食品衛生学雑誌
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61 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
報文
  • 半田 彩実, 川鍋 ひとみ, 井部 明広
    2020 年 61 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/04/24
    ジャーナル フリー

    ぬか漬には,不揮発性アミン類であるヒスタミン(Him)およびチラミン(Tym)を含有するものがあり,これらは発酵過程中に微生物が関与し生成されたと推察される.そこで,HimおよびTymを含む市販のキュウリのぬか漬からHimおよびTym産生菌の探索を試みたところ,それぞれ産生菌を単離し,Him産生菌はRaoultella ornithinolytica,Tym産生菌はLactobacillus curvatusと同定した.これらの産生菌をぬか漬の原材料である米ぬかを含む培地中でそれぞれ培養したところ,それぞれの培地中からHimおよびTymの産生が認められた.しかし,各産生菌がぬか漬中に存在しても,必ずしもHimおよびTymが産生されるわけではなく,ぬか漬製造において,その産生量は前駆アミノ酸の量や共存する他の細菌によって影響を受けることが示唆された.

  • 渡邉 敬浩, 片岡 洋平, 荒川 史博, 松田 りえ子, 畝山 智香子
    2020 年 61 巻 1 号 p. 7-16
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/04/24
    ジャーナル フリー

    トータルダイエットスタディ(TDS)は,食事を介した化学物質の摂取量推定に有効な方法論であり,有害物質の摂取量推定にも用いられる.TDSにおける試料の分析には,摂取量推定の目的に合致した方法を選択すると同時に,その妥当性を確認することが勧告されている.しかし,妥当性確認に必要な具体的な考え方や方法論は示されていない.そこで本研究では,まず摂取量推定の目的で使用される分析法の性能を評価可能な試料(Samples to estimate methods performance; SEMPs)を開発した.次いでヒ素やカドミウム,鉛を含む元素類の摂取量推定の目的で使用する一斉分析法の妥当性を確認するために,SEMPsにおける各元素濃度を明らかにした.さらに,明らかにした各元素濃度を考慮した添加量を決定し,添加試料と未添加試料のそれぞれを5併行分析した結果から真度と併行精度を推定する,分析法の性能評価方法を確立した.性能評価によって推定した真度と併行精度をCodex委員会のProcedural Manualに収載されているガイドラインに基づき設定した性能規準と比較した結果,検討した一斉分析法が対象とする14元素と14食品群の組合せの多くで性能規準の値を満たしたことから妥当性を確認した.

ノート
  • 清田 恭平, 吉光 真人, 梶村 計志, 山野 哲夫
    2020 年 61 巻 1 号 p. 17-21
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/04/24
    ジャーナル フリー

    オレンジは,健康に有益な栄養成分を含む一方で,アレルギーの発症原因となるアレルゲンも含んでいる.オレンジアレルギーの発症を予防するためには,アレルゲンの摂取リスクを抑えることが重要である.そこで本研究では,果物ミックスジュースにおいて,オレンジとの組合せで嗜好性のよいパイナップルに含まれるタンパク質分解酵素ブロメラインの利用に着目した.パイナップル由来酵素を利用して,オレンジの主要アレルゲンであるCit s 2の濃度減少が可能かどうか,Cit s 2定量ELISAにより評価を行った.生鮮オレンジ果汁に対して生鮮パイナップル果汁を添加したところ,Cit s 2濃度は反応の時間や温度に依存して減少する傾向が見られた.特に,オレンジ果汁に対し1/40量のパイナップル果汁を添加して37℃30分間処理した場合,Cit s 2濃度が15%未満(定量下限値未満)に減少した.今後,慎重な臨床的検証が必要であるものの,オレンジアレルゲン低含有量の果物ミックスジュースの調理・製造方法として,本研究の応用が期待される.

  • 山内 啓正, 向坂 友里, 原田 雅己
    2020 年 61 巻 1 号 p. 22-30
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/04/24
    ジャーナル フリー

    種々の野菜や果物(同じ科や属のものを含む計70品目)を用いて,飲料や乳製品への混入を想定した識別法について検討した.大きさ1~数mm程度の植物片からDNAを抽出し,色素体rpl16rpl14リンカー配列(約550塩基対)をPCRで増幅した後DNA塩基配列を決定し,相同性解析およびSNP (一塩基多型)解析を実施したところ,供試植物は,近縁種間での識別が困難なものがあったが,属レベルあるいは種レベルで,38グループに分けることができた.本法は,一部の近縁種間での識別精度や酸性下でのDNA安定性に課題は残るものの,製品や原料などに混入した植物片異物の特定とさらにその混入原因究明への寄与が期待されるものと考える.

