食品衛生学雑誌
Online ISSN : 1882-1006
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64 巻, 1 号
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報文
  • 鈴木 美成, 近藤 翠, 北山 育子, 穐山 浩, 堤 智昭
    2023 年 64 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2023/02/25
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー
    電子付録

    トータルダイエット(TD)試料[280試料(14食品群×10地域×2年)]を用いて,日本人の平均的な食事由来のPb曝露量を推定した.さらには,ベイズ推定を用いた二次元モンテカルロシミュレーション(2D-MCS)を行い,推定の不確かさを考慮に入れた確率論的なPb曝露量評価を試みた.推定に際しては,不検出例には下限値–上限値間の累積分布確率を用いた尤度関数を用いたベイズ推定を行った.2D-MCSによるPb曝露量の中央値は5.85 μg/person/dayであり,90%区間は2.52–17.0 μg/person/dayであった.これまでに報告されたPb曝露量分布との比較から,TD試料を用いたPb曝露量分布の推定は妥当であることが示された.Pb曝露量への寄与率は,8群(淡色野菜・海藻・きのこ類:20.0±16.1%)>1群(米およびその加工品:12.3±19.0%)>10群(魚介類:10.5±13.9%)の順で高かったが,いずれも不確かさが大きく寄与率の大きい食品を特定することはできなかった.一方で,Pb曝露量推定の不確かさには,喫食量の不確かさよりもPb濃度の不確かさからの影響が大きく,特に1群中Pb濃度の不確かさの影響は68.2%と大きかった.曝露マージンを算出したところ,曝露マージンが1未満となる確率は,幼児への発達神経毒性:14.5%,血圧:0.13%,腎臓病:0.93%と推定され,食事性Pb曝露による健康リスクは小さいが,無視できる確率ではないと考えられた.

  • 梅垣 敬三, 中村 洸友, 山田 浩
    2023 年 64 巻 1 号 p. 13-20
    発行日: 2023/02/25
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    医療関係者から提供された健康食品の有害事象の特徴を整理するとともに,各事象を因果関係評価アルゴリズムに適用した際の評価上の問題点の有無を検討した.東京都の医師会と薬剤師会で収集された290人分のデータを利用し,因果関係評価アルゴリズムは既報の方法を用いた.有害事象は,女性が73%を占め,男女とも60代から70代で,基礎疾患があり,病状等の改善目的の利用者が多く,症状としては皮膚症状が最も多かった.利用製品は天然物を原材料とするものが多く,製品中の原材料数は平均7.7,利用期間は1カ月以内が半数以上であった.大部分の症状は軽微から軽度で製品の摂取中止あるいは投薬治療により改善していた.各事象を因果関係評価アルゴリズムに適用したところ,2カ所の判断において情報の解釈に留意する必要があった.それらは,摂取中止のみで症状が自然治癒した場合は製品摂取と症状の因果関係が強いと判断できるが,摂取中止と同時に投薬治療をうけて症状が改善した場合は必ずしも製品に関連していると判断できないこと,また,患者を診察した医師の判断を客観的証拠とすることである.アルゴリズムによる事象全体の評価結果はhighly possibleが62%,possibleが30%であった.因果関係評価結果は,製品や原材料と症状の関係を示すもので,これに症状の重篤度の情報を加味することで注目すべき現象を明確にできることが期待される.

ノート
  • 佐々木 隆宏, 田原 正一, 森川 麻里, 五十嵐 友希, 貞升 友紀, 牛山 慶子, 山嶋 裕季子, 小林 千種
    2023 年 64 巻 1 号 p. 21-28
    発行日: 2023/02/25
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー
    電子付録

    「第2版食品中の食品添加物分析法」収載の亜硝酸ナトリウム分析法(2版法)の課題,すなわち,抽出効率,操作性および定量精度を向上した開発法を確立した.開発法はホモジナイズ時の水酸化ナトリウム溶液濃度を高めることで,抽出効率の低かった乾燥食肉製品においても十分な抽出が得られるようにした.操作性の向上では,消泡剤を用いて泡沫を抑えながら吸引ろ過し,固形物を除くことで定容を容易にした.さらに,酢酸亜鉛溶液の添加量不足を原因とする抽出液の濁りは酢酸亜鉛溶液の添加量を増やし,また,でんぷんによる濁りはパンクレアチンを添加することで解消した.水酸化ナトリウム溶液および80~90℃の水を添加した後,直ちにホモジナイズすることで定量精度が良好になった.また,比色法における抽出液の希釈倍率を見直すことで還元物質による発色の阻害を抑え,2版法より正確な定量値を得ることを可能にした.添加回収試験では回収率78.5~105%,相対標準偏差(RSD) 0.7~5.8%と良好な結果を得た.開発法は亜硝酸根分析の検査精度の向上に寄与できる有用な分析法と考えられた

  • 小木曽 基樹, 橋本 千尋, 鳥海 栄輔, 西村 佳那子, 飯塚 誠一郎, 阪本 和広, 山本 祐士, 山田 友紀子
    2023 年 64 巻 1 号 p. 29-33
    発行日: 2023/02/25
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー
    電子付録

