日本透析医学会雑誌
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27 巻, 8 号
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  • 前田 憲志, 宮田 敏男
    1994 年 27 巻 8 号 p. 1119-1126
    発行日: 1994/08/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    長期透析症例に見られるcarpal tunnel syndrome, destractive spondyloarthropathy, 関節症, 骨嚢腫などがβ2-microglobulin (β2-MG) によるアミロイド症として一元的に説明されようとしている. まだ多くの不明な点が残されているが, 正常なβ2-MGは生理活性を示さず一連の病態を引き起こす主役ではないこと, 一方, 変性β2-MGは強い生理活性を持っており, 病態と関連するいくつかの生体反応が説明し得ることが明らかにされた. 長期透析症例の手術や剖検により得られたアミロイド組織より抽出されたβ2-MGは二次元電気泳動により, 正常のものに比べて, 等電点が酸性側にずれ, acidic β2-MGと呼ばれる. Normalとacidicのものを別々に分取して比較すると, acidic β2-MGは褐色に着色し, 蛍光を発することが明らかにされた. さらにMaillard反応の前期段階の生成物であるアマドリ転移生成物に対する抗体との反応性ではnormal β2-MGは反応しないが, acidic β2-MGは反応すること, また, 最終段階の生成物であるadvanced glycation end-products (AGE) に特異的に反応する抗体による検討においてもnormal β2-MGには反応せず, acidic β2-MGに反応することが明らかにされた. さらに, macrophageに対する走化性についてもnormal β2-MGにはその作用が見られなかったがacidic β2-MGには走化性が認められ, アミロイド組織周辺にmacrophageが多く認められる事実を良く説明している. 次に, macrophageにnormal β2-MGとacidic β2-MGを作用させたときのIL-1βとTNF-αの生成量をみるとnormalではほとんど見られないのに対してacidicのものでは著明な生成刺激が認められた. これらの事実から, AGE化したβ2-MGが-連の病態を引き起こす主因であろうと考えられるようになってきている. アミロイド生成機序, 骨破壊の機序, AGE化の機序, AGE化β2-MGの定量法の確立や構造決定など多くの事項が解明され, 予防・治療法の開発につなげることが望まれる.
  • 基礎的・臨床的検討
    上條 利幸, 佐藤 俊和, 柳沢 良三, 岸 洋一
    1994 年 27 巻 8 号 p. 1127-1132
    発行日: 1994/08/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    MRSA感染症に罹患した血液透析患者に対する塩酸バンコマイシン (VCM) の投与法を確立するため, 3種類の透析膜 (Cuprophan膜, High performance膜: EVAL膜, PEPA膜) を用いて基礎的および臨床的検討を加えた.
    基礎的検討ではVCM濃度を30-40μg/mlに調整した生理的食塩水および牛血を用いた2系を作製し, 経時的にVCMの除去率を検討した. 2系とも全透析膜にてVCMは透析された. 除去率は各透析膜で異なったが, High performance膜でより除去された. 特にPEPA膜ではCuprophan膜と比較すると有意に除去率が高かった (p<0.01).
    臨床的検討では, 慢性血液透析中のMRSA感染症患者5例に対し, 経時的にVCMの除去率を検討した. VCMは全透析膜にて透析され, 除去率は基礎的検討と同様, Cuprophan膜よりPEPA膜で有意に高かった (p<0.01). しかし全透析膜において臨床的検討での除去率は, 基礎的検討のものと比較すると有意に低かった (p<0.01).
    VCMは透析膜の種類により透析性が異なるため, 血液透析患者に対する投与は十分に留意する必要がある. 特にMRSA感染症をもつ血液透析患者への投与は, VCM有効血中濃度の維持が重要であり, 除去量に見合った透析後VCMの補充が必要である.