  • 鈴木 穂高
    2020 年 61 巻 1 号 p. 31-33
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/04/24
    ジャーナル フリー

    フグ毒のマウス試験では,ddY系統のマウスを用いることが定められている.ddY系統のマウスは,国立予防衛生研究所を起源とし,3社より供給されていたが,3社のddY系統コロニーは分離してから30年以上が経過している.本研究では,3社のddY系統マウスを用いて,テトロドトキシンに対する感受性の違いについて調べた.実験は参考法に従い,テトロドトキシン試験溶液をマウスの腹腔内に投与し,致死時間を測定した.その結果,ブリーダー間でマウスのテトロドトキシン感受性に有意な差は見られなかった.しかし,平均値に対するデータのばらつきを示すCV値にはブリーダー間で差異が見られ,試験結果の安定性に対するブリーダーの影響が示唆された.

  • 市川 瑶子, 中嶋 順一, 吉川 晶子, 石澤 不二雄, 西山 麗, 岸本 清子, 植村 望美, 佐藤 美紀, 鈴木 仁, 猪又 明子, 中 ...
    2020 年 61 巻 1 号 p. 34-40
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/04/24
    ジャーナル フリー

    ホスホジエステラーゼ5 (PDE5)阻害作用によるED治療効果を期待して,シルデナフィル類似化合物が配合された,いわゆる健康食品の発見事例が後を絶たない.デスカルボンシルデナフィルはシンガポールで男性の性機能向上効果をうたうコーヒーから初めて検出され,同定・構造解析された報告があったが,PDE5阻害活性を有するかは不明であった.健康食品試買調査において,都内販売店で購入した同種の効果をうたうカプセル状の製品を検査したところ,LC-UVおよびタンデム質量分析によりデスカルボンシルデナフィルと推定されるピークを検出した.これを単離し,LC-QTOF-MS,NMRおよび単結晶X線構造解析を行い,デスカルボンシルデナフィルと同定した.さらに,本物質のPDE5A1に対するIC50値を測定したところ,30 nmol/Lであった.本研究で得られたINADEQUATE NMRおよび単結晶X線構造解析の結果は,本物質の同定に有用な情報であるため,これを報告する.なお,本研究により本物質はPDE5阻害活性を有することが示されたため,本邦で医薬品成分として規制の対象となった.

  • 山下 梓, 篠原 雄治, 坂井 浩晃, 宮本 靖久, 鈴木 康司, 永富 康司
    2020 年 61 巻 1 号 p. 41-46
    発行日: 2020/02/25
    公開日: 2020/04/24
    ジャーナル フリー
    電子付録

    レトルト殺菌を受けた人毛DNAは,湯せんや電子レンジ加熱と比較して著しく断片化することから,この断片化をPCRで検出することでレトルト殺菌履歴の判別,すなわち人毛が工程内で混入したか否かを判断できると考えた.ヒトDNA特異的検出プライマーとして,レトルト殺菌判別には増幅産物長約500 bp,DNA抽出確認用に増幅産物長約200 bpとなるプライマーセットをそれぞれ設計し,微小な人毛でも評価できるようにした.増幅産物はアガロースゲル電気泳動後,蛍光染色で可視化した.混入モデル試験として,人毛をレトルト殺菌し,その抽出DNAを鋳型にレトルト殺菌判別用プライマーセットでPCRを行った結果,DNA増幅は認められず,非加熱,湯せん,電子レンジ加熱では増幅が認められた.また,DNA抽出確認用プライマーセットではいずれの加熱条件においてもDNA増幅が認められた.一方,人毛以外の混入も想定して,脊椎動物共通プライマーも同様に設計し,9種のペットや家畜由来DNAを検出できることを確認した.本手法はレトルト殺菌を受けた人毛DNAの熱分解を特異的に検出でき,レトルト食品中に発見された毛様異物の混入時期推定に有用な分析手法であると考えられた.

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