日本透析医学会雑誌
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39 巻, 8 号
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  • 渡辺 幸康, 斉藤 浩次, 矢野 新太郎, 三橋 秀基, 酒井 勝, 清水 幸博, 小野 久米夫, 野島 美久
    2006 年 39 巻 8 号 p. 1281-1287
    発行日: 2006/08/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    Glycoprotein (gp) 130はIL-6サイトカインファミリーに共通の受容体蛋白であり, 一般患者においては心不全の重症度に相関して, その可溶型 (soluble gp 130; sgp 130) の血中濃度が高くなることが明らかにされている. しかし, 血液透析患者の心筋障害とsgp 130との関わりについてはなお不明である. 今回われわれは血液透析患者 (HD群): 74例, 非血液透析患者 (non HD群): 34例について, 心エコー検査を施行し, 一般血液・生化学検査, ELISA法 (R & D Systems社製ELISAキット, USA) で血清sgp 130濃度を測定し, 各種心機能マーカーとの関連性について解析した.
    HD群はnon HD群にくらべて, 有意に血中sgp 130濃度は高値を示し (p<0.05), HD群では血清sgp 130は心重量係数 (left ventricular mass index; LVMI), 左室相対的壁肥厚度 (left ventricular relative wall thickness; RWT), 心室中隔壁厚 (inter ventricular septal thickness; IVST), 左室後壁厚 (posterior wall thickness; PWT) と有意に正の相関を示し (r=0.248, p<0.05; r=0.356, p<0.005; r=0.405, p<0.0005; r=0.337, p<0.005), 左室駆出率 (left ventricular ejection fraction; EF), 左室内径短縮率 (% fractional shortening; % FS), 一回拍出量 (stroke volume; SV), 心拍出量 (cardiac output; CO), 心係数 (cardiac index; CI) とは有意に負の相関を示した (r=-0.327, p<0.005; r=-0.268, p<0.05; r=-0.348, p<0.005; r=-0.269, p<0.05; r=-0.288, p<0.05). また, HD群でRWT≧0.45の群はRWT<0.45の群にくらべて, 有意に血清sgp 130濃度は高く (p<0.0005), 求心性左室肥大を示す群で有意に血清sgp 130濃度は高かった (p<0.005). HD群での重回帰分析ではsgp 130は左室収縮機能障害, RWTのそれぞれ有意な関連因子として採択され, ROC解析でもsgp 130が左室収縮機能障害を検出する上で有用であることが判明した (ROC面積0.822, p<0.0001, ベストカットオフ値383ng/mL).
    以上から, 血液透析患者においてもgp 130を介する情報伝達機構は心不全・心肥大・心筋症の病態において, 重要な役割を演じている可能性が示唆された.
  • 遠山 龍彦
    2006 年 39 巻 8 号 p. 1289-1292
    発行日: 2006/08/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    目と手と耳を使った理学的所見はたとえバスキュラーアクセス (VA) の観察であろうとも診療の基本である. 本邦においてはVAの理学的所見に関する系統的記載は少なく, しかも聴診所見に偏っている傾向が否めない. 今回, 動静脈瘻 (AVF) 狭窄の理学的所見の意義を検討した. 1996年7月より2004年12月までのI群 (102例のAVF) では聴診所見を中心にVAを観察し, その所見をretrospectiveに検討した. 2005年1月より同年12月までの1年間に観察したII群 (31例のAVF) は, 聴診に加え視診と触診の理学的所見を重視し, その所見をprospectiveに検討した. シャント造影で狭窄率が60%以上を呈した例を検討対象とした. さらに理学的所見により狭窄部位を早期かつ正確に診断するため各群を1型 (傍吻合部型), 2型 (遠位型), 3型 (1, 2型の混合型) の3型に分類した. I群ではII群にくらべ穿刺困難, 閉塞を含む血流不全など比較的重篤な所見の頻度が多かった. しかも聴診所見を主に観察したI群では1, 2, 3型の理学的所見の頻度に大きな差はなく, 各型の識別は困難であった. 一方, II群の1型ではfirst thrill減弱が, 2型では吻合部と狭窄部の間の静脈怒張と狭窄部のsecond thrillの出現頻度が高かった. しかし3型ではsecond thrillは多くみられたが, 2型にくらべ静脈怒張の頻度は少なく, むしろfirst thrill減弱と血流不全が比較的多くみられた. 聴診所見は重要ではあるが, その所見を経時的にまた客観的に記載することは必ずしも容易ではない. 視診, 触診を含めた理学的所見を総合的に観察することにより, 狭窄部位の推定も含めVAの血流異常を正確かつ早期に診断することが可能となり, percutaneous transluminal angioplastyなどによるVAの改善が容易になると思われる.
  • 太田 英里子, 千田 佳子, 土肥 まゆみ, 氏家 一知, 井田 隆, 安藤 稔, 小林 大輔, 広川 勝〓, 春日 猛, 佐々木 成
    2006 年 39 巻 8 号 p. 1293-1297
    発行日: 2006/08/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    われわれは肛門にアミロイド腫瘤を形成した透析歴17年の血液透析患者の臨床病像を剖検結果とともに報告する. 剖検では肛門に腫瘤を形成しているほか, 腹腔内や皮下などにも多数の結節状アミロイド腫瘤が認められた. この患者は良性のIgGκ型の無症候性単クローン性免疫グロブリン血症が潜在していたが, アミロイド腫瘤はIgG染色, κ染色は陰性であり, すべてβ2, microglobulin染色で陽性を示したことから, 透析アミロイドーシスと考えられた. 腫瘤形成型の透析アミロイドーシスの報告は散見されるが, 本症例のように肛門を含め多臓器に及ぶ多発性の腫瘤形成を呈した透析患者の剖検所見を含む報告はない. 透析アミロイドーシスの発現様式のひとつとしても稀少であると考え, ここに報告する.
  • 塚田 有紀子, 若林 良則, 末次 靖子, 菊池 保治, 藤本 肇, 江口 正信, 福井 亮, 細谷 龍男
    2006 年 39 巻 8 号 p. 1299-1304
    発行日: 2006/08/28
    公開日: 2010/03/16
    ジャーナル フリー
    透析患者において, 尿毒症環境や栄養上の問題に関連する易感染性, 動脈硬化を基盤とした血流不全などを背景にした器質的な下部消化管疾患の合併が大きな問題となる場合がある.
    症例は69歳女性. 25歳時, 子宮外妊娠で手術を受けた. 約22年の糖尿病歴があり, 平成7年10月から末期腎不全に対して維持透析中であった. 平成16年6月下旬から左股関節の運動痛が出現し, 次第に両側性になり歩行不能となった. 37℃台の発熱が持続し, 血液検査上, 白血球25,600/μL, CRP30mg/dLと上昇を認め, 同年7月12日当科へ紹介入院した. 骨盤部MRI, 単純CTでは股関節には異常を認めず, 直腸壁の全周性の著しい肥厚を認めた. 大腸内視鏡所見では, 肛門から4-7cmの部位の直腸粘膜に限局して凝血塊を伴うびらん, 潰瘍を認めた. 絶食による腸管安静と抗生剤の投与によって直腸炎の症状・内視鏡所見・CT所見は改善したが, その後3か月間に2回再燃した. 長期間の腸管安静 (21日間絶食後, 54日間流動食) と抗生剤投与 (45日間) を行った結果, その後寛解を維持できた.
    直腸炎の成立機序を明確にするのは困難であったが, 長期にわたる腸管の安静と抗生剤の使用を行い, 良好な結果を得ることができた.
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