  • 高見沢 重隆, 太田 真, 佐藤 成明, 宇都宮 正範, 小野 益照, 斎藤 広重, 川口 良人, 酒井 紀
    1994 年 27 巻 8 号 p. 1133-1138
    発行日: 1994/08/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    透析患者における二次性副甲状腺機能亢進症の心臓に及ぼす影響を検討するため, 副甲状腺腫切除術 (PTX) 1年後の心機能および形態の変化を観察した.
    対象はPTXを施行したCAPD患者3例, HD患者11例と年齢, 性別, 透析期間に有意差を認めないCAPD患者4例, HD患者10例. PTX施行例では術前と1年後に, 対照例では維持期1年間にてMモード心エコー図法を用い, 心室中隔厚 (IVS), 左室後壁厚 (PW), 左室拡張末期径 (LVDd), 左室収縮末期径 (LVDs), 心筋重量係数 (LVMI), 心係数 (CI), 左室駆出率 (EF), 左室平均円周短縮速度 (mVcf), relative wall thickness (RWT) を計測し, 同時に心拍数 (HR), 収縮期血圧 (sBP), 拡張期血圧 (dBP), 心胸比 (CTR), またHt, c-PTH, Ca, Pも測定した.
    対照群においてはすべての指標で有意な変化を示さなかったのに対し, PTX施行例では1年後にEF, mVcf, RWTは変化しなかったが, IVS, PW, LVDd, LVMI, CIの低下を認めた.
    二次性副甲状腺機能亢進症例に行ったPTX 1年後に心筋厚と左室径は減少し, 過剰の副甲状腺ホルモンは遠心性心肥大作用に関与することが考慮された.
  • 川瀬 義夫, 細井 信吾, 伊藤 英晃, 山崎 悟, 近藤 守寛, 岩元 則幸, 平竹 康祐, 小林 裕之, 橋本 哲也, 福田 豊史, 田 ...
    1994 年 27 巻 8 号 p. 1139-1147
    発行日: 1994/08/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    血液透析 (HD) 患者・CAPD患者および健常者の血圧と心拍数 (HR) を, 携帯型自動測定装置を用いて30分間隔で48時間連続モニター (ABPM) した. 得られた時系列成績の変動型と変動周期を, 高速フーリエ変換 (FFT) を用いた周期回帰分析法にて群別に比較検討した. 健常者およびCAPD患者においては, 収縮期血圧 (SBP)・拡張期血圧 (DBP) はともに夜間に下降する規則正しい変動型を示し, 24時間の概日リズムは保たれていた. しかしHD患者の場合は, SBP・DBPの周期回帰曲線はいずれも透析日の夜には下降するものの非透析日の夜には下降せず, 午後11時頃から翌朝6時頃にかけて逆に上昇する特徴的なパターン (midnight surge) を示した. フーリエ変換にて得られた周期寄与率を検討した結果, HD患者の血圧は24時間周期ではなく48時間周期で変動しているものと考えられた. さらに, 一日尿量の減少および透析による除水量の増加に比例して48時間周期成分に対する寄与率の増加とmidnight surgeの明瞭化を認めたことより, HD患者の血圧変動周期の48時間への移行の原因は体液貯留と透析による短時間の除水であると結論された. 一方, HRの変動周期に関してはHD患者も他の群と同様に24時間の規則正しい変動周期を示し, 体液因子の影響をあまり受けないものと考えられた. しかし変動型に関しては回帰曲線の振幅の減弱化と夜間の最低心拍数の高値化を認め, 軽度の自律神経障害が示唆された. 最後に, 糖尿病 (DM) を有するHD患者のみを選び周期解析したところ, SBP・DBP・HRすべてにおいて24時間や48時間の周期成分は有意には検出されず12時間周期のみが検出された. このことはDMを有する患者は体液因子のみではなく, 自律神経因子も高度に障害されているためと推定された.
