日本透析医学会雑誌
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54 巻, 9 号
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委員会報告
原著
  • 寒川 昌平, 松浦 明日香, 須賀 裕希, 寒川 由衣, 小島 環生, 中村 仁
    2021 年 54 巻 9 号 p. 433-439
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/28
    ジャーナル フリー

    透析患者は慢性的に酸化ストレスが高く,この酸化ストレスは,透析患者の炎症反応を亢進し,さまざまな合併症の発症や重篤化との関連が指摘されている.今回,水素ガス吸入法による水素ガスの摂取が透析患者の酸化ストレスに及ぼす影響を検討した.対象は,血液透析患者6名で,酸化ストレス,抗酸化力およびC反応性蛋白(c‒reactive protein: CRP)を評価指標とし,酸化ストレスおよび抗酸化力は,活性酸素代謝物(diacron‒reactive oxygen metabolites: d‒ROMs)および生物学的抗酸化力(biological antioxidant potential: BAP)を測定することで評価した.透析患者は,透析開始の5~10分前に水素ガス吸入を開始し,透析終了後も5~10分間は水素ガス吸入を続けた.なお,水素ガス吸入は,透析機会6回(2週間)連続で行い,その後は通常の透析に戻して,効果の持続性も検討した.透析中の水素ガス吸入により,被験者の酸化ストレスの平均値が433 U.CARRから395 U.CARRに減少し,CRPは1.05 mg/dLから0.61 mg/dLに減少した.さらに,水素ガス吸入を中止した後も効果は持続し,酸化ストレスは349 U.CARRに減少し,CRPは0.42 mg/dLに減少した.水素ガス吸入は簡便かつ安価であり,小規模の透析施設や在宅透析の患者でも実施しやすく,多くの透析治療の場面で合併症予防や予後改善の効果が期待できる.

  • 大坪 茂, 青山 有美, 木下 香代子, 若林 頌太, 大坪 由里子
    2021 年 54 巻 9 号 p. 441-448
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/28
    ジャーナル フリー

    【目的】COVID‒19血液透析患者の特徴を検討した.【方法・対象】COVID‒19罹患血液透析患者33例と,罹患非透析患者174例を対象とし,臨床経過を比較し,透析患者において重症化群と非重症化群を比較した.【結果】透析患者では44.4%にステロイド治療を施行し,非透析患者13.3%に対し高率であった(p<0.001).透析患者の解熱までの期間は10.3±3.2日と非透析患者8.0±3.6日に対し長期であった(p=0.034).透析患者はPCR陰性化するまで31.1±7.3日と非透析患者21.7±4.4日に対し長期で(p=0.016),12.1%の死亡を認め予後が不良であった(p<0.001).死亡4例中,血栓症疑いを2例に認めた.重症化群でCRP,白血球,D‒ダイマーは高値,リンパ球の割合は低値であった.【結語】血液透析患者のCOVID‒19は解熱,PCR検査陰性化するまで時間がかかり,予後不良である.血栓による急変に注意が必要で,白血球,D‒ダイマーが高値,リンパ球割合が低値の症例は重症化に注意が必要である.

  • 吉井 隼, 野地 剛史, 勝野 渉, 田村 茉央, 長谷川 美帆, 遠藤 匠, 森末 明子, 青木 敏行, 横内 到, 杉 薫, 渡邉 紳一 ...
    2021 年 54 巻 9 号 p. 449-455
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/28
    ジャーナル フリー

    維持血液透析(HD)患者における足趾上腕血圧比(TBI)の予後予測因子としての有用性は不明である.本研究では足関節上腕血圧比(ABI),TBI,皮膚灌流圧(SPP)を検査した157名のHD患者の5年後の生存の有無と因子を用いて予後因子解析を行った.Cox proportional hazards modelを用いた検定の結果,TBIは独立予後因子であった(p<0.001).また死亡予測のROC曲線では,TBIのcut off値が0.56,曲線下面積はTBI 0.91で予測能が最も高かった.算出されたTBIのcut off値を用いてTBI≧0.7群,0.7>TBI≧0.56群,TBI<0.56群およびZero TBI sign群に分類した結果,0.7>TBI≧0.56群の生命曲線はTBI≧0.7群と差がなかった.また,TBI<0.56群が0.7>TBI≧0.56群よりも有意に低く(p<0.001),Zero TBI sign群はTBI<0.56群よりも有意に低かった(p=0.020).TBI≧0.56群の死因には心血管疾患を認めなかったが,TBI<0.56群,Zero TBI sign群でその死因が4割を占めていた.HD患者においてTBIはABIおよびSPPより予後予測因子として有用であった.

  • ―血液透析前後のイオン化カルシウム濃度と血清総カルシウム濃度の関係―
    桑原 隆, 王 麗楊, 谷野 彰子, 山田 佐知子
    2021 年 54 巻 9 号 p. 457-463
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/28
    ジャーナル フリー

    【目的】血液透析(HD)患者のカルシウム(Ca)濃度評価に適したCa値はイオン化Ca(iCa),総Ca(tCa),アルブミン(Alb)補正Caいずれかを検討する.【方法】HD患者43名に透析前後の総Ca,K/DOQI‒1式からAlb補正Ca(KDOQI‒Ca),tCaに対するpH補正iCa(pH‒iCa)の割合(Caイオン化率:CaIR)からのAlb補正Ca(CaIR‒Ca)とpH‒iCaの関係を求めた.【結果】HD前/後のAlbとCaIRの関係は,-0.011*Alb+0.558(r=0.199,p>0.2)/-0.031*Alb+0.655(r=0.720,p<0.0001)であり,HD前/後のpH‒iCaとtCa,KDOQI‒Ca,CaIR‒Caの相関係数(r)は,0.862,0.846,0.859/0.482,0.460,0.282であった.HD後のpH‒iCaとtCaの関係の減弱はHDによるCa結合Alb濃度の上昇が透析液から血漿へのiCa移動を妨げるため生じたと思われる.【結論】HD前のCa濃度評価は,iCa,tCa,KDOQI‒Ca,CaIR‒Caいずれでも良いが,HD後のCa濃度評価にiCaは適さない.

