塞の原因となる病変であった. 両病変は透析液中の高濃度ブドウ糖の曝露が原因と考えられ, AGEsが増殖因子を刺激して中皮細胞下結合織の線維芽細胞とcollagen fiber増殖を起こし腹膜線維症が形成される. さらに, 長期間蓄積されたAGEsは増殖したcollagen fiberをgelatin化させ, 腹膜線維症から腹膜硬化症に移行するものと考える. 今後, CAPDの腹膜形態を評価する場合, 腹膜線維症と腹膜硬化症を区別して用いることが必要である.
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