脳と発達
Online ISSN : 1884-7668
Print ISSN : 0029-0831
ISSN-L : 0029-0831
55 巻, 1 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
巻頭言
総説
  • 榎 日出夫
    2023 年 55 巻 1 号 p. 5-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/14
    ジャーナル フリー

     国際頭痛分類第3版(2018年)は「片頭痛前兆により誘発されるけいれん発作」を,前兆のある片頭痛発作中もしくは片頭痛発作後1時間以内にけいれんをきたす病態と定義している.これは,てんかん発作に先行して頭痛を生じる稀な病態であり,歴史的にmigralepsyと呼ばれてきた概念に相当する.

     Migralepsyは「頭痛―てんかん発作」の発現順序を特徴としており,先行する頭痛の病態について強い関心がもたれてきた.Parisiらは先行頭痛を片頭痛ではなくてんかん発作と解釈した.すなわち「頭痛=てんかん発作」と理解し,この発作をictal epileptic headacheと称した.これは頭痛を唯一の症候とするてんかん発作である.脳波学的検討では,頭痛発作時の所見を根拠に頭痛がてんかん発作たり得ることを証明した報告がわずかにみられる.一方,発作時脳波でてんかん発作としての脳波変化を確認できないにもかかわらず「てんかん性頭痛」として発表された報告もある.後者における脳波所見はてんかん発作間欠期異常とみなされる.主要な国際誌でさえ脳波所見に疑義をもたざるを得ない場合がある.Migralepsyの病態解明のために,さらに脳波学的検討が必要である.その際,「脳波異常=てんかん発作」との安易な解釈を慎み,てんかん学の立場から緻密な検証が求められる.

  • 稲葉 雄二, 関島 良樹
    2023 年 55 巻 1 号 p. 12-17
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/14
    ジャーナル フリー

     脳腱黄色腫症は27-水酸化酵素活性の低下により,胆汁酸合成障害と全身諸臓器のコレスタノール蓄積によって発症する.成人期に進行する神経症状と腱黄色腫が主要症状で,新生児遷延性黄疸や発達遅滞,精神症状,難治性下痢,若年性白内障,てんかん発作などが小児期に見られるが,非特異的なため見過ごされやすい.早期発見のためにはSuspicion indexを活用し,疑った場合は血清コレスタノール濃度を測定し,CYP27A1遺伝子変異の証明により診断を確定する.ケノデオキシコール酸の服用により血清コレスタノール濃度が低下し,神経学的予後の改善が期待されるが,神経症状発現前の小児期に開始することが最も重要である.

原著論文
  • 松浦 隆樹, 浜野 晋一郎, 菊池 健二郎, 竹田 里可子, 堀口 明由美, 野々山 葉月, 代田 惇朗, 平田 佑子, 小一原 玲子, 新 ...
    2023 年 55 巻 1 号 p. 18-22
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/14
    ジャーナル フリー

     【目的】欧米のてんかん重積ガイドラインではてんかん重積状態(status epilepticus;SE)に対して第一選択薬にlorazepam(LZP)静注が推奨されているが,本邦では小児SEに対するLZP静注療法の報告は少ない.今回,小児てんかん患者におけるSEと頻発発作(repetitive seizures;RS)に対するLZP静注療法の有効性と安全性について検討した.【方法】2019年4月から2021年11月に当センターでSEとRSに対してLZP静注療法を行った37機会(男19機会)を後方視的に検討した.年齢,病因,発作型,LZP投与量,副作用を収集し,有効群と無効群に分けて比較検討した.LZP静注後から12時間以上発作が抑制されたものを有効と定義した.【結果】LZP静注年齢は2.5(0.3~17.7)歳,病因は素因性が12機会,発作型は焦点起始両側強直間代発作が15機会と最多であった.LZP総投与量は0.050(0.045~0.112)mg/kgであり,有効例はSEが12/18機会(67%),RSが5/19機会(26%)であった.SpO2低下を1機会で認めたが,重篤な副作用は認めなかった.有効群は無効群と比較し,SEが多かった(p<0.05).【結論】LZP静注療法は小児てんかん患者のSEに対して有用であり,呼吸抑制に注意すれば安全に使用できると考えられた.

