脳と発達
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54 巻, 4 号
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巻頭言
総説
  • 林 正俊
    2022 年 54 巻 4 号 p. 235-242
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー

     重症筋無力症は,この半世紀の間にその病態の多くが解明され,治療法も進歩してきた.しかし,成人発症と比べて小児期発症の症例は少なく,小児特有の成長発達を考慮した病態研究や治療方法の検討が望まれる.厚労省の疫学調査から,日本の筋無力症における発症年齢別患者数は,欧米白人の結果と異なり,幼児期の頻度が高いことが知られている.最近世界各地から重症筋無力症の報告が見られるようになり,発症年齢別患者数のパターンは東アジアと西欧で異なり,我が国のパターンは東アジア共通のものと確認された.さらに自己免疫性筋無力症と先天性筋無力症候群についても人種差が存在し,その病態や関係性が少しずつ明らかになってきている.治療法に関しても地域によって若干の選択の幅があることが解ってきた.本論文では,この病態の違いを中心に最近の知見を紹介したい.

原著論文
  • 佐伯 紗希, 榎園 崇, 田中 磨衣, 岩淵 敦, 大戸 達之, 増田 洋亮, 石川 栄一, 丸尾 和司, 高田 英俊
    2022 年 54 巻 4 号 p. 243-246
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー

     【目的】酵素誘導抗てんかん薬が小児の脂質および骨代謝に及ぼす影響を明らかにする.【方法】てんかんと診断され,抗てんかん薬を内服中の1~19歳までの自験例を対象とした.酵素誘導抗てんかん薬はcarbamazepine,phenytoin,phenobarbitalの3剤とし,1剤でもこれらを服用している者をE群,全く服用していない者をN群とした.診療録から,総コレステロール(TC),中性脂肪(TG),総アルカリフォスファターゼ(ALP),肝型ALP,骨型ALPの臨床検査値について,運動機能との関連を含めて後方視的に検討した.【結果】患者総数35例,E群13例,N群22例であり,患者背景に有意差はなかった.被検者全体でのE群とN群における臨床検査値の比較では,TGでのみE群130.6±80.0,N群80.0±39.3mg/dL(p=0.049)と有意差を認めた.運動機能別では,粗大運動能力分類システム(GMFCS)Vの児では,総ALP・骨型ALPはE群で有意に高値であった(p=0.027・p=0.034).【結論】日本人小児においても,酵素誘導抗てんかん薬は脂質や骨代謝に影響を及ぼす可能性があり,定期的な評価を要する.GMFCS Vの児は骨代謝への影響を受けやすく,ALP値測定だけでなく,骨吸収マーカーの測定や実際に骨密度の評価を行うなどの対応が望ましい.

  • 平野 翔堂, 北井 征宏, 西本 静香, 奥山 直美, 廣恒 実加, 平井 聡里, 荒井 洋
    2022 年 54 巻 4 号 p. 247-251
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー

     【目的】大脳半球離断術を受けた片側巨脳症の長期の機能予後を明らかにし,適切な目標設定を基にした療育計画について検討する.【方法】2001年1月から2020年7月までにリハビリテーション目的にボバース記念病院を受診した片側巨脳症9例(男2例,女7例,評価時年齢6~18歳)について,てんかん発作,粗大運動機能,麻痺側上肢機能および精神発達の予後を診療録から後方視的に調査した.【結果】全例が大脳半球離断術を受けており,手術年齢は2~42か月(中央値6か月)で,術後から5年以上が経過していた.てんかん発作は,9例中7例で消失,2例で残存していた.7例が自立歩行可能であり,歩行獲得年齢は3~7歳(中央値4歳)であった.9例全例で麻痺側下肢の装具療法を,2例で尖足に対する手術療法を行われていた.麻痺側上肢機能は,5例が握り離し可能で,4例は限定的な肩・肘の随意運動が可能であり,何らかの動作への参加が認められた.新版K式発達検査2001を評価できた8例のうち,1歳以上で検査した7例全例で中等度以上の知的障害(DQ<50)を認めたが,概ね乳児期後期以降の発達は獲得できていた.【結論】片側巨脳症に対しては,早期のてんかん外科手術と投薬調整に加え,自立歩行獲得に向けた理学療法と装具療法,整形外科的治療,麻痺側上肢の使用に向けた作業療法,知的障害に対する特別支援教育が必要であり,多職種連携を通じた包括的介入が重要である.

