透析中に下肢静脈還流を促進させ,下肢静脈還流の透析低血圧症に対する予防効果について検討した.対象は維持血液透析患者19例(男性10例,女性9例)とし,静脈還流の促進には逐次型空気圧式マッサージ器による下腿型間欠的空気圧迫法(下腿空気圧迫法)を用いた.対象には四つの実験条件を課し,対照とした条件と下腿空気圧迫法を施行した各条件とを比較検討した.実験条件の内訳は,条件(1)を対照,条件(2)を40mmHg,30秒間隔の下腿空気圧迫法,条件(3)を60mmHg,5秒間隔の下腿空気圧迫法,条件(4)を患者の静脈還流速度に合わせた自動調節の下腿空気圧迫法とした.測定項目は,血圧変化率,循環血液量変化率(ΔBV),感覚変化(下肢温感と軽快感),経皮酸素分圧(tcPO
2),尿素窒素(UN)とクレアチニン(Cr)の除去率・クリアスペース,および気分評価尺度(POMS)とした.検討の結果,透析中の血圧変化率は,対照の条件(1)のみが透析後半に有意な低下を示し(p<0.001),静脈還流を促進した条件(2)(3)(4)では低下を認めなかった.ΔBVも血圧変化と一致する傾向を示したが,条件(4)は条件(1)と類似した傾向を示した.温感と軽快感の視覚評価尺度(VAS値)は,条件(2)(4)において透析前と比較し透析後(p<0.001)と帰宅後(p<0.05,p<0.01)で有意な改善がみられた.tcPO
2は全条件で透析後半に低下傾向を示したが,条件(1)と条件(2)(3)(4)の間には有意差を認めなかった.UNとCrの除去率は各条件間で差を認めず,クリアスペースではCrにおいて条件(3)が条件(1)よりも有意に高値を示した(p<0.05).POMSは,「抑うつ-落ち込み(D)」と「怒り-敵意(A-H)」の尺度で,条件(2)が条件(1)と比較して有意に低値を示した(p<0.05).本法は即効性には乏しいものの,透析中の持続的な効果により透析低血圧症の発症を低減させ得る可能性がある.
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