慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常が提唱されて以後,リン(P)ならびにカルシウム(Ca)の管理が,単に骨代謝だけではなく,血管石灰化と深く関連し生命予後にも影響を与えることが注目されている.薬物療法としては,ビタミンD受容体刺激剤(VDRA),Ca含有あるいは非含有P吸着剤に加え,二次性副甲状腺機能亢進症治療薬であるシナカルセト塩酸塩が登場し,臨床的に使用可能な薬剤が多くなってきている中で,透析液Ca濃度の選択には確たる基準がないのが現状である.今回われわれは,透析液Ca濃度を3.0mEq/Lから2.75mEq/Lへ変更し,血清intact PTH(iPTH),PならびにCa濃度に及ぼす影響について検討した.2011年10月から2012年4月の期間中,維持血液透析を継続した患者99例中,入院を要した症例やVDRA,シナカルセト塩酸塩およびCa含有P吸着剤の処方変更を行った症例を除く63例を対象とした.変更12週前,変更時,変更後12週までの透析開始前の血清補正Caと血清P,iPTH濃度,iPTH濃度の変化率,アルカリフォスファターゼ(ALP),透析前後の血清イオン化Ca(iCa)ならびに重炭酸イオン(HCO
3-)を測定し経時的な推移を観察した.透析液Ca濃度を3.0mEq/Lから2.75mEq/Lへ切り替えることにより血清補正Ca濃度は変更後2週から有意に低下したが,血清P濃度,iPTH濃度,iPTHの変化率ならびにALPには有意な変化を認めなかった.一方,透析開始前iCa濃度は変更時と比較し,変更12週後においても有意差はなかった(変更時1.205±0.069mmol/L,変更12週後1.204±0.071mmol/L).透析開始前血清HCO
3-濃度は変更時と比較し,変更12週後には有意に低下した(変更時20.4±2.2mmol/L,変更12週後18.4±1.6mmol/L,p<0.0001).今回の検討は,CKD-MBDに対する各種薬剤の処方変更のない症例のみの結果であるが,透析液Ca濃度を3.0mEq/Lから2.75mEq/Lに変更しても,12週の短期間においては,血清HCO
3-濃度が下がることでiCa濃度を変化させず,その結果,血清iPTH濃度に大きな影響を与えないことが示唆された.
抄録全体を表示