日本透析医学会雑誌
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45 巻, 9 号
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第57回日本透析医学会 学会委員会企画より 『統計調査の現状と未来』
原著
  • : 3例の治療経験をふまえて
    澤崎 晴武, 山本 伸也, 牧石 徹也, 前田 咲弥子, 小倉 啓司
    2012 年 45 巻 9 号 p. 837-844
    発行日: 2012/09/28
    公開日: 2012/10/05
    ジャーナル フリー
    近年,透析技術の進歩により慢性腎不全患者の長期生存が可能になった.それに伴い担癌透析患者数も増加している.しかし,担癌透析患者に対する化学療法はいまだ確立しておらず,抗癌剤の代謝特性を考慮しながら臨床試験や症例報告における投与量を参考にレジメンを決定しているのが現状である.今回,担癌透析患者3例に対し化学療法を施行する経験を得たので報告する.症例1は原発性マクログロブリン血症:リツキシマブ,CHOP(シクロフォスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチン,プレドニゾロン)療法,ボルテゾミブにて治療を施行したが,化学療法抵抗性であり化学療法開始4か月後癌死した.症例2は進行卵巣癌:パクリタキセル,カルボプラチンによる化学療法を施行.治療は奏効していたが,誤嚥性肺炎,仙骨部褥創により化学療法継続が困難となり治療開始後6か月で癌死した.症例3は両側外耳癌:UFT®,カルボプラチン,放射線外照射による治療を施行したが,癌の進行により治療開始後6か月で癌死した.いずれの症例も化学療法開始後4~6か月で癌死したが,文献報告を検索すると原疾患は異なるが化学療法が奏効した例もあり,担癌透析患者に対する化学療法に関しては今後,治療法の標準化と治療成績の集積が重要であると考えられた.
  • 宮田 賢宏, 小西 修二, 島本 佳昌, 海本 浩一
    2012 年 45 巻 9 号 p. 845-851
    発行日: 2012/09/28
    公開日: 2012/10/05
    ジャーナル フリー
    ポリビニルピロリドン(PVP)溶出制御は,ポリスルホン(PS)膜などPVP配合膜ダイアライザにおける重要な課題である.ダイアライザの滅菌法はPVP溶出に深く関与し,同じ銘柄のダイアライザでも保管期間の違いによりPVP溶出量が異なる.本研究では,PS膜のPVP溶出に及ぼす滅菌法と保管期間の影響を検討するため,共通のPS膜を使用し滅菌法が異なるウェットタイプダイアライザAPS-SA(APS-15SA:APS, n=7)とRENAK PS(RENAK PS-1.6, n=7)を用いて,ダイアライザ血液側について生理食塩液(生食)1.0Lによる洗浄時のPVP溶出量,充填液中のPVP濃度,洗浄開始0.5および1.0L時点におけるダイアライザ出口部のPVP濃度,生食1.0Lによる4時間循環時のPVP溶出量を測定し,これらをダイアライザ間で比較するとともにPVP溶出量と保管期間との関連性を検討した.その結果洗浄時のPVP溶出量および充填液中のPVP濃度は,高圧蒸気滅菌のRENAK群が高値を示したが,洗浄開始0.5および1.0L時点におけるダイアライザ出口部のPVP濃度は両群間で差が認められず,循環時のPVP溶出量はγ線滅菌のAPS群が高値を示した.またAPS群では,洗浄時のPVP溶出量および充填液中のPVP濃度と保管期間が統計学的にも有意な正の順位相関関係(rs=0.94および1.00,p=0.022および0.014)にあった.さらに,APS群では循環時のPVP溶出量と保管期間が有意な負の順位相関関係(rs=-0.82, p=0.044)にあることが明らかとなり,保管期間の短いAPSでは体外循環中にPVP溶出量が増加することが示唆された.
  • : VEESA-study
    望月 隆弘, 衣笠 えり子, 草野 英二, 大和田 滋, 久野 勉, 兒島 憲一郎, 小林 修三, 佐藤 稔, 島田 憲明, 中尾 一志, ...
