高齢者の麻酔管理は各臓器の機能低下や合併症などの点から問題が多く, 術中輸液についても若年者より慎重な管理が要求される.今回, 65歳以上のASAのPhysical Status1~2の開腹術例を対象として, 輸液剤には乳酸リンゲル液 (LR) , 5%ブドウ糖加乳酸リンゲル液 (LR-D) , 酢酸リンゲル液 (AR) , 5%ブドウ糖加酢酸リンゲル液 (AR-D) の4種類を用い, 輸液速度はそれぞれにつき5ml/kg/hか10ml/kg/hで行って, 対象を8群に分け, 各群につき10例で合計80例で検討した.麻酔の導入, 気管内挿管はサイアミラール, サクシニルコリンを用いて行い, 麻酔の維持は酸素, 笑気, ハロセンで行った.一般状態, 循環動態のチェックとともに, 採血, 採尿を, 術前, 1時間後, 2時間後, 3時間後の4回行い, 電解質, 酸塩基平衡, 糖代謝, 腎機能などに及ぼす影響を検討した.ARの酢酸は肝臓だけでなく末梢組織でも代謝される利点があるが, 今回の結果では腎機能の面からはLRより尿量が多く良いと思われたが, 脈圧の減少など循環系の抑制傾向がみられ, 高齢者ではLRより優れているとはいえなかった.5%ブドウ糖添加に関しては, LR-DとAR-Dの5ml/kg/hの輸液速度では300mg/dl以上の異常高血糖を示す例が, 3時間値で, それぞれ6例, 4例であった.LR-DとAR-Dの10ml/kg/hの輸液速度では2時間値, 3時間値で300mg/dl以上の高血糖を全例で示し, さらに乳酸, ビルビン酸とともに上昇し, アシドーシスの傾向がみらた.これは, 高齢者では耐糖能の低下が進行しているため, ブドウ糖の投与量が過量になったことを示し, ブドウ糖は, 異化作用防止, エネルギー補給などの点で必要であるが, 5%のブドウ糖濃度は, 高齢者には高すぎ, 適切ではないと考えられた.輸液速度は5ml/kg/hでは過少と考えられ, 10ml/kg/h位が高齢者でも総量として必要と考えられた.高齢者に対する術中輸液としては, 輸液剤はLR主体でよく, ブドウ糖添加は低濃度が望ましく, 輸液速度は麻酔の状態に応じて変えていくのが良いと思われた.
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