脳と発達
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51 巻, 1 号
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巻頭言
原著論文
  • 犬塚 幹
    2019 年 51 巻 1 号 p. 5-9
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

     【目的】血管迷走神経性失神 (vasovagal syncope ; VVS) は長時間の立位やストレスが誘因となり発症し, 自律神経調節の異常が関与するとされる. 小児のVVSは報告例が少ないため臨床像は不明な点が多く, 客観的基準を用いた診断も難しい. 今回, これらを明らかにするため検討を行った. 【方法】2005年4月から2018年3月までに当科を受診した小児のうち, 臨床症状からVVSが疑われた35例 (失神総数90回) を後方視的に検討した. 【結果】発症年齢は5~15歳 (中央値11歳) で, 女児は男児の約2倍認められた. 失神した場所は60回 (67%) が学校内で, 54回 (60%) は式典や音楽の授業など長時間の立位でみられた. 11例 (31%) は失神時にけいれんがみられ, 7例 (20%) は転倒により受傷していた. 検査でVVSと確定できた例は起立試験35例中9例, ティルト試験 (head-up tilt test ; HUT) 8例中5例で計14例 (40%) であった. 再発は27例 (77%) に認められ, 20例 (57%) は1年以内に再発していた. めまい・立ちくらみが認められる例の失神にはmidodrine hydrochlorideが奏効した. 【結論】起立試験とHUTの組み合わせによりVVSの診断率を向上させることは可能である. 小児のVVSは成人より再発が多く, 転倒による怪我など日常生活上のリスクが少なくないため, 積極的な治療介入が望ましい.

  • 平田 佑子, 浜野 晋一郎, 松浦 隆樹, 大場 温子, 池本 智, 樋渡 えりか
    2019 年 51 巻 1 号 p. 10-14
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

     【目的】点頭てんかん症例の発症から治療導入までの期間 (treatment lag ; TL) が1か月を超える場合を治療遅延として, その割合と要因の年代変化を検討する. 【方法】1997~2017年の間, 2歳以下でスパズムを発症した点頭てんかん症例を対象とした. 発症初期の経過が不明な症例と在院中発症例を除外した. 診療録からTL, 発症から診断・治療導入日までの経緯を後方視的に調査し, TL>1か月となる治療遅延要因を受診側要因と診療側要因に分類した. 発症日で5年毎に4期に分け, TL, 治療遅延とその要因の年代変化を検討した. 【結果】対象は185例で, TLの中央値は0.7 (0~13) か月, TL>1か月は73例 (39.5%) であった. 治療遅延要因は受診側要因のみが68.5%, 診療側要因のみが21.9%, 両要因の併存が9.6%だった. 年代変化ではTL, TL>1か月の比率に有意な変化はなかったが, 第3期以降はTL>4か月の症例はいなかった. 治療遅延要因は, 第2期以降は受診側要因が約70%を占めた. 【結論】点頭てんかんにおいてTL>4か月の症例は最近10年間で認めなくなったが, TL>1か月の割合に変化はなかった. 治療遅延要因は, 診療側要因の比率が減少, 相対的に受診側要因の比率が増加し約70%を占めた. 治療遅延をなくすためには, 乳幼児保育に関わる人の点頭てんかんに対する認識を高める必要があると考えられた.

  • 星出 まどか, 是松 聖悟, 宮田 理英, 三牧 正和, 村松 一洋, 宮本 雄策, 山中 岳, 下川 尚子, 山内 秀雄
    2019 年 51 巻 1 号 p. 15-18
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

     【目的】昨今の静注用抗けいれん薬の使用状況と有害事象を把握し, 安全使用の向上に努めることを目的として調査を行った. 【方法】小児神経専門医1,118名を対象にWebアンケートを行い, 2015年度における, 15歳未満の小児のけいれんに対する静注用抗けいれん薬の使用実績と有害事象の有無を質問した. 【結果】回答者145名 (回収率13.0%) のうち, 静注用抗けいれん薬を使用した86名の年間実施件数の総数は2,355件であった. 各注射製剤の実施件数はmidazolam (MDL) が最多 (968件) で, diazepam (DZP), fosphenytoin (FOS) が続いた. 保険適応外のDZP注腸 (22件), MDL鼻注 (50件), 修正在胎45週未満児へのMDL静注 (26件), 2歳未満児へのFOS静注 (72件), thiopental/thiamylal静注 (128件) 等もみられた. 24件 (1.4%) で, 呼吸停止やその他濃厚な処置や治療を要した有害事象が発生していた. 【結論】健康保険適応外使用も含め, 多くの抗けいれん薬が安全に投与されていたが, 一部に有害事象がみられた. 多くはけいれん重積時に使用されているため, 有害事象がすべて薬剤による副作用とは限らず, けいれんそのものにより生じた急変が含まれると考えるが, 医療者はより一層患者の状態への注意を払いながら薬剤を使用すべきである.

