炭酸ランタン(L)とスクロオキシ水酸化鉄(S)のリン吸着効果と,制酸薬内服によるその変動について明らかにするため,本法人4施設の維持血液透析患者163名を対象として調査した.2017年4月1日から2019年12月31日の間に,前述2種類の薬剤いずれかを内服開始・増量した症例を対象とし,背景因子と薬剤変更前後の血清リン濃度の変化量を調査した.S開始・増量群では副作用による内服中止症例が多かったが,250 mgあたりのリン低下量はLに比して有意に大きかった.両薬剤の250 mgあたりのリン変化量を制酸薬の有無で比較すると,Lでは制酸薬内服症例の変化量が非内服症例の約66%と有意に小さかったが,Sでは有意差を認めなかった.Lのリン低下効力は制酸薬による胃内pH上昇で減弱するが,Sでは減弱しないことが示唆された.制酸薬内服患者におけるリン吸着薬の選択や結果の解釈には十分な注意が必要である.
当施設に通院して外来維持透析を行っている血液透析患者128例と健常者30例を対象に,食塩濃度を調整した食塩含浸濾紙を用いて患者の塩味感度を検査したところ,健常者は全例正常塩味認識であったが,血液透析患者は42例(32.8%)(中等度塩味認識障害16例,高度塩味認識障害26例)が塩味認識障害と判定された.塩味認識障害と判定された21例の患者に透析ごとに10分間,嚥下体操と唾液腺マッサージを繰り返し実施してもらったところ,1か月後に11例(52.4%),3か月後に15例(71.4%)の患者が正常塩味認識に改善した.しかし,透析間体重増加率と食塩摂取量については有意な変化はみられなかった.
【目的】開心術後急性期に持続的血液濾過透析(CHDF)の欠点である24時間透析を8時間まで減じた影響と臨床的利用可能性について検討した.【方法】術前左室駆出率が55%未満の23例を対象とし,術後急性期3日間の腎代替療法として,通常の血液濾過透析(H群)とCHDFの透析時間を8時間に短縮したL群に分け,右室駆出カテーテルを用いて右心パラメーターから透析時の血行動態を評価した.【結果】L群では,術前ドライウェイトに対する除水量が多く,右室拡張末期容積の低下が緩徐で,心係数の低下も少なく,20%以上の血圧低下割合が低かった.クレアチニン値やカリウム値は若干高めだが,許容範囲内であった.【結語】透析効率を犠牲にして,CHDFを8時間に減じても,右室容積などのパラメーターの変化が緩徐なことから,体液および溶質の除去が安全かつ十分に可能で,8時間でも利用可能な手段と考える.
症例は867 gで出生した男児,日齢50日に壊死性腸炎を発症,開腹手術を行った.術後から敗血症に陥り,循環動態の維持が困難となった.小児・新生児SIRS基準のうち,①心拍数180回/分を超える頻脈である,②白血球数5,000/μLを下回っている,の2つを満たし,さらに血中のエンドトキシン濃度は2,000 pg/mL以上であり,エンドトキシン吸着(polymyxin B immobilized fiber column direct hemoperfusion: PMX‒DHP)の適応用基準を満たしていたことから,手術第5病日にPMX‒DHPを施行した.その結果,循環動態の改善および,血中のエンドトキシン濃度の低下といった有効性を確認,明らかな有害事象なく安全に実施できた.超低出生体重児に対するPMX‒DHPの報告は極めて少なく,その施行方法は各施設において工夫がなされている.今回われわれは,「体外循環による新生児急性血液浄化療法ガイドライン」を基に,既存の回路を加工せず,PMX‒DHPを安全に施行した症例を経験したため,若干の文献的考察を含めて報告とする.
