腰椎椎間関節は, 滑り運動と開排運動によって弧状運動を行っている.高位別に異なる椎間関節軟骨面の形態は, 方向性のある滑り運動に適し, 椎間運動に特性を生じさせるが, 窩部での骨性の制動も特性に大きく関与している.又, 窩部での軟部支持組織の余裕は滑り運動と共に, 開排運動も行いうる形態である.著者は, 腰椎の各椎間関節における関節軟骨の形態および加齢的変化を観察し, 合せて椎弓, 窩部, 関節包, 靱帯部にも検討を加え, これより各椎間関節の機能と疼痛発生の機序を考察した.1) .椎間関節軟骨面は, 下位になるにつれて前額化し, 一方, 前彎のため水平化の傾向を認める.L2/3間を除き関節軟: 骨面は下位で大きく, 特に横径が延長している.又, 対応する関節面では, 上椎間関節面が大きい.軟骨面の加齢的変化は, 上位では, L2/3間に強く認められ, 消耗性変化が主体である.下位ではL4/5, L5/S間の辺縁部を中心に, 強い消耗性変化と増殖性変化を認めた.2) .上位の関節軟骨層は前額面部の中間部で厚く, 上方および下方で菲薄化する.下位で軟骨層は全体に薄く, 又, 内側下方の椎弓移行部では菲薄化が著しい.軟骨下骨層でも, 前額部に硬化層の肥厚が認められ, 特に内側下方で著しい.又, 骨堤様変化を, 上下方および内外側に認め, 下位になると骨堤の幅が増大する.これらの変化は, 下位で滑り運動の減少によって増大する開排運動と, 関節面の水平化によって生ずる関節面への圧の増大によって生じたものと考えられる.3) .滑膜絨毛は, 上方窩部と下方窩部に存在するが, 下位で発達し, 特に下方窩部のものが大きい.滑膜絨毛の尖端は滑膜ヒダとなり, 菲薄化し関節裂隙に介在する関節が多く, 60関節中33関節に認められた.又, 下方窩部内での滑膜ヒダのimpingementによる変化が, 60関節中11関節にあり, 上方窩部のimpingementによる変化に先行して生じている.滑膜ヒダの関節裂隙への介在は, 関節軟骨の消耗時に生じ, それは機能的役割を果していると考えられる.一方, 窩部内の椎弓と関節突起間のimpingementは, 椎間の不安定性によって生じるもので, 下方窩部では, 滑膜ヒダが基部附近までimpingementされ, 関節包は強く刺激されるために, 関節包の神経を介した疼痛を生ずると考えられる.又, 更に, 不安定性が増大すると上方窩部でのimpingementが生じるが, 下位腰椎脊柱管の側方窩部の形態では, その部を走行する神経根が, 黄靱帯や関節包を介してのimpingementの刺激を受け易いために根性座骨神経痛を生じうると考えられる.
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