  • 落合 悟, 早川 格, 阿部 裕一
    2023 年 55 巻 1 号 p. 23-26
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/14
    ジャーナル フリー

     【目的】Lacosamide(LCM)はNa+チャネルの緩徐な不活性化を選択的に促進させる新規抗てんかん薬である.本邦における小児例を含んだ報告は少ない.小児てんかんへのLCM投与は有効で安全なのかを検討する.【方法】2017年10月1日から2021年5月31日の期間に国立成育医療研究センター神経内科でLCMを処方したてんかん症例を対象とした.有効性および安全性を,発作型・てんかん病型・てんかん症候群・病因・併用薬剤の有無・年齢(16歳未満および以上)で層別化し検討した.【結果】118例(うち男性62例),平均12.4歳(1歳7か月から36歳)が抽出された.全体の有効率は37%,副作用の出現率は4%であった.発作型として16歳未満では焦点起始両側強直間代発作以外の焦点起始発作が焦点起始両側強直間代発作よりも有効性が高かった.てんかん病型として16歳未満,16歳以上ともに焦点てんかんが全般焦点合併てんかんよりも有効性が高かった.【結論】本邦の小児発症てんかんに対してLCMは既報と同等の有効性と高い安全性を示した.焦点起始両側強直間代発作以外の焦点起始発作,および焦点てんかんではLCMの有効性が高い可能性がある.

  • 下川 尚子, 是松 聖悟, 星出 まどか, 宮田 理英, 石川 順一, 植松 悟子, 藤井 裕太, 角間 辰之, 竹島 泰弘
    2023 年 55 巻 1 号 p. 27-33
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/14
    ジャーナル フリー

     【目的】日本小児神経学会医療安全委員会は「小児頭部外傷時のCT撮影基準の提言・指針」(以下,提言)を作成し2019年に発表した.その後に医療法施行規則が改正され,小児頭部外傷のCT検査に関する診療報酬の加算要件が2020年に改訂された.今回,我々は医療現場における提言や加算要件の周知度と診断アルゴリズム活用の本邦の現状とそれに関わる要因について調査した.【方法】対象は本邦で小児頭部外傷診療にかかわる医師(計7,590名)とし,方法はWebアンケートとし,決定木分析とロジスティック回帰モデルで統計解析した.【結果】1,073件の回答を得た(回収率14.1%).回答者属性は男性75.2%,女性24.8%,診療科は小児科(65.6%),脳神経外科(19.0%),小児救急科(6.1%),小児外科(5.3%),放射線科(3.2%),その他(0.8%)であった.64.6%の医師が提言を認識しており,認識に関わる要因は診療科と職位であった(p<0.001).一方,加算要件を認識している医師は全体の14.5%でシステムとして導入できているのは内2/3であった.加算要件の認識に関わる要因および診断アルゴリズム活用ありは,診療した外傷例が6名/月より多数であることと所属病院種別(大学以外の臨床研修病院)であった(p<0.001).【結論】放射線被ばくを低減するため小児頭部外傷診療にCT検査の診断アルゴリズムを医療現場で活用すべきである.これまでの提言や加算要件では十分でなかったので,各種メディアを通じて診断アルゴリズムを医師に広く知らせることが必要である.

症例報告
  • 森島 直子, 衞藤 薫, 権藤 茉由子, 南雲 薫子, 佐藤 友哉, 石黒 久美子, 西川 愛子, 中務 秀嗣, 伊藤 進, 平澤 恭子, ...
    2023 年 55 巻 1 号 p. 34-37
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/14
    ジャーナル フリー

     幼児期早期に小脳性失調と不随意運動を呈し,血清学的検査により毛細血管拡張性運動失調症(ataxia telangiectasia;AT)と早期診断し得た2歳男児について報告する.患児は,歩行開始時期までは運動発達遅滞の指摘はなかったが,歩行のふらつきが持続したため精査目的に入院した.歩行は,ふらつきを代償するために突進様に進み,転倒のしやすさがあった.また,物を掴むときにアテトーゼ様の手指がうねる動きを認めた.ATを鑑別に挙げ,血液検査でalpha-fetoprotein(AFP)高値,IgG低値,IgG2低値を認めた.遺伝学的検査にて,ATM遺伝子にフレームシフト〔NM_000051.3(ATM):c.1402_1403del[p.Lys468Glufs*18];rs58771347〕とスプライシングバリアント〔NM_000051.3(ATM):c.8585-1G>A;rs876660066〕を認め,確定診断した.ATの神経症状は多彩であり,特徴的な毛細血管拡張症状を呈するのは幼児期後半以降であるため,本症の早期診断は課題である.また,神経症状だけでなく易感染性や悪性腫瘍など合併症に対する適切な経過観察は生命予後の観点からも重要である.小脳性失調症状に加えて不随意運動を呈する児に対して血清学的検査を行うことが,早期診断につながる.