    2012 年 45 巻 9 号 p. 853-862
    発行日: 2012/09/28
    公開日: 2012/10/05
    ジャーナル フリー
    【目的】ビタミンE固定化ポリスルフォン膜ダイアライザ(VPS-HA)が,血液透析患者の貧血や,貧血治療薬(ESA)の投与量に影響を与えるか否かを検討した.【方法】主要なエントリー基準は,機能分類IV型ポリスルフォン(PS)膜を3か月以上使用し,直近3か月はTSAT 20%以上で,ESA製剤の変更がなく,ヘモグロビン(Hb)値は10.0g/dL以上12.0g/dL未満を満たす患者とした.研究参加は48施設で,305症例がエントリーされた.エントリー患者を,VPS-HAに変更する群(151名)と,従来のIV型PS膜を継続する群(154名)の2群に分け(中央登録方式),研究開始時のHb値を維持(10.0≦Hb<11.0g/dLおよび11.0≦Hb<12.0g/dL)するESA投与量を主要評価項目とした.その評価指標としてエリスロポエチン抵抗性指数(erythropoietic resistance index:ERI)を用いた.【結果】研究は1年間実施された.目標Hb値10.0≦Hb<11.0g/dLの範囲では差はなかったが,目標Hb値11.0≦Hb<12.0g/dLの範囲で,VPS-HA群はIV型PS膜群に比して良好なESA反応性を示した.とくにVPS-HA群のDarbepoetin alfa(DA)投与例では,8か月以降で開始時と比較して統計的有意差をもってERIが減少していた.またIV型PS膜群のrHuEPO投与症例では,統計的に5,7,10か月で,開始時と比較してERIが増加していた.VPS-HAとIV型PS膜の群間比較では,11か月目でVPS-HA群のDA投与例でIV型PS膜群に比して,ERIが有意に減少していた.【結語】目標Hb値11.0≦Hb<12.0g/dLの範囲で,ビタミンE固定化膜は,IV型PS膜に比べてDA投与量が減少しており,ESA投与量軽減効果が期待できる(UMIN試験ID:UMIN000001285).
  • 人見 泰正, 林 道代, 衣川 由美, 中川 隼斗, 笹原 知里, 廣田 英二, 鳥山 清二郎, 高村 俊哉, 佐藤 暢, 藤堂 敦, 西垣 ...
    2012 年 45 巻 9 号 p. 863-871
    発行日: 2012/09/28
    公開日: 2012/10/05
    ジャーナル フリー
    透析中における経時的な内シャント血流量(flow volume:FV)と実血流量の変動傾向の解析と,透析中にそれらが低下しやすい症例が持つ危険因子の抽出を行った.対象は,維持血液透析患者64例,観察期間は2か月とした.方法は,対象全例に対して,透析(0,1.5,2.5,4.0)時間値に,FV,実血流量,血圧(収縮期,拡張期)を測定し,以下の8項目について検討した.[1]FV,実血流量,血圧の推移,[2]FV,実血流量,血圧の相関解析,[3]対象の分別(FV低下群/不変群),[4]FV低下群/不変群における血圧の推移,[5]FV低下に寄与する因子の抽出(16項目),[6][5]で抽出された因子別のFV推移,[7]石灰化群とFV低下群のシャント静脈拡張率,[8]石灰化・糖尿病の有無別におけるFV推移.検討の結果,FVと実血流量は透析中有意に低下し,両者の間には有意な正相関がみられた(R=0.76).しかし,FVと血圧に相関関係はみられなかった(R=0.17).FV低下に高い寄与率を有する因子を検討した結果,「シャント血管石灰化,ABI異常,糖尿病」が抽出された.中でもシャント血管石灰化の寄与率は高く(x2統計量=15.2),これはシャント血管の拡張機能低下にも大きく関与していた.これらの結果から,実血流量の低下はFV低下に伴うものであり,その要因にはシャント血管石灰化(コンプライアンス低下)が含まれる可能性が高いと考えられた.シャント血管に石灰化を有し,全身性の血管荒廃がみられる症例は,透析中にシャント血流が低下し,予期せぬ透析効率低下を招く危険性がある.