  • 高橋 博久, 太田 智, 黒川 純, 島田 肇
    1994 年 27 巻 8 号 p. 1149-1153
    発行日: 1994/08/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    移動困難な重症患者の透析を病室で行う目的で, 移動型のシングルパス透析装置を試作した. 本装置は市販の機器を組合わせた簡便な装置で, ダイアライザーへの透析液の供給回収にはダブルポンプを使用した. 熱交換器を用いて給廃液の温度差を最小にすることにより, バランス誤差を96%減少させることができた.
    透析液流量150ml/minでのBUNおよびクレアチニンのクリアランスは間欠的治療に必要十分な値を持ち, 55lの透析液にて6時間の治療が可能となった. さらに本装置は本体と透析液貯留タンクを分離したセパレート型のため, ベッドサイドで扱い易く, 移動も容易である.
  • 小野 満也, 小山 恒男, 山口 博, 佐藤 博司, 寺島 重信, 渡辺 俊一
    1994 年 27 巻 8 号 p. 1155-1158
    発行日: 1994/08/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    当院血液透析患者90例, CAPD患者14例, 計104例に対して上部消化管内視鏡を施行し, 当院人間ドック受診者の内視鏡所見6,623例を正常コントロール群として比較した. 透析患者80例に107の病変がみられ, 特に胃粘膜点状出血が19.2%と多く, 透析患者に特異的な所見と思われた. 胃癌は5例に認められた. 血液透析患者の正常群22例と点状出血群20例の比較では, 年齢, 透析歴, 透析前血清カルシウム値, 透析前血中β2ミクログロブリン値, KT/V, 動脈硬化度に差はみられなかったが, ステロイド・NSAID投与の有無では点状出血群が有意に高率であり, 点状出血へのプロスタグランジン抑制の関与が考えられた.
  • 谷津 勲, 朝倉 伸司, 名倉 正明, 福田 収, 横山 公要, 坂田 洋一, 浅野 泰, 目黒 輝雄
    1994 年 27 巻 8 号 p. 1159-1167
    発行日: 1994/08/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    透析時残血発生機序の検討の一つとして再生セルロース膜に吸着されるマトリックス蛋白質の動態および血液凝固反応の関与を検討した. 血液凝固反応に関しては血液凝固亢進の分子マーカーであるTAT複合体の変化を検討した. 合併症のない慢性腎炎より腎不全へ移行した安定した血液透析患者を対象とした. そのうち透析時残血の存する群 (残血群n=4), 残血のない群 (非残血群n=5) に分けてマトリックス蛋白質であるFbg, VNの透析時血漿中濃度の推移および透析器膜よりの50mM Tris HCl-1M NaCl, pH 7.4による溶出分画中の濃度, 分子パターンを検討した. TAT濃度に両群間で差はなくまた正常範囲内であり残血群でも血液凝固反応が進行している所見はない. このことより残血は血小板の膜への接着を中心とする一次止血機構に似た反応が推定された. マトリックス蛋白質であるFbgの血漿中濃度の推移は両群間で差は認められなかった. しかしVNの血漿中濃度の推移は残血群でより高値の傾向を示した. Immunoblotting法による分子パターンは大きな差は認められなかった. しかしながら透析器膜の1M NaCl-Tris buffered saline (TBS) による溶出分画中の蛋白質には他のマトリックス蛋白質に比しVNが多く含まれていた. またそのimmunoblotting法による分子パターンではVN-multimerが残血群でより多く認められた. この溶出分画中にはFibrinおよびFibrin-bound FNは認められなかったことから, このVN-multimerはFibrin由来とは考えられず, 従って残血の結果生じたものではなく, むしろ残血発生の原因の一つと考えられた. これらの結果より透析時残血発生機序の一つとしてVN-multlmerが強く関与していることが推定された.