  • 横山 雅浩, 柏木 充, 卜部 馨介, 片山 大資, 北原 光, 福井 美保, 井上 彰子, 島川 修一, 芦田 明
    2023 年 55 巻 1 号 p. 38-42
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/14
    ジャーナル フリー

     可逆性脳梁膨大部病変(RESLES)は多くの病因と関連し,様々な臨床的・神経学的症状を示す.明確な症状はなかったが頭部MRIスクリーニングでRESLESが同定された急性骨髄性白血病(AML)の症例を報告する.症例は,生来健康な15歳の女子で9日前から立位時にめまいを認め,5日前から立位時に倦怠感を認めた.受診時,意識は清明で,神経学的異常所見はなかった.髄液検査では白血病細胞はなく,血液検査では末梢血中に1%の芽球と貧血を認め中枢神経(CNS)未浸潤のAMLと診断した.入院直後から抗菌薬と抗真菌剤を投与し,貧血に対して輸血を行った.入院1~2日目の輸血中に37.5~38℃の一過性の発熱を認めた.輸血後,めまいや倦怠感は改善した.入院8日目の頭部MRIでは,脳梁膨大部に拡散強調画像で高信号の病変を認めた.経過観察の頭部MRIで膨大部病変は消失した.AMLなどの悪性腫瘍の臨床経過では,輸血,CNS浸潤,薬剤,免疫低下による感染などがRESLESの原因となりうる.本症例は,輸血による一過性の発熱から膨大部病変が同定されたMRI検査までの臨床経過や期間の詳細な検討によって,輸血がRESLESの病因である可能性があった.このような患者の臨床経過はより注意深く見ていく必要がある.

  • 柴田 有里, 吉田 真, 武内 俊樹, 高橋 孝雄
    2023 年 55 巻 1 号 p. 43-47
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/14
    ジャーナル フリー

     Levetiracetam(LEV)は催奇形性や遺伝子変異原性が比較的少ないとされ,挙児希望のあるてんかん女性でしばしば第一選択薬となる.LEVの高い母乳移行率については広く知られているが,新生児薬物離脱症候群(Neonatal abstinence syndrome;NAS)のリスクに関しては,未だ不明な点が多い.我々は,LEV内服母体から出生し,NASを呈したと考えられる新生児を2例経験した.2例とも妊娠中の胎児発育や心拍モニタリングでは異常を認めず,仮死はなかった.しかし,生後1時間以降,NASスコアはそれぞれ最高4点(傾眠,多呼吸,哺乳力低下),8点(傾眠,筋緊張低下,無呼吸発作,多呼吸)を示し,気管挿管を含む集中管理を要した.比較的安全とされる薬剤についても,妊娠中の胎児への薬物移行は避けられず,新生児の管理には慎重を期す必要がある.妊娠経過や仮死の有無に関わらず,薬剤内服母体から出生した児ではNAS発症のリスクを考慮し,十分な蘇生準備と哺乳が安定するまでの適切な管理が重要である.

  • 青山 周平, 松浦 隆樹, 板橋 寿和, 石田 隼一郎, 荒川 ゆうき, 菊池 健二郎, 康 勝好, 浜野 晋一郎
    2023 年 55 巻 1 号 p. 48-51
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/14
    ジャーナル フリー