    ヘッドスペース-GC/MS法による食品中のフランおよびアルキルフラン類縁体(2-メチルフラン,3-メチルフランおよび2,5-ジメチルフラン)の同時分析法を開発した.コーヒー,りんごジュース,しょうゆ,調製粉乳およびベビーフードを対象とした単一試験室での妥当性確認の結果,平均添加回収率は92~116%,中間精度も0.9~12.9%と良好な結果が得られた.さらに,低濃度添加区の標準偏差から算出した定量下限は,コーヒーで0.5~1.2 μg/kg,しょうゆで3.5~4.1 μg/kg,その他の食品(りんごジュース,調製粉乳およびベビーフード)で0.4~1.3 μg/kgと,本法は低レベルの含有を確認できる高感度分析法であり,食品安全上のリスク管理の実態調査に必要とされる性能を有することが示された.

  • 宮﨑 明子, 田口 大夢, 渡辺 聡, 緒方 京子, 永富 靖章, 上田 涼太, 清水 賢, 平尾 宜司
    2023 年 64 巻 1 号 p. 34-46
    発行日: 2023/02/25
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    我々は食品中の小麦,そば,落花生を感度高く特異的に検出可能な定性リアルタイムPCR法を開発しており,試験室間バリデーションで妥当性を確認している.本研究では市販加工食品60試料を用いて,定性リアルタイムPCR法がELISAスクリーニング検査後の確認検査として適用可能であるかを評価した.検査の対象となるアレルゲンタンパク質がELISA陽性となった19試料はすべて定性リアルタイムPCR陽性となり検査陽性と判定され,アレルゲン表示との整合性が確認された.さらに,日本の監視のための公定法と異なる判断スキームで本法の適用性を検討するために,簡便なDNA抽出キットとの組み合わせによる定性リアルタイムPCR法の定性一次検査としての適用可能性を評価した.市販の加工食品試料で表示のあるアレルゲンが検査陽性と判定され,ELISA値10 ppm未満の試料も検出可能であったことから,定性リアルタイムPCR法が定性一次検査に必要な感度と性能を有していると考えられた.

  • 堀江 正一, 渡邉 萌, 多田 敦子, 佐藤 恭子
    2023 年 64 巻 1 号 p. 47-52
    発行日: 2023/02/25
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    食品に含まれる遊離パントテン酸の迅速かつ精度の高い分析法を構築した.高タンパク食品の試験溶液は,試料2 gに水20 mLを加えてホモジナイズ抽出後,15%硫酸亜鉛水溶液1 mLを加えてよく混合し,遠心分離後,上清をろ過して試験溶液とした.低タンパク食品は,試料2 gに1%ギ酸水溶液20 mLを加え,ホモジナイズ抽出後,遠心分離し,上清をろ過して試験液とした. HPLCの測定条件は,分離カラムはL-column2 ODS,移動相は0.02 mol/Lリン酸一カリウム水溶液(pH 3.0)–アセトニトリル(95 : 5)を用い,検出波長は200 nmとした. LC-MS/MS条件は,分離カラムにL-column2 ODS,移動相に5 mmol/Lギ酸アンモニウム水溶液(0.01%ギ酸含有)–メタノール(85 : 15)を用い,検出には多重反応モニタリング(MRM)を用いた.本法による調製粉乳や栄養機能食品等に対する添加回収率は, 88%以上と良好な結果が得られた.都内で市販されているパントテン酸含有表示のある食品を分析した結果,表示値とほぼ同じ分析値が得られ,HPLCとLC-MS/MSで得られた値には,高い相関が認められた.

妥当性評価
  • 林 もも香, 神田 真軌, 吉川 聡一, 中島 崇行, 林 洋, 松島 陽子, 大場 由実, 小池 裕, 永野 智恵子, 大塚 健治, 笹本 ...
    2023 年 64 巻 1 号 p. 53-60
    発行日: 2023/02/25
    公開日: 2023/03/01
    ジャーナル フリー

    食鳥肉,鶏卵および生乳中動物用医薬品の迅速一斉分析法の妥当性評価を行った.LC-MS/MSを用い,サルファ剤,抗コクシジウム剤,マクロライド系抗生物質を含む20種類の動物用医薬品を同時に分析した.試料からアセトニトリルで抽出し,硫酸マグネシウム,クエン酸三ナトリウム,塩化ナトリウムで脱水,塩析した後,定容し試験溶液とした.4種類の畜産食品試料(鶏筋肉,合鴨筋肉,鶏卵,生乳)について,10および100 μg/kgの2濃度,2併行5日間での添加回収実験を行った.食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドラインで定める目標値に適合した薬剤は,鶏筋肉および合鴨筋肉で17剤,鶏卵および生乳では20剤すべてであった.また,本試験法における各薬剤の定量下限値は,すべての試料でMRL以下であった.本試験法を用いて99試料について実態調査を行った結果,4試料から定量下限値未満でトルトラズリル代謝物等の薬剤の残留が確認でき,継続的にモニタリングが必要であることを示唆した.

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