  • 新田 孝作, 湯村 和子, 大図 弘之, 寺田 嘉文, 沖本 錦吾, 大場 孝, 宮島 さや子, 蒲谷 堯, 二瓶 宏
    1994 年 27 巻 8 号 p. 1169-1172
    発行日: 1994/08/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    血液透析導入後の各時期における心機能を心エコーにより評価するのを目的とした. 適切な標準体重の設定にもかかわらず, 3か月間以上にわたって心胸郭比 (CTR) の拡大を伴う慢性血液透析患者を対象とした. 透析継続期間によりA群 (1年以上, 5年未満), B群 (5年以上, 10年未満) およびC群 (10年以上) に分け, Mモード心エコー法により心機能を, ドップラー法で僧房弁および大動脈弁疾患の有無を検討した. 体重増加率, 平均血圧とCTRに関しては各群間で有意差はなかった. 心電図のV1S+V5Rから算定した左室肥大の程度はA群に比し, C群で有意に増大していた. 心機能では, A群に比しC群で左室拡張末期径が低下し, 駆出率は増加していた. 心室中隔>15mmおよび左室拡張末期径<50mmの肥厚型心筋症タイプの割合が透析年数が進むにつれ増加した. この肥厚型心筋症タイプの症例には僧房弁および大動脈弁閉鎖不全を合併する頻度が高かった. このように, 透析年数とともに左室収縮能は改善傾向を示すにもかかわらず, 肥厚型心筋症タイプの合併が増加するため, 心エコーによる経時的観察と適切な治療が望まれる.
  • 浜本 龍七郎, 福岡 秀興, 大林 誠一, 石田 俊彦, 高原 二郎
    1994 年 27 巻 8 号 p. 1173-1179
    発行日: 1994/08/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    女性慢性腎不全患者 (F-CRF) においては, しばしば高プロラクチン血症を惹起することが知られているが, 本研究においてはF-CRFにおける血清プロラクチン (PRL) の分子多様性の特性と高PRL血症を惹起した症例の臨床的特徴の関連を血液透析 (HD) 導入前後にて検討した. 対象はF-CRF 80名で, そのうち65名はHD患者である. PRL分画は, 血清をSDS単独処理したものおよび2-mercaptoethanol (β-ME) とSDS添加65℃ 15分間加熱処理したものをSDS-PAGEで泳動しWestern blottingにて各分画を比較した. 血清PRL値は80名中53名が高値を呈したが, 乳汁漏出例は少なかった. HD導入前および導入後は血清PRL値は, 血清クレアチニン (s-Cr) 値と正の相関が認められたが, HD歴には反比例して低下した. PRL分画は高分子 (53-140K daltons), 中間分子 (23.5-28Kd) よりなる分子多様性を示し, 高分子域の分画, 特にβ-ME resistant dimerが多かったが, HD前後ではそれらの分画は変化しなかった. これらのことからF-CRFでは, 高PRL血症にもかかわらず乳汁漏出が少ない理由として, PRL分画で高分子域の分画が多く中間分子域の分画が少ないことより, 乳汁漏出を誘起する分画は中間分子のうちのペプチド分画であることが推察された.
  • 垣本 滋, 前川 直文, 近藤 厚, 中島 正洋, 岸川 正大
    1994 年 27 巻 8 号 p. 1181-1184
    発行日: 1994/08/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    長期透析患者において腎摘出術後, 同部に陳旧性血腫を内容物とする後腹膜仮性嚢腫を経験したので報告する. 症例は71歳, 昭和56年12月より血液透析を開始. 昭和58年6月右腎瘻より多量の出血をきたしたため右腎摘出術を施行した. 術中, 術後を通じ多量の出血を認めたが以後比較的順調に経過した. 平成2年7月頃より右側腹部に腫瘤を触知, 以後徐々に腫瘤は増大したため平成5年7月当科入院. 超音波検査, CT, MRI等の画像所見では腫瘤は10×7×7cm, 内部が不均一な軟部組織密度を呈する腫瘤で壁に石灰化を認めたが確定診断はつけられなかった. 同年7月全身麻酔下に右後腹膜腫瘍摘出術を施行した. 摘出した腫瘤は454g, 12.5×8.5×5.5cm, 骨様の硬い被膜で被われており, 内容はチョコレート様の旧い凝血塊であった. 嚢胞壁には上皮成分は認めず, 陳旧性血液を内容とする後腹膜仮性嚢腫と診断した.