  • 松浦 有希子, 稲熊 大城, 板脇 大輔, 隅 智子, 中川 星明, 岡田 昭次, 高木 茂樹, 新城 響, 冨永 芳博, 両角 國男
    2012 年 45 巻 9 号 p. 873-880
    発行日: 2012/09/28
    公開日: 2012/10/05
    ジャーナル フリー
    慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常が提唱されて以後,リン(P)ならびにカルシウム(Ca)の管理が,単に骨代謝だけではなく,血管石灰化と深く関連し生命予後にも影響を与えることが注目されている.薬物療法としては,ビタミンD受容体刺激剤(VDRA),Ca含有あるいは非含有P吸着剤に加え,二次性副甲状腺機能亢進症治療薬であるシナカルセト塩酸塩が登場し,臨床的に使用可能な薬剤が多くなってきている中で,透析液Ca濃度の選択には確たる基準がないのが現状である.今回われわれは,透析液Ca濃度を3.0mEq/Lから2.75mEq/Lへ変更し,血清intact PTH(iPTH),PならびにCa濃度に及ぼす影響について検討した.2011年10月から2012年4月の期間中,維持血液透析を継続した患者99例中,入院を要した症例やVDRA,シナカルセト塩酸塩およびCa含有P吸着剤の処方変更を行った症例を除く63例を対象とした.変更12週前,変更時,変更後12週までの透析開始前の血清補正Caと血清P,iPTH濃度,iPTH濃度の変化率,アルカリフォスファターゼ(ALP),透析前後の血清イオン化Ca(iCa)ならびに重炭酸イオン(HCO3)を測定し経時的な推移を観察した.透析液Ca濃度を3.0mEq/Lから2.75mEq/Lへ切り替えることにより血清補正Ca濃度は変更後2週から有意に低下したが,血清P濃度,iPTH濃度,iPTHの変化率ならびにALPには有意な変化を認めなかった.一方,透析開始前iCa濃度は変更時と比較し,変更12週後においても有意差はなかった(変更時1.205±0.069mmol/L,変更12週後1.204±0.071mmol/L).透析開始前血清HCO3濃度は変更時と比較し,変更12週後には有意に低下した(変更時20.4±2.2mmol/L,変更12週後18.4±1.6mmol/L,p<0.0001).今回の検討は,CKD-MBDに対する各種薬剤の処方変更のない症例のみの結果であるが,透析液Ca濃度を3.0mEq/Lから2.75mEq/Lに変更しても,12週の短期間においては,血清HCO3濃度が下がることでiCa濃度を変化させず,その結果,血清iPTH濃度に大きな影響を与えないことが示唆された.
症例報告
  • 田蒔 昌憲, 脇野 修, 菅野 義彦, 坂東 和香, 細谷 幸司, 井上 秀二, 徳山 博文, 吉田 理, 長谷川 直樹, 岩田 敏, 林 ...
    2012 年 45 巻 9 号 p. 881-887
    発行日: 2012/09/28
    公開日: 2012/10/05
    ジャーナル フリー
    感染症は維持透析患者における頻度の高い死亡原因のひとつである.多剤耐性緑膿菌(multi-drug resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP)は有効な治療手段に乏しく,治療法の確立が急務とされている.今回われわれはBreak-point Checkerboard Plate(BCプレート)法を用いて抗菌薬の選択を行い良好な結果が得られた1例を経験したので報告する.症例は71歳,男性.20年来の糖尿病患者.入院半年前にS状結腸捻転症を発症し,当院で緊急手術(全結腸切除,回腸人工肛門造設術)を施行後に腎機能が増悪し,同入院中に血液透析を導入した.転院後原因不明の発熱を認め精査目的で再入院した.CT検査の結果後腹膜膿瘍と診断し,原因として手術時の縫合不全が疑われたため肛門より造影検査を施行し少量の直腸盲端と腹腔内との交通を確認した.長期にわたり各種抗菌薬ならびにドレナージを施行したが,発熱と炎症反応が遷延し,CTおよび培養検査によってMDRPによる直腸周囲炎と診断した.抗菌薬の感受性を調べるためBCプレート法を施行し,結果に従いアズトレオナム(AZM)とアミカマイシン(AMK)の併用と,さらにホスホマイシン(FOM)を加えた治療を選択したところ解熱と炎症反応の低下,およびMDRPの陰性化を認めた.MDRPは,さまざまな耐性機序を有するため単剤での治療は極めて困難であり抗菌薬の併用療法が必要である.一般的に腎不全患者は薬剤耐性菌による感染率が高く,本例のような栄養不良や長期抗菌薬投与例はさらに感染リスクが増大する.BCプレート法は8種類の抗菌薬のうちいずれか2種類を併用した際に,被検菌に対する薬剤感受性を判定できるとする検査である.本症例では,BCプレート法の結果に基づきAZM+AMKを選択した.また,緑膿菌に対する抗菌効果の増強を期待してFOMを併用した.BCプレート法を用いた抗菌薬の選択が治療効果に反映されたと考えられた.
委員会報告
Letter to the Editor
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