本研究の目的は, 透析関連低血圧 (IDH) の指標としての推定最高酸素摂取量 (peak VO2), 心拍数減衰応答 (HRR) の有用性を明らかにすることである. 対象は運動負荷試験を実施した透析患者216名とした. 非IDH群に比しIDH群のpeak VO2, HRRは有意に低値を示した (p<0.001). 血清アルブミン, 心機能, 動脈硬化指標で調整後もpeak VO2 (OR 0.80, 95%CI 0.70-0.91, p=0.001), HRR (OR 0.91, 95%CI 0.85-0.98, p=0.009) はIDHと関連を示し, カットオフ値はpeak VO2 13.8mL/kg/min (感度0.86, 特異度0.69, p<0.001), HRR 7拍 (感度0.80, 特異度0.62, p<0.001) であった. peak VO2, HRRはIDHの独立したリスク因子であり, カットオフ値における予測精度も高く, 指標としての有用性が示された.
血液透析患者において, BMIが高いほど死亡リスクが低くなるreverse epidemiologyが広く知られているが, これには栄養障害, 炎症が交絡因子として作用している可能性がある. そこで, 日本人血液透析患者のBMIと死亡率の関連性は栄養障害および炎症の影響を受けるか検討した. 血液透析患者259人と, 栄養障害, 炎症ありと判断した92人を除外した167人を対象に, BMI別の死亡リスクを検討した. BMI 22.0~25.0kg/m2を対照とすると, 全対象者では, BMI 25.0kg/m2以上で有意な死亡リスクの低下は認められず, 栄養障害, 炎症のない対象者では, BMI 25.0kg/m2以上で有意に死亡リスクが上昇した (HR 7.85 [1.77-56.27]). われわれの検討では, 日本人血液透析患者の肥満は死亡リスクの低下を認めることはなく, 栄養障害および炎症のない場合に限り死亡の危険因子であった. 人種差だけでなく, 栄養障害および炎症がBMIと死亡率との関連の重要な交絡因子であることが示唆された.
本研究では介護老人保健施設 (老健) の入所による包括的リハビリの実施が血液検査値と機能的自立度評価法 (FIM) に及ぼす効果を調査した. 対象は維持血液透析患者72名, 年齢78.3±9.0 (歳±SD) について前後比較を行った. また, サブグループ分析として入所時の血清リン値より, 高血清リン値群10名, 基準内血清リン値群45名, 低血清リン値群17名の3群に分類した. 結果ではFIM (点±SD) は入所時88.8±24.4から3か月後92.4±22.5に向上した (p=0.0014). 血清リン値 (mg/dL±SD) では高血清リン値群は入所時6.6±0.9から3か月後4.9±0.9に減少 (p=0.002), 低血清リン値群では入所時2.6±0.7から3か月後3.8±0.9に増加 (p<0.001) した. 老健での包括的リハビリは血清リン値やADLを改善する可能性がある.
著明な高血糖を合併した2型糖尿病血液透析患者の2例を経験したので報告する. 症例1 (65歳, 男性) は, 入院時血糖値972mg/dLと著明な高血糖を示すも有効血漿浸透圧は292mOsm/LでありHHSの基準を満たさなかった. インスリン治療と血液透析にて, 高血糖は速やかに改善した. 症例2 (90歳, 女性) は, 遷延性意識障害にて経管栄養がされており, 入院時の血糖値994mg/dL, 有効血漿浸透圧321mOsm/LとHHSの基準を満たした. 入院当日の血液透析は施行せず, インスリン治療のみで血糖コントロールを行ったが, 血糖値が改善するのに時間を要し, 多くのインスリン量を必要とした. 同程度の著しい高血糖であっても, 発症前の飲水が可能かによって, 高浸透圧血症において異なった病態を示した. また, 血液透析はインスリン治療と併用にて高血糖を速やかに改善した.
症例は68歳, 男性. X-6年にIgA腎症と診断されたが, 通院を自己中断していた. X年, 頭痛・失読が出現し, 当院に搬送された. 受診時血圧245/112mmHg, 血清Cr 8.60mg/dLと著明高血圧と末期腎不全を呈していたが, 神経所見は消失していた. 頭部MRIで多発性微小出血後変化, 白質血管性浮腫が認められ, 脳アミロイドアンギオパチー (cerebral amyloid angiopathy: CAA) に可逆性後頭葉白質脳症症候群 (PRES) が合併したと診断した. 白質病変の鑑別診断として, 炎症性CAAも想定された. 著明高血圧に対し降圧療法を開始し, 末期腎不全に対し血液透析を導入した. 次第に血圧は安定し, 第14病日の頭部MRIにおいて, 白質の血管性浮腫部は改善傾向を示した. CAAは脳中小動脈壁にβアミロイドが沈着する疾患であり, 時に炎症性CAA (白質病変) を合併し, 重篤な経過を辿ることがある. 本症例では, 降圧療法で速やかに白質病変の改善が認められ, 白質病変はPRESであったと考えられた.
症例は67歳女性, 透析歴4年. 他院にて糖尿病性腎症による末期腎不全のため血液透析 (HD) が導入された. 2014年5月より汎血球減少が出現し, 同年6月の骨髄穿刺により骨髄異形成症候群 (myelodysplastic syndrome: MDS) と診断された. 貧血の進行に対し短時間作用型ESA (erythropoiesis-stimulating agent: ESA) を増量したが, 頻回の赤血球輸血を必要とする状態が続いた. 同年12月より短時間作用型ESAに少量のエポエチンベータペゴル (continuous erythropoietin receptor activator: CERA) を併用投与したところ, 貧血は著明に改善し, 輸血依存から離脱した. MDSを合併した維持透析患者に対し, 短時間作用型ESAと少量のC.E.R.A. 併用投与により, 輸血依存を離脱し得た症例を報告する.
60歳代女性. 薬剤性腎障害で28年前に血液透析を導入, 肺MAC症にて通院中であった. 透析後の発熱が1か月以上持続し紹介入院. 入院後も発熱は透析後に始まり翌日には解熱. 透析条件を変更し感染症を検索したが有意な所見はなかった. 入院2週間後, 胸痛と右側胸水, 呼吸不全が出現, 発熱も連日認めるようになった. 翌日, 経気管支肺胞洗浄にてMAC-PCRは陰性, 血清MPO-ANCA高値が判明した. 胸水穿刺では, 滲出性胸水で細菌培養や結核菌PCRは陰性, 胸水中MPO-ANCAが高値であった. 胸腔内以外の所見なくANCA関連血管炎 (AAV) に伴う胸膜炎が最も疑われた. 肺MAC症の治療後にステロイドを開始, 発熱や胸水は速やかに改善した. 今回, 胸膜炎を唯一の肺合併症とするAAVを経験したが, たとえ発熱が透析後に限局しても透析条件の見直しに留まらず, 一般的な発熱と同様に血管炎も念頭において鑑別を行うべきである.