補酵素型ビタミンB
12 (以下DBCCと略す.) の硬膜外腔注入療法が, 種々の腰痛性疾患に対し有効である事に注目し, 摘出した家兎の脊髄神経前根・後根―坐骨神経よりなる標本を用いて, 発生する活動電位を目標に, 作用部位並びに作用濃度と反応との関係を追求した.その実験結果に基き, 臨床的に硬膜外腔に注入するDBCCの如何なる濃度が有効であるかを検討した.
即ち, 動物実験に於いて, 摘出した家兎の神経標本を用いて, DBCCを1) 神経幹2) 脊髄神経根3) 脊髄後根神経節の3カ所に夫々, 0.5~500γ/mlの種々の濃度で作用させ, 次の結果を得た.
1. DBCCは脊髄神経根に対しより効果的に作用し, 神経幹に対しては非常に閾値が高い.脊髄神経根に対する有効な作用は脊髄後根神経節に対する特異的な作用ではない.
2. DBCCは脊髄神経根の興奮伝導を高濃度では抑制し, 低濃度では増大させる.
3. DBCCは脊髄神経前根・後根に於いて, 作用閾値が異り, 前根に比べ後根の方が閾値が低い.
4. DBCCの作用濃度により, 前記の抑制, 増大の効果は, 前根・後根で同一には現れず, 一方は増大され, 一方は抑制されるという様に種々な様相を呈する.
以上の如き動物実験結果より, DBCCの100γ/ml, 250γ/ml, 500γ/mlの3種類の濃度を硬膜外腔注入療法に用い, 各症例に於ける疼痛, ラセグー症候, 知覚障害, 腱反射, 筋力等を指標として, 症状の変化を実験結果を参照して検討した.そして次の事を確認した.
1. 臨床的にDBCCの硬膜外腔注入療法は種々の腰痛性疾患に対し有効である.
2. 硬膜外腔注入療法に於いて, DBCCの有効濃度は250γ/mlが有効であり, 疼痛, 知覚障害等症状の強い症例には, 500γ/mlの注入療法がより一層有効である.但し500γ/mlの硬膜外腔注入療法では, 一過性の運動機能低下が起こる.
3. DBCCの硬膜外腔注入療法に於いて, 100γ/ml注入例は40~60分後に, 250γ/ml注入例は約30分後に, 500γ/ml注入例は10~15分後に作用効果が出現する.
4. DBCCの硬膜外腔注入療法により, 副作用は認められなかつた.
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