清酒製造における火入れの目的は殺菌と酵素失活からなる品質の安定化である。しかしながら火入れの原理は加熱であり,熱に依る風味色合いの劣化は避けられない。そこで筆者らは加熱履歴に着目し,熱劣化を抑制すべく超短時間で熱処理し極限まで熱履歴を低減させたジュール加熱火入れ装置を開発した。この技術では従来の火入れ方法では困難であった酒質変化を起こさずに殺菌・酵素失活が可能である。食品の殺菌工程に携わる方や品質管理者だけでなく商品開発者はぜひ一読を。
タンパク質の構成成分であるアミノ酸は,近年生体内での生理機能が注目されており,アミノ酸を添加した飲食品やサプリメント,化成品などが多数商品化されている。一方,酵母Saccharomyces cerevisiaeは多くの発酵・醸造食品,バイオエタノールなどの製造に使われる有用で安全性の高い微生物である。酵母のアミノ酸代謝とその調節機構は生育環境や代謝様式で異なっており,酵母の細胞内で特定のアミノ酸の含量を増加させることで,発酵・醸造食品の高付加価値化や生産性改善などが期待できる。本稿では,筆者らが見出したアミノ酸の代謝制御機構や生理機能に着目し,酵母の高機能開発と酒類産業への応用を試みた例を紹介する。
フレーバーホップを利用して特徴的な香りを持つクラフトビールが人気を博している。ソラチエースは,日本で育種されたフレーバーホップであり,他のホップにはない独特な香りを持つことから,現在,世界中で使用されている。ソラチエースを使用したビールの特徴香生成もしくは形成のメカニズムについて検討した結果,それ自身は香りの低い物質の存在が,他の香気成分の香りを増強・変化させることがわかった。
「風鳴子」の酒造適性を維持しつつ,心白の大きさと砕米率の改善を目指して,高知県農業技術センターが育成した「土佐麗」の栽培試験,酒造適性試験,醸造試験を行い,以下の知見を得た。
(1)農業技術センター場内圃場における栽培試験では,「土佐麗」は「風鳴子」と比較して稈長が平均5 cm,穂長は平均0.6 cm短かった。穂数は12 本/m2多く,標肥の収量性は「風鳴子」比で112%と良好であり,単位面積当たりの籾数が2469 粒/m2多く,登熟歩合が2.3%高く,不稔率が5.6%低かった。現地調査においても,同様な傾向であった。
(2)「土佐麗」の玄米は「風鳴子」と比較して,千粒重が0.9 g程度小さいが,心白率が約30%低く,心白の大きさが改善した。高知県内の各地域で栽培した原料米は粗タンパク質含有量や消化性にばらつきがみられた。
(3)精米歩合50%の白米の砕米率は「風鳴子」が10.6%に対して「土佐麗」は4.2%と改善した。また,高知県内の各地域で栽培した原料米の砕米率は生産地によって異なった。「土佐麗」の精米時間は「風鳴子」よりやや長く,「山田錦」より早かった。
(4)小規模醸造試験では,精米歩合70%の場合,「土佐麗」の酒造適性は「風鳴子」と同等であった。精米歩合50%の場合,生産年による差異がみられるとともに,同一年度で比較すると「土佐麗」は「風鳴子」より酸度が高く,「山田錦」より酢酸エチルや酢酸イソアミルが高いなど品種の特徴がみられた。また,「土佐麗」の生産地によって日本酒度やアルコール収得量,香気成分にばらつきがみられた。
酢酸エチルを用いた溶媒抽出とGC/MSを組み合わせることで,カプロン酸エチル高生産酵母を用いた清酒の脂肪酸臭の原因とされるカプロン酸及びカプリル酸を簡便に定量する方法について検討した。試料の抽出条件,GC/MS分析条件を設定し,分析可能な濃度範囲,分析精度を検討した結果,試料必要量1 mLで検出下限が0.1 mg/L,定量下限が0.5 mg/Lと高感度かつ簡便・迅速に測定できる方法を構築することができた。なお,本分析法は清酒醪の分析にも適用可能であった。貯蔵した吟醸酒のカプロン酸及びカプリル酸濃度を経時的に測定した結果,これらの成分は貯蔵温度(−4℃,4℃,15℃,25℃)に依存せず,3ヶ月程度では大きな変化はなかった。また,品評会向け出品吟醸酒中のカプロン酸含量は19.1-44.1 mg/L,カプリル酸含量は4.0-9.3 mg/Lであった。さらに,カプロン酸エチル高生産酵母は,伝統型酵母と比較して,短時間の培養でも有意にカプロン酸を多く生成することがわかり,本分析法を用いることで両酵母を迅速に識別可能であった。