85歳,男性.前立腺癌に対して抗アンドロゲン剤であるアパルタミドの内服を開始した.内服開始50日後に全身に皮疹が出現し,38℃台の発熱を認め皮膚科に紹介となった.アパルタミドによる中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis: TEN)の診断で入院となり,ステロイド内服での治療を開始した.第27病日ごろより全身の淡いびまん性紅斑の新生を認め,血漿交換療法を計8回施行したところ,皮膚病変の緩やかな改善を認めた.TENは多くの場合薬剤が原因とされ,非常に死亡率の高い疾患である.血漿交換療法については,病状の進行を抑制することから有用とする報告が多くみられる.また,アパルタミドは臨床試験において,とくに日本人に高頻度に皮疹を合併することが知られている.アパルタミドの普及により,本例のような重症型薬疹も今後増加する可能性がある.病因の解明のため,今後の研究が望まれる.
48歳男性.慢性腎不全で維持透析中.2021年4月に突然の疼痛を伴うシャント閉塞をきたしたため緊急VAIVTを施行.吻合部から肘部までの広範囲の血栓に対して血栓溶解を施行.造影で明らかな狭窄を認めず,残存血栓もない状態で終了した.同日の血液透析中に血栓性閉塞を再発した.翌々日にVAIVTを施行し,残存血栓や狭窄がないことを確認し,その後抗凝固剤ヘパリンを増量して透析を行うも回路内凝固をきたしたため入院となり同日中に閉塞した.入院時に明らかな呼吸器症状はなかったが肺炎像を認め,SARS‒CoV‒2を検出したため中等症COVID‒19と診断した.異常な血栓形成を伴うCOVID‒19症例では呼吸器症状が伴わない症例が散見される.明らかな狭窄のない血栓性シャント閉塞をきたした症例においてはCOVID‒19も鑑別疾患の一つとなりうると思われた.
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は緊急に治療を必要とする致死的疾患である.TTPの診断基準はADAMTS13活性10%未満が必須であるが,結果が判明するまでに時間を要するため,病状によっては結果を待たずに治療を開始する必要がある.今回,後天性TTPに対し速やかに血漿交換を行うも急激な経過をたどり死亡した1例を経験したため報告する.症例は47歳の男性.感冒症状出現から約1週間後にCr 3.37 mg/dLと高度の腎機能低下とともに,血小板減少,破砕赤血球を認めた.TTPを強く疑い,第2病日に血漿交換を施行するも意識障害が出現,ステロイドパルス療法を行った.第3病日の血漿交換開始直後に心停止となり,心肺蘇生を行うも死亡した.剖検では心筋の心外膜側および細小血管内に多発血栓と周囲の出血を認めた.原因不明の急性腎不全や血小板減少の際は常にTTPの可能性を考え,可及的早期に集学的治療を行う必要がある.
【目的】イオン選択性電極(ISE)法での血清イオン化Ca(iCa)の測定は3から4時間以内にすべきとされる.全血ガス分析検査で3時間超の遅延がiCa測定に及ぼす影響を検討した.【方法】血液透析(HD)患者43名に,透析前バランスヘパリンコートシリンジを用い内シャントより全血2 mL採血し,速やかにガス分析検査を行った.検体を常温で3.5時間放置後再びガス分析検査を行った.【結果】3.5時間放置によりpHは7.375から7.304,HCO3は20.20から19.91,Base Excess(BE)は-4.38から-6.1に有意(いずれもp<0.001)に下降し,pCO2は35.39から40.81,Lactateは1.32から3.02と有意(いずれもp<0.001)に上昇,lactic acidosisを呈した.AcidosisにもかかわらずiCaは1.13から1.12(p<0.03),pH補正iCaは1.12から1.08(p<0.001)に低下した.【結論】全血検査の測定時間遅延は,乳酸の増加,pHの低下,pH補正iCa濃度の低下を惹起する.
健常者および血液透析患者に対し新型コロナウイルスワクチン2回接種後の中和抗体価を測定した.健常者に比べ血液透析患者では有意に中和抗体価が低く,抗体非陽性例も認められた.透析患者は免疫反応が低下しており,ワクチンの効果が十分に期待できない場合もあると考える.ワクチン接種後の中和抗体価測定が感染リスク評価に繋がることを期待したい.