症例報告
  • 永井 康平, 高橋 幸利, 北原 光
    2022 年 54 巻 4 号 p. 252-255
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー

     種々の抗てんかん薬,脳梁離断術にて発作抑制できなかった難治てんかん例で,methylprednisolone pulse(MP)療法後に発作抑制,治療終結に至った1例を報告した.生後4か月からepileptic spasmsが出現し,生後6か月時にWest症候群と診断された.ACTH療法を行い,一時的に発作抑制されたが再発し,種々の抗てんかん薬は無効であった.3歳11か月時にLennox-Gastaut症候群と診断され,脱力発作に対して4歳10か月時に脳梁離断術(前2/3離断術)を施行した.一旦発作抑制されたが再発したため,7歳6か月時当院紹介受診,clobazam,valproate,zonisamide,lamotrigineを内服していた.薬剤整理を行い,髄液検査で蛋白,アルブミン濃度の軽度上昇を認めたため,免疫学的機序の関与を疑った.Pranlukast内服とMP療法を開始し,2回目のMP療法から発作抑制された.定期的にMP療法を12歳まで行った.現在16歳で,pranlukastも中止,治療終結し発作なく経過している.多剤抗てんかん薬を整理した後のMP療法は難治てんかんで検討できる治療である.

  • 小池 研太朗, 早川 格, 阿部 裕一, 石黒 精, 小崎 里華, 鏡 雅代, 久保田 雅也
    2022 年 54 巻 4 号 p. 256-261
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー

     ジストニアが心理的要因によって悪化や改善をする神経生理は不明である.患者は5歳時に局所性ジストニアとして発症したDYT11症例である(SGCE遺伝子NM_003919.3 : c. 233-2A>G, de novo).本症例に対して,経頭蓋磁気刺激(transcranial magnetic stimulation;TMS)により,患側の片手収縮と両手収縮の運動遂行時のsilent period(SP)を測定し,半球間抑制の指標とした.Distraction(暗算)の有無においてSPを比較した.また,運動準備状態の異常を調べるために,運動関連皮質電位(motor related cortical potentials;MRCP)と随伴陰性変動(contingent negative variations;CNV)を測定した.TMSにおいて患者のSPが,対照群とは逆に両手収縮時に片手収縮時よりも短縮した.また,その両手収縮時のSPは,distractionを加えると延長し,回復した.MRCPは正常に描出されず,CNVは出現した.結果から本例のジストニアでは,運動遂行時の異常には半球間抑制低下が関与し,運動準備の異常には運動プランの異常と認知的過負荷が影響していると考えられた.Distractionは半球間抑制低下や運動準備の異常を解除して,症状を改善させた可能性がある.ジストニアでの心理的影響の神経生理学的基礎の一部を示す貴重なデータと考える.

  • 南部 静紀, 粟野 宏之, 坊 亮輔, 洪 聖媛, 西尾 久英, 飯島 一誠
    2022 年 54 巻 4 号 p. 262-265
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー

     脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy;SMA)は遺伝性の運動ニューロン病で,SMN1遺伝子変異により発症する.SMAは近年の新規治療法の開発の結果,治療可能となった.

     Onasemnogene abeparvovec(OA)はアデノ随伴ウイルス9型ベクターを用いた遺伝子補充治療薬である.2020年に本邦で薬事承認を受けたが,国内における治療例の報告はまだない.

     症例は日齢14男児.在胎38週3日2,965gで出生.同胞がSMA1型.出生後から哺乳不良を認めたため,日齢14に紹介受診.家族歴,筋緊張低下からSMAを疑い,日齢23にSMN1のホモ接合性欠失変異を同定し,SMA1型と確定診断し,OA治療を日齢50に行った.投与後に発熱と肝機能障害,心筋トロポニンI上昇を認めた.乳児SMAの運動機能評価スコア(CHOP-INTEND)は11点から,投与後5.5か月で30点まで上昇した.