     Methotrexate(MTX)関連白質脳症はMTX投与後に脳症症状と頭部MRIで白質病変を呈する.一般的に本疾患の症状やMRI異常所見は一過性であるが,これまでに詳細な脳機能評価が行われた報告は無い.今回,MTX関連白質脳症において,急性期と回復期にSPECTで脳機能評価を行った1例を報告する.症例は14歳でリンパ腫の治療を始めた男子.15歳時,MTX髄腔内投与5日後(第1病日)に,構音障害と両上肢不全麻痺を発症した.頭部MRIで左半卵円中心に高信号を認め,MTX関連白質脳症と診断した.2週間後に症状は消失したため,追加のMTX髄腔内投与を行ったが,第23病日に再び構音障害と左上肢不全麻痺,第55病日に意識障害,嚥下障害と両上下肢不全麻痺を認めた.第65病日のethyl cysteinate dimer(ECD)-SPECTでは両側大脳皮質にびまん性の血流低下を認めたが,同時期のiomazenil(IMZ)-SPECTではbenzodiazepine受容体の集積低下を認めなかった.その後,4週間で症状は消失し,ECD-SPECTでも脳血流は正常化した.IMZ-SPECTでは急性期と同様に集積低下を認めなかった.追加のMTX髄腔内投与は行わなかったが,19歳時で寛解を維持し,神経学的後遺症なく経過している.MTX関連白質脳症は神経細胞の一過性の機能低下を来すが,脱落を来さない病態であることが推測された.

  • 坂田 雄祐, 尾髙 真生, 坂本 正宗, 山本 亜矢子, 大山 宜孝, 武下 草生子, 渡辺 好宏
    2023 年 55 巻 1 号 p. 52-57
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/14
    ジャーナル フリー

     近年,小児の抗N-methyl-D-aspartate receptor(NMDA受容体)脳炎に対するrituximab(RTX)投与の有効性および安全性に関する知見が増えてきているが,本邦での報告は未だ少ない.今回我々は,intravenous methylprednisolone療法(IVMP)とintravenous immunoglobulin療法(IVIG)を施行するも抵抗性を示し,RTXが著効した4歳女児の1例と,IVMP,IVIG,intravenous cyclophosphamide療法がそれぞれ著効したが再発を繰り返し,RTX投与およびmycophenolate mofetil導入を施行した,抗myelin-oligodendrocyte glycoprotein抗体併存例の13歳男子の1例を経験したため報告する.RTXの早期投与は再発抑制効果に優れ,国際的にも使用が増加しており,1st line治療に抵抗性を示す症例や再発例では積極的に検討されるべきである.

  • 佐々木 彩, 榊原 崇文, 竹田 洋子, 越智 朋子, 宮坂 俊輝, 野上 恵嗣
    2023 年 55 巻 1 号 p. 58-63
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/14
    ジャーナル フリー

     点頭てんかん(IS)に対しvigabatrin(VGB)を投与した4例にvigabatrin-associated brain abnormalities on magnetic resonance imaging(VABAM)を認めた.症例1は17か月女児で,4か月時に病因不明のIS発症.9か月時にVGB開始.VGB開始後1か月目と5か月目に画像異常なし.8か月目に中心被蓋路にT2強調像(T2WI)高信号と視床にT2WIと拡散強調像(DWI)高信号を認めたが関連症候なくVGB中止で信号異常消失.症例2は6か月女児.1か月時に病因不明のIS発症.5か月時にVGB開始.VGB開始後1か月目に前交連と淡蒼球にDWI高信号を認めたが関連症候なく治療継続.2か月目(脳梁離断術後12日目)に高血圧と視床の新規信号異常が出現.VGB減量で高血圧改善し信号異常消失.症例3は低酸素性虚血性脳症による脳性麻痺の13か月男児で,4か月時にIS発症.12か月時にVGB開始.VGB開始後1か月目に被殻,淡蒼球と中心被蓋路にT2WIとDWI高信号,前交連と視床にDWI高信号を認めたが関連症候なし.VGB中止で信号異常改善.症例4は21トリソミーの14か月男児で,11か月時にIS発症.13か月時にVGB開始.VGB増量中にミオクロニー発作が増悪し投与中止.VGB中止後(VGB開始後1か月)に前交連,淡蒼球と脳弓にDWI高信号.VGB中止でミオクロニー発作改善,VGB中止後4か月目に信号異常消失.VABAMの出現頻度は既報告より高い可能性がある.VGB投与中は,定期的な拡散強調像を含む画像評価が必要である.

特集・第51回小児神経学セミナー
<ウイルスと小児神経>
地方会
feedback
Top