第64回日本小児神経学会学術集会を「新たなる創造とその調和」をテーマとし,2022年6月2日から4日間の会期で群馬県高崎市において開催した.開催目的の主眼を本学会の国際化とし,さらに神経難病の患者さんとの交流推進と卒後教育の充実を行った.日本小児神経学会会員としての35年間は,さまざまな人との出会いの連続であり,その結果,今を生きていることに感謝したい.
【目的】本研究では,Rett症候群児(者)の手の常同運動についての保護者の考えと,保護者の考えに影響を与える子どもの因子を明らかにする.【方法】対象は日本レット症候群協会会員の131家族とレット症候群支援機構会員の63家族とした.本調査は2020年に手の常同運動についての保護者の考えを含んだ自記式質問紙を用い郵送と返送によって情報を収集した.【結果】72名の保護者から返送頂き,66名の保護者から手の常同運動についての考えが収集された.保護者から挙げられた考えは「手の常同運動に対する悩みや心配,ストレス等」33名,「手の常同運動による皮膚損傷の発生」29名,「手の常同運動を減らす等の必要性がないという思い」28名,「手の常同運動を減らしたい等という思い」26名の順であり,23の考えが抽出された.「手の常同運動に対する悩みや心配,ストレス等」を挙げた保護者の子どもは,挙げなかった保護者の子どもに比べ,知的発達が遅れ,上肢の操作性が低かった.「手の常同運動を減らしたい等という思い」を挙げた保護者の子どもは,生活年齢が低く,知的発達が遅れ,上肢の操作性が低かった.【結論】本結果より,Rett症候群児(者)の保護者は手の常同運動に対して,様々な考えを持っていることが示された.今後,保護者の考えに影響を与える子どもの因子に留意しつつ,保護者の考えを把握しながらの支援が必要である.
【目的】小児の焦点てんかん患者においてlacosamide(LCM)とlevetiracetam(LEV)の有効性と安全性について比較検討した.【方法】当院で新規にLCMおよびLEVでの単剤療法を開始した4歳以上16歳未満の焦点てんかん患者について,有効性と副作用について診療録を用いて後方視的に検討した.有効性はLCMまたはLEVを基本維持量まで増量した日から12か月間の発作頻度で評価し,発作頻度を指標に著効(発作消失),有効(50%以上減少),無効(50%未満減少),増悪で判定した.【結果】対象はLCM 23例(男14例),LEV 33例(男18例)で,治療開始時の年齢がLCM 4.1歳~13.6歳(中央値7.8歳),LEV 4.0歳~15.8歳(中央値8.8歳)であった.有効性はLCMが著効15例(65.2%),有効6例(26.1%),LEVが著効21例(63.6%),有効8例(24.2%)で統計学的有意差はなく,いずれの群でも増悪症例は認めなかった.副作用についてもLCM 6例(26.1%),LEV 7例(21.2%)で有意差なく,副作用のために投薬中止する症例はみられなかった.副作用の内訳は,LCM群で眠気5例,不注意1例,頭痛1例,鼻咽頭炎1例,LEV群で易刺激性・易攻撃性3例,眠気3例,頭痛1例,気分不良1例,嘔吐が1例であった.【結論】小児の焦点てんかん患者においてLCM単剤療法とLEV単剤療法は同等の有効性,安全性であった.
RHOBTB2遺伝子はRho GTPaseをコードし,ユビキチンリガーゼ複合体のアダプタータンパク質として機能する.同遺伝子の病的バリアントによるRHOBTB2関連疾患は2018年に報告され,早期乳児てんかん性脳症,運動異常症などを呈し,現在までに30例の報告がある.運動異常症は常在するものと発作性のものが混在し,約半数に発作性の片麻痺がみられ小児交互性片麻痺に類似する.また意識障害が遷延する脳症様のエピソードやけいれん重積発作が多くの例でみられ,一部は軽微な頭部打撲によって誘発される.我々は,頭部打撲後に意識障害と片麻痺が遷延し,エクソーム解析でRHOBTB2に既報告のミスセンスバリアント(NM_001160036.2:c.1531C>T[p.Arg511Trp])を検出した男児例を経験した.患者は生後4か月でてんかんを発症し,幼児期から頭部打撲後に一過性の意識障害を繰り返していた.9歳時に片麻痺性片頭痛の発作を疑わせる症状所見を認め,ステロイドパルス療法やacetazolamideなどによる治療を行い後遺症なく退院した.同じバリアントの既報6例中2例で同様のエピソードが認められており,頭部打撲に特に注意を要する.また片麻痺性片頭痛や小児交互性片麻痺を疑う際,RHOBTB2関連疾患も考慮する必要がある.
