基準物質と分析対象物質の混合試料を調製し,1H-qNMRとHPLC/PDAの両方に付し,PDA検出器における両者の応答比を,1H-qNMRから求めた物質量比で補正し,正確な相対モル感度(RMS)を算出する方法を検討した.メチルパラベン(MPB)を基準物質,ヘスペリジン(Hes)とモノグルコシルヘスペリジン(MGHes)を分析対象としてRMS 1.25(Hes283nm/MPB255nm)および1.32(MGHes283nm/MPB255nm)を算出した.さらに,食品中のHesとMGHesの定量分析を,MPBを内標準物質としてRMSを適用したHPLC/PDAと従来法である絶対検量線法で実施した結果,両手法から得られる定量値の差はHesで2.0%以下,MGHesで3.5%以下であった
食品中L-アスコルビン酸(AsA)およびエリソルビン酸(ErA)の分析法はメタリン酸溶液で抽出しHPLCで測定する方法が一般的であるが,夾雑成分の影響を受けて判定に苦慮する事例が多く,保持時間の再現性が悪い等の問題点も多い.そこで,同一試験溶液でHPLCによる定量およびLC-MS/MSによる確認を行うことができる分析法を検討した.試料にキレート繊維を加え,EDTA・二ナトリウム含有酢酸溶液で抽出後,Oasis MCXで精製した溶液をZIC-HILICカラムを用いてHPLCで定量し,LC-MS/MSで確認を行った.8種の食品で添加回収試験を行ったところ,回収率はAsA 91%以上,ErA 88%以上であり,RSDはいずれも5.1%以下であった.また,使用表示のある8種の食品について本法と食品衛生検査指針法で分析し比較したところ,測定値のRSDは本法のほうが小さく,良好な結果であった.さらに,LC-MS/MSでプロダクトイオンスキャンおよび選択反応モニタリングにより測定したところ,いずれの試料からもAsAおよびErAを確認することができた.
食肉および魚肉製品を透析抽出して得た試料液を比色法により定量,さらに固相抽出後,陰イオン交換カラムを用いてLC-UVで確認分析する方法を開発した.透析液に2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオールを溶解した弱塩基性水溶液(トリス溶液)を用いて,恒温振とう水槽中で透析することで2.5時間で透析が完了し,比色法において従来法と近似した定量値が得られた.LC-UV確認分析法では,低温条件下,試料液中の亜硝酸根の減少を抑制しながら固相抽出することで比色法の定量値と近似した値が得られた.また,フランクフルトソーセージと魚肉ソーセージを用いた添加回収試験において回収率は比色法で82.6~104.8%,LC-UV確認分析法で88.3~97.6%であった.
カンパチの生食に伴う有症苦情29事例の喫食残品中に含まれるUnicapsula seriolaeの定量を行った.定量リアルタイムPCR(qRT-PCR)を用いて検体中のU. seriolae 18S rDNAを検出したところ,26検体で陽性となった.U. seriolae DNAが検出された事例の潜伏時間は1~12時間付近に集中(77%)していた.事例の発生に明瞭な季節性は認められなかった.患者の主な症状は下痢,嘔吐であった.U. seriolae DNAが検出された事例残品中の胞子数を測定したところ1グラム当たり1.9×105個から1.7×107個だった.しかし,市場で購入したカンパチから定量限界値以上の胞子は検出されなかったことから,事例の発生にU. seriolaeが関与している可能性が示唆された.胞子数とDNAコピー数の相関性は低かったが,胞子を計数できた事例のDNAコピー数は1グラム当たり107コピー以上だった.喫食量が判明している11事例について摂取胞子数を推定したところ,最小で3.8×106個であった.
食品中のαグルコシルトランスフェラーゼ処理ステビア(酵素処理ステビア)を,グルコアミラーゼを用いて加水分解し,付加糖を脱離させ,ステビオール配糖体のステビオシド(SS)およびレバウジオシドA(RS)としてHPLCで定量する分析法について検討した.種々の食品について酵素処理ステビアの添加回収試験を行ったところ,回収率はSSおよびRSとして80%以上,相対標準偏差は5.0%以下と良好な結果が得られた.また,ステビア表示のある市販の加工食品36製品のうち,あらかじめLC-MS/MSによる定性分析を行い,酵素処理ステビアを検出した11製品について,本法で定量した.定量値はSSとして最大で180mg/kg,RSとして最大で70mg/kgであった.
