食品による健康危機事案が発生した際に対応可能な金属類の分析法を,マイクロ波分解装置と誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)装置を用いて検討した.水道水質基準項目および水質管理目標設定項目に設定されている元素を含む18種類の元素(アルミニウム,ヒ素,ホウ素,カドミウム,コバルト,クロム,銅,鉄,水銀,マンガン,モリブデン,ニッケル,鉛,アンチモン,セレン,スズ,タリウム,亜鉛)を対象とし,食品試料として飲料5種類(緑茶,ブラックコーヒー,牛乳,オレンジジュース,ビール)および加工食品7種類(ビーフカレー,ぎょうざ,えびのチリソース和え,さばの塩焼き,えびピラフ,お好み焼き,果実缶詰)を使用した.添加回収試験の結果,真度は88~108%であり,室内精度は0.2~11.3%であった.本法では試料の秤量から測定終了までの所要時間は3時間以内であり,健康危機発生時における金属類の分析法として適用可能であると考えられた.
1998年から2020年に国内で発生したヒスタミン食中毒事例の傾向を解析した結果,ヒスタミン食中毒は毎年発生し,1年あたりの平均事例数は9.7件,患者数は195.3名であった.施設別による事例数は,飲食店が最も多く,患者数では給食施設が最も多かった.食中毒の原因となった魚種は,マグロ,カジキおよびサバが主であった.文献情報調査の結果,国内に流通する魚種から単離されたヒスタミン生成菌は,23属であり,最も報告が多かった菌種は腸内細菌科であるMorganella morganiiであった.また,海洋性細菌であるPhotobacterium damselaeの報告も多かったが,低温性のMorganella psychrotoleransやPhotobacterium phosphoreumの報告もみられた.
かび毒とは,植物病原菌であるかびや貯蔵穀物などを汚染するかびが産生する化学物質で,人や家畜の健康に悪影響を及ぼすものをいう.赤かび病の病原菌であるFusarium属のかびが,農作物,特に麦類や豆類に付着し,不適切な生産管理や収穫・乾燥などを行うことでこのかびが増殖し,フザリウム毒素であるトリコテセン類かび毒,デオキシニバレノール(DON),ニバレノール(NIV),T-2トキシン(T-2),HT-2トキシン(HT-2),ジアセトキシスシルペノール(DAS),ゼアラレノン(ZEA)等のかび毒を産生する.穀類であるハトムギ,ソバ中のフザリウム毒素について,一斉分析法について検討を行い,単一試験室における妥当性評価を実施した.その結果,ハトムギおよびソバにおける単一試験室におけるこの一斉分析法の妥当性が確認され,信頼性の高い分析が可能となった.
飼料中に残留するクロルプロファムのLC-MS/MSによる定量法を評価するため,13試験室における試験室間共同試験を実施した.子豚育成用配合飼料,乳用牛飼育用配合飼料,えん麦,大麦,小麦およびとうもろこしの6種類各1濃度の試料を用いて,各試験室2点併行分析とした.試験の結果,真度は75.3~87.0%,併行精度および室間再現精度はそれぞれ7.3%以下および33%以下,HorRatは0.39~1.5であり,分析法の妥当性が確認された.また,クロルプロファムの定量下限および検出下限は飼料中でそれぞれ0.008 mg/kgおよび0.003 mg/kgであった.本分析法は,飼料中のクロルプロファムを検査するための方法として適用が可能と考えられた.