症例は60歳, 女性. 1986年12月9日慢性糸球体腎炎による慢性腎不全と診断され, 持続腹膜透析 (CAPD) 導入. その直後の1987年2月12日両側手根管症候群にて開放術施行. 以後9年間で腹膜炎を2回発症. 徐々に除水能の低下をきたし, 1995年12月より血液濾過透析に移行. 透析低血圧および, 凝固能異常の合併によると思われる内シャントの閉塞を反復した. 1996年11月より悪心, 嘔吐, 腹部膨満等の腸閉塞症状出現, 保存的療法にて-時軽快. 消化管透視腹部超音波検査, 腹部CT検査で, 腸管の拡張, 腸蠕動の著明な低下が認められ, 硬化性被嚢性腹膜炎と診断された. 同年12月再び腸閉塞出現, 保存的加療施行するも症状遷延. 内シャント再建術中, 突然ショック状態を呈し, 急性心不全状態持続したのち, 重篤な心筋伝導障害で12月16日死亡した. 病理剖検所見では, 化膿性腹膜炎および腹膜の線維性硬化像に加えて, 全身骨・関節, 消化管, 心, 肺, その他諸臓器にアミロイド沈着を認め, 硬化性被嚢性腹膜炎およびアミロイドーシスの合併が判明した. 本例のアミロイドは, β
2-microglobulin由来であったが, AA抗体陽性, 過マンガン酸カリ抵抗性で, 従来の文献とは異なっていた.
透析に伴う重篤な合併症を重複した, 貴重な剖検例を経験した. 透析療法の進歩で, 慢性腎不全患者の長期生存が可能となった現在, 同様の症例の出現が今後も予想され, 本例を長期透析患者の全身管理の指針について, 貴重な布石としたい.
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