市販漬物中における不揮発性アミン類5種(プトレシン,カダベリン,ヒスタミン,チラミン,スペルミジン)の含有量と主な漬け原材料および生鮮野菜中のアミン類の含有量から漬物の種類による5種のアミン類の含有由来を類推した.漬物の種類によりアミン類の含有量には差が見られ,その中でヒスタミンおよびチラミンはそれぞれ6.0~264,2.0~369μg/gと比較的高い含有量であった.これらの含有由来は,醤油漬,味噌漬およびもろみ漬は,漬け原材料に由来してアミン類が検出されると考えられたが,ぬか漬,粕漬およびこうじ漬は,主な漬け原材料および生鮮野菜中からアミン類が認められなかったことから,製造過程中に微生物が関与して生成されたと考えられた.また,各漬物類中のアミン類含有量から勘案した結果,漬物中のアミン類は低値であるため,健康への影響は低いと考えられた.
近年,落花生のAspergillus parasiticusなどによるアフラトキシン-B1,B2,G1,G2汚染の増加が報告されている.我々は,カラシ種子等に含まれる抗菌成分であるアリルイソチオシアネート(AIT)を適用することにより,落花生の種実に常在する菌類とアフラトキシン(AF)産生菌の増殖が抑制されるかを試みた.温度・湿度を調節した密封容器内に,A. parasiticusを接種した中国産および国産落花生を収納し,AITを主成分とするカラシ抽出製剤(ワサオーロ)を適用して,AIT蒸気暴露による影響を調べた.落花生の入った容器内のAIT濃度は,3時間目に最高値の44.8ng/mLに達し,その後に減少して9週目には5.6ng/mLとなった.AITを適用した落花生の種実常在菌および接種菌に関しては,試験期間中に種実常在菌の菌数は減少したが,接種菌は初期の菌数のまま生残した.また,AF濃度について併せて測定したところ,接種したAF産生菌数とAF蓄積量との相関が認められ,AITによって常在菌類および接種菌とAF蓄積が抑制されることが示唆された.
有機塩素系殺虫剤成分S-421の魚介類中濃度を調査した.試料は2009年から2016年に小売店で購入した.S-421は魚介類からアセトン・ヘキサンで抽出し,脱脂後シリカゲルカラムで精製し,GC-ECDで定量した.国産魚介類116検体からは,検出率67%,濃度範囲<0.2~2.6ng/g,中央値0.3ng/g,平均値0.4ng/gで検出された.輸入魚介類102検体からは,検出率68%,濃度範囲<0.2~1.5ng/g,中央値0.3ng/g,平均値0.4ng/gで検出された.魚介類中S-421濃度はβ-HCH濃度と同レベルで,p,p′-DDE濃度より1桁低かった.
水,4%酢酸および20%エタノールの3種類の浸出用液で調製した試験溶液を用い,器具・容器包装の蒸発残留物試験における試験室間共同試験を行い,公定法と公定法変法の性能を評価した.試験には23機関が参加し,濃度非明示の試験溶液9種類の蒸発残留物量を測定した.蒸発乾固の際の加熱装置として,公定法では水浴を,公定法変法ではホットプレートを使用した.ほとんどの試験機関では,蒸発乾固の際,試験溶液を乾固直前まで加熱したのち,余熱で乾固させていた.その結果,加熱装置にかかわらず,両法の性能には大きな差はないことが判明した.それにより,公定法変法は公定法と同様に規格試験法として適用できると判断された.
ヘプタンで調製した試験溶液を用い,油脂および脂肪性食品用器具・容器包装の蒸発残留物試験における試験室間共同試験を行い,公定法と公定法変法の性能を評価した.試験には23機関が参加し,濃度非明示の試験溶液9種類の蒸発残留物量を測定した.蒸発乾固の際の加熱装置として水浴を用いた場合を公定法とし,ホットプレートを使用した場合,ならびに蒸発乾固前の減圧濃縮を省略した場合を公定法変法とした.ほとんどの試験機関では,蒸発乾固の際,試験溶液を乾固直前まで加熱したのち,余熱で乾固させていた.その結果,加熱装置にかかわらず,両法の性能には大きな差はないことが判明した.それにより,公定法変法は公定法と同様に規格試験法として適用できると判断された.さらに,EUで擬似溶媒として用いられる95%エタノールおよびイソオクタンを浸出用液として用いた場合の性能についても検証したところ,それらの性能はヘプタンとほぼ同等であった.