症例報告
  • 山口 奈保美, 金田 幸司, 木本 美由起, 末永 裕子, 大野 絵梨, 内田 英司, 福長 直也, 柴田 洋孝
    2021 年 54 巻 9 号 p. 465-470
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/28
    ジャーナル フリー

    症例は65歳男性.糖尿病性腎症による末期腎不全に対して腹膜透析を導入した.導入から半年後にESA(erythropoiesis stimulating agent)低反応性貧血を呈するようになり,精査にて胃に生じたangiodysplasiaからの出血を認めた.内視鏡的止血術後,貧血コントロールは改善していたが,加療から8か月後に再度胃のangiodysplasiaからの出血を生じ貧血の進行を認めた.内視鏡的止血術を行い,数日後のフォローアップにて,胃の他部位にangiodysplasiaからの出血を認め再度止血術を要した.それから4か月後に真菌感染が疑われた難治性腹膜炎を発症し血液透析へ移行したところ,以降は消化管出血を起こさずに経過している.末期腎不全患者において,消化管のangiodysplasiaからの出血は療法別では腹膜透析より血液透析症例の割合のほうが多いが,本症例においては腹膜透析から血液透析へ移行したことがangiodysplasiaからの再出血を防ぐことに繋がった可能性がある.

  • 渡邉 崇量, 内藤 順子, 岡田 英志, 大城 夢乃, 新美 香織, 吉田 学郎, 村田 一知朗, 柚原 利至, 増田 悠人, 遠藤 奨, ...
    2021 年 54 巻 9 号 p. 471-479
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/28
    ジャーナル フリー

    症例は70歳男性.6年前に腹部大動脈瘤人工血管置換術,冠動脈形成術,5年前に脳動脈瘤コイル塞栓術の既往がある.今回,食欲不振を主訴に受診し血液検査にて急激な腎機能低下を指摘され当院紹介入院となった.両足底・足趾に紫斑を多数認め,コレステロール結晶塞栓症(CCE)が疑われた.第2病日よりスタチン投与とステロイド投与を開始したが腎機能の改善はみられず,第4病日より血液濾過透析を開始した.その後の皮膚生検と腎生検の結果CCEと確定診断した.第10病日よりLDL吸着療法を開始した.以後腎機能は徐々に回復し第30病日に血液濾過透析を離脱できた.その後小腸穿孔を3回発症し2回の手術を必要としたが,結果的にCCEによる急激な腎機能増悪と繰り返す小腸穿孔に対する外科手術後に,ステロイド投与とLDL吸着療法による積極的脂質降下療法の併用により3か月以上生存することができた稀な1例を経験したため報告する.

  • 山本 遼, 甲斐田 裕介, 久保 沙織, 岩谷 龍治, 柴田 了, 奥田 誠也, 深水 圭
    2021 年 54 巻 9 号 p. 481-488
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/28
    ジャーナル フリー

    69歳の男性.X-1年7月に膀胱腫瘍と左腎盂腫瘍傍大動脈リンパ節転移と診断され,膀胱腫瘍切除術と化学療法が施行された.X年5月に左腎盂腫瘍再発と傍大動脈リンパ節腫大を認め,ペムブロリズマブ(Pembro)が開始され,7月12日に2回目の投与を行った.投与開始時,血清クレアチニン(Cr)が1.4 mg/dLであったが,8月3日にはCr: 10.4 mg/dLと急性腎障害(AKI)を認め当科入院となった.入院第1病日には乏尿と代謝性アシドーシス増悪を認め血液透析(HD)を行った.AKIの原因はPembroによる薬剤性と考えた.第7病日からプレドニゾロン(PSL)50 mgを開始し,第21病日にはCrは2.27 mg/dLまで改善した.その後,PSLは漸減中止したが,腎機能増悪は認めていない.今回,PembroによりHDを要するAKIを発症し,副腎皮質ステロイド薬が著効した貴重な症例を経験したため報告する.

  • 岡島 真里, 小野田 教高, 佐藤 香織, 古賀 美登里, 小川 晃生, 金井 弘次, 野辺 香奈子, 元 志宏, 池田 直史
    2021 年 54 巻 9 号 p. 489-494
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/28
    ジャーナル フリー

    62歳男性,19年3か月間の血液透析歴がある.約1か月間,食思不振と下痢が続いていた.血液透析時に発熱と血圧低下があったため当院へ紹介入院となった.血液検査で高カルシウム血症(補正Ca 11.8 mg/dL),低血糖,好酸球増多を認めた.沈降炭酸カルシウム内服と透析後のマキサカルシトール静脈注射を中止した上で,感染症を疑い抗生物質を開始した.追加した検査でACTH<1.5 pg/mL,コルチゾール0.4μg/dLと判明し,続発性副腎皮質機能低下症と診断した.ヒドロコルチゾンの補充を開始したところ,症状は改善,血清カルシウム濃度,低血糖,好酸球増多も改善した.透析患者では慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD‒MBD)管理にカルシウム含有リン吸着薬やビタミンD製剤を使用することがしばしばある.これらの影響を否定し,副腎皮質機能低下症と診断するまでに時間を要した.貴重な症例であり報告する.

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