日本透析医学会雑誌
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44 巻, 11 号
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第56回日本透析医学会シンポジウムより
原著
  • たんぱく質・エネルギー消費状態(PEW)の視点から
    安武 健一郎, 西山 愛美, 本村 しほみ, 片山 正哉, 力武 修, 伊藤 孝仁
    2011 年44 巻11 号 p. 1077-1084
    発行日: 2011/11/28
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    維持血液透析患者(HD患者)における,たんぱく質・エネルギー消費状態(protein-energy wasting:PEW)は,重要な栄養問題のひとつである.PEWの予防や治療には,適切な栄養素摂取量の評価を実施することが必要である.本研究では,HD患者の栄養素摂取量を横断的に調査し,健常者との比較,慢性腎臓病の食事療法基準値内で管理できている割合の評価およびエネルギーとたんぱく質の摂取量によるカテゴリー化により,PEWの高リスク者の実態を把握することを試みた.対象は,佐賀県と兵庫県の医療機関に通院中の外来HD患者160名,および佐賀県内在住の健常者80例である.栄養調査の方法は,簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)を使用した.その結果,健常者との比較では,解析対象であるすべての栄養素において,HD患者が有意に低値であったが,脂質エネルギー比はHD群が健常者よりも有意に高値であった.HD患者がCKD食事療法基準値の範囲内である割合は,エネルギー45.6%,たんぱく質16.2%,食塩32.5%,水分18.8%,カリウム63.1%,リン80.6%であり,大多数の患者で栄養素の不適切摂取を呈していた.さらに,栄養素摂取量によるカテゴリー化では,エネルギーかつたんぱく質が正常であった割合が13.7%と低値である一方,エネルギーかつたんぱく質が不足した割合は40.0%,たんぱく質のみが不足した割合は20.6%であった.以上より,HD患者にはPEWの高リスク者が高頻度に存在したことから,栄養管理においては,適切に栄養素摂取量を評価し,教育効果の高い栄養食事指導の実施が必要と考えられた.
  • 人見 泰正, 衣川 由美, 林 道代, 鳥山 清二郎, 稲葉 光彦, 佐藤 暢, 藤堂 敦, 西垣 孝行, 水野(松本) 由子
    2011 年44 巻11 号 p. 1085-1093
    発行日: 2011/11/28
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    透析中に下肢静脈還流を促進させ,下肢静脈還流の透析低血圧症に対する予防効果について検討した.対象は維持血液透析患者19例(男性10例,女性9例)とし,静脈還流の促進には逐次型空気圧式マッサージ器による下腿型間欠的空気圧迫法(下腿空気圧迫法)を用いた.対象には四つの実験条件を課し,対照とした条件と下腿空気圧迫法を施行した各条件とを比較検討した.実験条件の内訳は,条件(1)を対照,条件(2)を40mmHg,30秒間隔の下腿空気圧迫法,条件(3)を60mmHg,5秒間隔の下腿空気圧迫法,条件(4)を患者の静脈還流速度に合わせた自動調節の下腿空気圧迫法とした.測定項目は,血圧変化率,循環血液量変化率(ΔBV),感覚変化(下肢温感と軽快感),経皮酸素分圧(tcPO2),尿素窒素(UN)とクレアチニン(Cr)の除去率・クリアスペース,および気分評価尺度(POMS)とした.検討の結果,透析中の血圧変化率は,対照の条件(1)のみが透析後半に有意な低下を示し(p<0.001),静脈還流を促進した条件(2)(3)(4)では低下を認めなかった.ΔBVも血圧変化と一致する傾向を示したが,条件(4)は条件(1)と類似した傾向を示した.温感と軽快感の視覚評価尺度(VAS値)は,条件(2)(4)において透析前と比較し透析後(p<0.001)と帰宅後(p<0.05,p<0.01)で有意な改善がみられた.tcPO2は全条件で透析後半に低下傾向を示したが,条件(1)と条件(2)(3)(4)の間には有意差を認めなかった.UNとCrの除去率は各条件間で差を認めず,クリアスペースではCrにおいて条件(3)が条件(1)よりも有意に高値を示した(p<0.05).POMSは,「抑うつ-落ち込み(D)」と「怒り-敵意(A-H)」の尺度で,条件(2)が条件(1)と比較して有意に低値を示した(p<0.05).本法は即効性には乏しいものの,透析中の持続的な効果により透析低血圧症の発症を低減させ得る可能性がある.
