LC-MS/MSを用いて畜産物中のモエノマイシンAの分析法を検討した.フラボフォスフォリポールの規制対象であるモエノマイシンAを,畜産物から効率的に抽出することが可能な溶媒の種類および温度を検討したところ,50℃に加温したアンモニア水およびメタノール(1 : 9,v/v)混液を用いることで検討したすべての試料から十分な回収率を得ることが可能であった.さらに,得られた抽出液を濃縮後に塩基性として,酢酸エチルで洗浄した後,トリメチルアミノプロピルシリル化シリカゲルミニカラムで精製してLC-MS/MSで定量および確認する方法を開発した.開発した分析法を用いて,豚の筋肉,豚の脂肪,豚の肝臓および鶏卵の4食品に対して,基準値濃度(0.05 mg/kg)および定量限界濃度(0.01 mg/kg)で添加回収試験を行ったところ,真度および併行精度(RSD%)は,それぞれ79~93%および0.5~2.8%と良好であった.また,各食品におけるマトリックス添加標準溶液の溶媒標準溶液に対するピーク面積比は0.81~0.98であったことから,本法は試料由来のマトリックスの影響を大きく受けることなく測定することが可能と考えられた.以上のことから,開発した分析法は,畜産物中のフラボフォスフォリポールを基準値濃度および定量限界濃度で精度良く定量することが可能と考えられた.
第9版食品添加物公定書の大腸菌の確認試験の参考に資するために,EC培地7製品および食品添加物8製品(α-アミラーゼ2製品,ヘミセルラーゼ,グルコアミラーゼ,ナイシン2ロット,カロブビーンガムおよびペクチン)を用い,試験菌株Escherichia coli NBRC 3972の45.5±0.2℃および44.5±0.2℃での増殖性およびガス産生性を比較した.培地の濁りおよびガスの発生が全試験回の全試験管で認められたEC培地製品数は,45.5±0.2℃よりも44.5±0.2℃で多く,また,供試食品添加物製品によって違いが認められた.そのため,公定書の大腸菌の確認試験における培養温度として45.5±0.2℃に加えて44.5±0.2℃を設定し,また,食品添加物製品ごとに試験の適合性を確認することで,試験がより適切に行われると考えられた.
天然物由来の食品添加物では,その基原生物が一義的に特定されるよう,成分規格に基原生物の学名および和名が明記されている.誤った基原生物の使用は想定外の健康被害を招く恐れがあり,学名や和名の正確性は添加物の有効かつ安全な使用に欠かせない.しかし,過去に公的な成分規格等で定義された学名が最新の分類学による学名と一致せず,詳しい調査が必要とされることが多々ある.そこで,食品添加物の原料の範囲を合理的かつ持続的に制御するために,トレーサビリティに重点をおいた方針を策定し,具体的な学名および和名の調査法および表記法を定めた.この方針に従い,既存添加物である「香辛料抽出物」,「アラビアガム」および「カラギナン」について,基原生物を精査したところ,学名や和名の決定はおおむね可能であったが,一部の生物で学名改変に伴い想定する種の範囲が広がるものもあった.トレーサビリティ確保の方針は有用だが,それに従った結果,成分規格等で定義された種と異なる種が含まれることにならないか等の確認も必要だと考える.
ドクササコの模擬調理品3種(天ぷら,煮物,しょう油汁)について,有毒成分であるアクロメリン酸A, Bおよびクリチジンの多成分同時分析法が適用可能であるか検討を行った.いずれの調理法においても3種類すべての成分を検出することができ,分析に影響する妨害ピークは見られなかった.このことから,ドクササコ中毒発生時に調理残品を試料として原因キノコを高精度に特定可能であると判断した.また,汁物調理品において有毒成分の大半が汁中に溶出していることを見いだし,この性質を利用して食用キノコ中にドクササコが混入している場合でも迅速なスクリーニングが可能であると明らかにした.
保存料として使用されている安息香酸(BA)は天然にも存在するため,行政検体の保存料検査において,添加されたものとの判別が必要になる.一方で,近年,多様な果実類およびその加工品が出回っており,それらに含有される天然のBAのデータが不足している.そこで,天然由来のBA含有量を把握するため,これまでに報告事例のないものも含め,検出事例の多い果実加工品とその原料にあたる生鮮果実100試料について,水蒸気蒸留法(蒸留法)および透析法による調査を行った.蒸留法では2.2~1,950 μg/g,透析法では,2.1~1,380 μg/gのBAを検出した.透析法と蒸留法の測定値を比較したところ,多くの試料で蒸留法の測定値の方が高かった.本調査結果は,保存料検査において,BA添加の有無を判別するための参考データとして行政上活用されることが期待できる.