Basilicata-Akhtar症候群はMSL3のヘテロ接合性もしくはヘミ接合性変異によるまれなX連鎖性疾患で乳児期からの全般性発達遅滞,経口摂取障害,筋緊張低下などを特徴とする.これまでに約40例が報告されているが,本邦では報告されていない.今回,本邦初のBasilicata-Akhtar症候群の例を報告する.症例は日本人の7歳男児で全般性発達遅滞,筋緊張の低下,経口摂取障害を呈した.身体所見として内眼角贅皮,眼角解離,眼瞼裂斜下,広い鼻梁,上向きの鼻孔,テント状の上口唇,垂れた耳,短い手足,先細りの指,外反膝,扁平足,胸郭変形,側弯を認めた.アレイCGH解析で,MSL3の全コード領域と,ARHGAP6の5’側のみを含んだXp22.2のヘミ接合性欠失を認めた.本症例の表現型はこれまでに報告されているBasilicata-Akhtar症候群に一致するものであった.本症例の病態は機能喪失を引き起こすMSL3の全コード領域の欠失であった.本症例と同様にMSL3の全コード領域とARHGAP6の5’領域のみを欠失するBasilicata-Akhtar症候群の女児2例の報告があるが,ヌリソミー男児例は過去に報告がない.この欠失を有する3例とMSL3の一塩基バリアントを有する既報告例との間に,臨床症状の違いは認められなかった.本症候群の機能的特徴を明らかにするためには,多様な民族から様々なバリアントを持つ症例をさらに集積することが重要である.
異常行動・言動で発症し,意識障害,筋緊張亢進,不随意運動を呈した抗N-methyl-D-asparate(NMDA)受容体脳炎の15歳女子例を経験した.右卵巣に腫瘍が認められたため,腫瘍摘出術に加え,methylprednisolone(mPSL)パルス療法,血漿交換を行ったが,治療の効果を認めなかったため,発症16日目からcyclophosphamide大量療法を開始し,発症30日目からrituximabの投与を行った.発症50日目頃から徐々に意識レベルが改善し,発語がみられ,歩行が可能となったものの,経口摂取が進まず,認知機能の改善に乏しかった.発症160日目からmethotrexate(MTX)とmPSLの髄腔内投与を行ったところ,経口摂取可能となり,認知機能の改善を認めた.発症228日目に,日常生活可能な程度までADLが改善し退院となった.MTX髄腔内投与は,他の治療法で改善に乏しい抗NMDA受容体脳炎において考慮すべき治療法である.
抗N-methyl-D-aspartate受容体(抗NMDA受容体)脳炎は,精神症状や不随意運動で発症することが多いため,乳幼児においては精神症状がわかりにくく診断に苦慮する.また,臨床症状が重篤で後遺症を残すことがあるため,早期診断と早期治療が望まれる.近年,抗NMDA受容体脳炎の補助診断として脳血流SPECTや18F fluorodeoxyglucose positron emission tomography(FDG-PET)の有用性が報告されている.今回,右上下肢優位の不随意運動で発症し,arterial spin labeling(ASL)で左大脳半球の血流上昇を認めた抗NMDA受容体脳炎の1歳8か月男児例を経験したので報告する.
てんかん重積状態を認めた小児に対して,病院前治療として使用したmidazolam(MDL)口腔用液により,36機会/50機会(72%)で有効性を示し,発作停止までの時間は中央値4.6分であった.有効例は無効例に比べて規定量投与の割合が高かった(p=0.047).因果関係の否定できない呼吸抑制を認めたのは1機会(2%)であった.MDL口腔用液は,即効性のある有効性の高い治療であるが,呼吸抑制に注意が必要である.