向精神薬を対象として透析膜への薬剤の吸着現象の解析を試み, 透析器, 濾過器によって投与量の変更が必要かを検討した.
対象とした薬剤は, バルプロ酸ナトリウム (sodium valproate: SV), ゾニサミド (zonisamide: ZS), フェノバルビタール (phenobarbital: PB), フェニトインナトリウム (phenytoin: PT), ニトラゼパム (nitrazepam: NZ), ジアゼパム (diazepam: DP), フルトプラゼパム (flutoprazepam: FP) の7種類, 膜素材はpolyacrylnitrile (PAN), ethylene vinyl alcohol (EVA), polymethylmethacrylate (PMMA), polysulfone (PS), cellulose triacetate (CA) を使用した.
In vitroにおける薬剤の透析膜への吸着実験では37±1℃, 3時間の反応でSVはPS膜に, FPはPS, PMMAおよびCA膜に, NZはPS, PMMAおよびCA膜に, DPはPMMAおよびCA膜に, PBはCA膜に, ZSはPS, EVA, PMMAおよびCA膜, そしてPTはPMMA膜に高い吸着現象が観察された. 次にNZ, ZSおよびPTの3種類の薬剤について実際の透析器を用いて薬液の循環を行い, 薬剤の透析膜への吸着実験を行った. 経時的にみるとNZではすべての膜で30分でほぼ定常状態となり, またその後薬剤の膜からの脱着現象は認めなかった. ZSでは1分の時点ですべての膜で45-96%の吸着を認め, その後はPAN, およびPMMA膜でさらなる吸着現象を認めた. PTでも1分の時点ですべての膜で吸着現象を認めその後PMMA, CA膜で吸着現象を認めた.
次にNZ, PT, DPおよびSVを実際に服用している患者を対象として各種透析膜を用い透析中の薬剤の動態につき観察した. その結果NZではPMMA, CA, PS膜では3時間の透析中約20%以上の吸着を認めた. DPではPS, CA膜において15分以降吸着を認めなかった. PT, SVではPS膜において3時間の透析中約30%, 約20%以上の吸着現象を認めた.
今回透析治療中には透析膜への吸着によりNZ, SV, ZS等の薬剤は体外へ除去されることが確認されたことから, 透析中のこれらの薬剤の使用については透析および濾過以外に吸着による体外への除去についても考慮に入れて使用されるべきである.
抄録全体を表示