  • 加藤 明彦, 菱田 明, 中島 敏晶, 大竹 剛靖, 古谷 隆一, 新井 隆巳, 熊谷 裕通, 木村 正人, 金子 榮蔵
    1994 年 27 巻 8 号 p. 1185-1188
    発行日: 1994/08/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    症例は51歳, 女性. 1990年に糖尿病性腎症によりCAPDに導入された. 塩酸マニジピン20mg/日の投与にても高血圧の改善がみられないため, 塩酸マニジピンを40mg/日に増量したところ, 翌日にCAPD排液が白濁した. 排液中のカイロミクロン値25mg/dl, 中性脂肪値29mg/dlと増加していたことより塩酸マニジピンによる乳糜腹水と診断した. 白濁は内服の中止により半日後に自然軽快した. 白濁時, 限外濾過量の増加とともに, IgG/ureaクリアランス比が上昇し, 大分子の透過性が増加していた. 排液中のNO2-濃度の増加はなく, カイロミクロンの増加がみられたことより, 排液白濁に塩酸マニジピンによるリンパ管拡張作用が関与する可能性があると思われた.
  • 山田 秀生, 石井 裕, 松浦 裕, 籏原 照昌
    1994 年 27 巻 8 号 p. 1189-1191
    発行日: 1994/08/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    今回我々はCAPD再導入に際し好酸球性腹膜炎が再発した症例を経験した. 症例は54歳男性, 糖尿病性腎症による慢性腎不全のため血液透析導入となるもシャントトラブルを起こしCAPDに変更するため入院となった. 導入数日後より排液の混濁を認めるも臨床症状はなく, 排液の培養は陰性であった. しかし排液中の細胞数は300-400/μlで, 細胞分画では60-84%の好酸球を認め好酸球性腹膜炎と診断, 3週後には自然治癒し退院となった. その後緑膿菌による難治性腹膜炎を起こしたため再入院しカテーテル抜去, 一時血液透析とし, 2か月後CAPDを再開したところ好酸球性腹膜炎の再発を認めたが, 1週後には自然治癒した.
    本例は好酸球性腹膜炎が再発性であることを証明した貴重な症例であり, このことは今後この疾患の病因を考えていく上で重要なことであると考えられる.
  • 草場 照代, 山口 耕一
    1994 年 27 巻 8 号 p. 1193-1197
    発行日: 1994/08/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    第4回開発途上国派遣専門家研修において, フィリピン, タイ, バングラデシュの末期腎不全治療の現況について調査した.
    フィリピンにおける末期腎不全の主治療法は腎移植であった. フィリピン国立腎センターにおいては, 年間100例前後の移植が行われていた. 血液透析, 腹膜透析は移植のための一経過にすぎず, 原則として維持透析は行われていなかった.
    タイでは維持透析が行われており, バンコク市内には民間透析施設が2個所あり, それぞれ10人から20人の慢性腎不全患者が通院していた. タイの末期腎不全の主な治療法は腎移植であった.
    バングラデシュでは, この国で一番高度な治療・研究が行われている国立卒後医学研究所に透析部門があったが, 患者監視装置は6台で, 安全な水の供給が困難な様子であった.
    フィリピン, タイ, バングラデシュ, 3か国の末期腎不全の主治療法は腎移植であった. これは主に経済的な理由によるものと考えられた.
    日本の国際医療協力としてはそれぞれの国の発展度により異なってくるが, 一般論としては, (1) 腎疾患の実態を的確に把握する体制の整備, (2) 尿スクリーニング体制の確立, (3) 腎疾患予防教育, などが考えられる. このうち一つを挙げるとすれば, フィリピンに対しては (1), タイには (2) と (3) または血液浄化法の技術協力, バングラデシュは腎疾患対策以前の衛生環境の整備であろう. 相手国の実情に最も適した協力が重要であると考えられる.
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