  • ―体格と栄養素等摂取量の推移―
    武政 睦子, 市川 和子, 佐々木 環
    2011 年44 巻11 号 p. 1095-1102
    発行日: 2011/11/28
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    日本の慢性透析者数は年々増加し,25年以上の長期継続患者は総透析患者の3.8%を占めている.長期透析患者は低栄養状態に陥ることが多く報告され,その改善のための適切な栄養管理が必要とされる.本研究は,25年以上継続している透析患者48名(男性:25,女性:23)を対象とし血液透析導入時,導入後15年経過した時点および25年経過した時点の身体状況,栄養素等摂取量および血液生化学検査を同一患者で追跡調査し,その栄養学的特徴を明らかにした.同時に研究期間と同時期かつ対象者と同年代である「国民健康・栄養調査」結果と比較し,透析患者特有の栄養学的特徴・問題点を検討した.今回の研究の25年継続している透析患者の栄養学的特徴は,三つあげられた.(1)体格が小さくなるがBMIは約20kg/m2を保っている,(2)エネルギーとたんぱく質摂取量は減少したが,これは透析患者だけに限られたものではない,(3)CKD食事療法基準に比べエネルギーとたんぱく質摂取量は少ないが,日常生活動作は,時々介助が必要だが自分に必要なことは自分でできている.しかも血清カルシウム・リンのコントロールに効果的である.今回の研究で注目すべき点は,エネルギーとたんぱく質摂取量は低下し「慢性腎臓病に対する食事療法基準(2007)」を下回っていたが,血清Alb値は3.8±0.3g/dL,カルノフスキー活動スケール値は80.8±10.3であり,自分に必要なことは自分でできる日常生活動作が保たれていた点である.25年間透析療法を継続している患者の栄養学的特徴の解析から,今後の透析患者の栄養管理における重要な情報・課題が抽出された.
短報
透析看護
  • 黒澤 知加子, 菅谷 美子, 猪鼻 彩水, 萩島 美奈子, 大竹 奈穂子, 高野 典子, 池本 利永子, 藤枝 優子, 青木 りえ子, 矢口 ...
    2011 年44 巻11 号 p. 1107-1111
    発行日: 2011/11/28
    公開日: 2011/12/27
    ジャーナル フリー
    穿刺技術を向上させミスなく穿刺をすることは,バスキュラーアクセスの良好な管理に重要である.当院では3年前より,穿刺ミスを少なくする取り組みを行ってきた.今回,1年間の内シャントの穿刺ミスについて頻度,原因,発生状況を調べた.調査期間は2010年1月~12月で,当院でのすべての内シャント穿刺を対象とした.穿刺ミスの調査にはミスを記入するノートを活用した.穿刺ミスはA,V側のいずれか一方でも1回目の穿刺に失敗した場合を穿刺ミスと判定し,発生時期により,(1)連続ミス,(2)1週間以内のミス,(3)散発ミスの三つに分類した.1年間の内シャントを使用した透析回数は15,101回であり,その内,穿刺ミスをした透析回数は215回で1.4%であった.穿刺ミスが少なかった要因として,以前より行ってきた穿刺ミスに対する取り組みの効果が考えられる.分類別では,連続ミスは15回(7%),1週間以内のミスは19回(9%),散発ミスは181回(84%)で,散発ミスが大部分であった.連続ミス,1週間以内のミスは少なかったが,これは次の透析日の朝の申し送りでミスの内容をスタッフに報告していることと,穿刺ミスノートに全てのミスの内容を具体的に記入したことが影響していると思われる.また,穿刺ミスの大部分を占める散発ミスの発生には,穿刺者の集中力の低下が大きく関係していると思われた.穿刺者が集中力を失わないことで,さらに散発ミスを減らせる可能性があると思われる.
Letter to the Editor
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