     OAの有効性の最大化には,早期治療が重要と考えられている.本症例は診断後に投与まで約1か月を要した.OA治療には適応の確認,薬剤の取り寄せ,投与体制の準備等に時間を要するため,投与経験のある施設との連携を含む,治療体制の構築が必要と考える.

  • 藤本 遼, 村上 淑, 児玉 一男, 青山 弘美, 小俣 優子, 高橋 喜子, 中澤 僚子, 小俣 卓
    2022 年 54 巻 4 号 p. 266-269
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー

     ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis;LCH)は様々な臓器で増殖するため病変は全身におよぶ.骨病変としては,錐体尖に好発するが,錐体尖は正常変異として左右差を認めることがあり,腫瘍との鑑別が重要である.今回,LCHが錐体尖に原発したため,診断に苦慮した症例を経験したので報告する.症例は8歳男児で,入院2週間前より頭痛,悪心,右外転神経麻痺を認め,血液検査,頭部CTを施行したが異常は認めなかった.頭部MRIで錐体尖の左右差を認めたものの,明らかな異常を指摘し得なかった.経過観察中に右顔面神経麻痺も併発したため,頭部CTでの骨条件,造影MRIを追加したところ,右錐体尖に骨破壊像を伴う腫瘤を認め,中等度の増強効果が認められた.入院後に生検術を施行し,LCHと診断した.本症例は,外転神経麻痺と顔面神経麻痺を併発した経過から錐体尖部付近の病変を疑い施行した,頭部CTの骨条件での骨破壊像および造影MRIでの腫瘤への造影効果を認めたことが診断の決め手となった.錐体尖部の腫瘤性病変の鑑別には,正常構造の画像所見の正確な知識とともに,頭部CTの骨条件や造影MRIが有用であることを再認識させられた症例であった.

  • 樫木 朋子, 小篠 史郎, 百崎 謙, 橘 秀和, 野村 恵子, 中村 公俊
    2022 年 54 巻 4 号 p. 270-275
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー

     Tolosa-Hunt症候群(Tolosa-Hunt syndrome;THS)は海綿静脈洞の非特異的肉芽腫様炎症病変による眼筋麻痺を伴う眼窩後部痛を特徴とする疾患で,多くは通常量のステロイド治療に反応して炎症が改善し,症状が軽快する傾向にある.症例は11歳女児,左側の眼窩後部痛の先行に続いて同側の眼筋麻痺症状が出現した.国際頭痛分類第3版beta版(ICHD-3β)Tolosa-Hunt症候群診断基準(2013年)を満たしTHSと確定診断した.通常量のステロイド治療が無効で疼痛による病悩期間が長期化した.Methylprednisolone pulse(MP)療法を開始した直後から眼窩後部痛が消失し,眼筋麻痺症状も緩徐に改善した.3年間の経過観察において再発はない.通常量のステロイドが無効なTHS症例においては,他疾患を除外した上で,MP療法は試みるべき治療法であることが示唆された.

  • 森 貴幸, 柿本 優, 竹中 暁, 下田 木の実, 佐藤 敦志, 岡 明, 高橋 幸利, 水口 雅
    2022 年 54 巻 4 号 p. 276-279
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/08
    ジャーナル フリー

     Opsoclonus-Myoclonus Syndrome(OMS)はオプソクローヌス,ミオクローヌス,失調を主症状とした神経免疫疾患である.病態と関連する自己抗体はこれまで複数報告されているが,病態との関連性には依然として不明な点が多い.免疫学的治療がOMSに対しても有効とされるが,十分な治療を経ても後遺症を残す症例が多く,その神経予後は不良である.今回抗GluD2抗体および抗NMDAR抗体が陽性の小児OMS症例を経験した.早期のrituximab治療が有効で,良好な転機を得た.自己抗体と病態との関連および早期rituximab治療の有効性に関して報告する.

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