  • 宮本 雄策, 村松 一洋, 星出 まどか, 宮田 理英, 三牧 正和, 山中 岳, 下川 尚子, 是松 聖悟, 山内 秀雄
    2019 年 51 巻 1 号 p. 19-23
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

     【目的】日本小児神経学会医療安全委員会では, 脳波検査時の鎮静についての指針作成を目指しており, その前段階として, 脳波検査時の鎮静における現状をアンケート調査した. 【対象と方法】小児神経専門医1,118名を対象にWebアンケートを行った. アンケートは, 2015年度の常勤施設で, 15歳未満の小児に対し脳波検査時に行った薬物鎮静についての回答を求めたものである. 鎮静に用いた薬物, 経口摂取制限の有無, 観察および帰宅許可の基準の有無についてと, 有害事象の経験の有無を質問した. 【結果】179名から回答が得られた (回収率は16.0%). 脳波検査を実施している医師は163名で合計概数は28,390件, そのうち157名の医師が薬物鎮静を実施し概数は13,829件であった. Triclofos sodiumを151名 (96.2%), chloral hydrateを125名 (79.6%) の医師が使用していた. 有害事象の報告は3件 (0.02%) であり, 内訳はふらつき等による外傷2件と呼吸停止1件であった. 【結論】回収率が低く全体像を把握はできなかったものの有害事象の報告はまれであった. しかしながら, 呼吸停止の報告もあり, 十分な観察と緊急時に備えた準備の重要性を周知することが必要である.

症例報告
  • 藤原 由里香, 佐野 賢太郎, 阿部 勝宏, 武藤 順子, 山口 解冬, 加藤 光広, 中島 光子, 松本 直通, 林 北見, 髙梨 潤一
    2019 年 51 巻 1 号 p. 25-28
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

     難治性てんかんに視機能異常を合併したcyclin-dependent kinase-like 5 (CDKL5) 遺伝子変異 (CDKL5:c.2023_2026del [p.Phe675Ilefs*108]) を有する男児を経験した. 症例は, 40週2,958gで出生し, 周産期異常を認めず, 多発奇形や皮膚所見がない男児. 日齢25から四肢をぴくぴくする数秒の発作を認め, 日齢29に精査目的で初回入院となった. 頭部MRIや髄液検査で異常はなく, 発作時脳波から部分発作と診断し, 抗てんかん薬の投与を開始した. 4か月時にシリーズ形成性のepileptic spasmsが出現し, 脳波でhypsarrhythmiaを認めWest syndromeと診断し, ACTH療法を施行した. 治療効果は一時的で, 内服治療を継続したが難治に経過した. 4か月時に対光反射は正常であったが, 光に対する反応, 追視を認めなかった. 視覚誘発電位や網膜電図検査より皮質盲と診断された. その後の遺伝子検査でCDKL5遺伝子変異が判明した. CDKL5遺伝子変異の症状のひとつに視機能異常が挙げられている. 新生児期発症の難治性てんかんに視機能異常を合併した場合, CDKL5遺伝子変異の可能性を考慮すべきと考えられた.

  • 山形 誠也, 服部 文子, 宮 冬樹, 久保田 裕子, 遠藤 剛, 根岸 豊, 中村 勇治, 角田 達彦, 小崎 健次郎, 齋藤 伸治
    2019 年 51 巻 1 号 p. 29-32
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

    Pogo transposable element with zinc finger domain (POGZ) 遺伝子は近年, 本遺伝子の変異と自閉症スペクトラム障害および知的障害の関連性が指摘されている. これまでに40例の報告があり, 言語発達遅滞, 視力障害, 小頭症, 肥満傾向といった表現型が指摘されている. 脳波異常は20%に報告されているが, てんかんとして治療を要した症例の報告はない. 今回, これまでに報告のなかった難治性のてんかんと退行を有する症例にde novoPOGZ遺伝子短縮型変異 (c.2102del;p.Pro701Leufs*18) をヘテロ接合性に同定した. POGZ変異が原因となる表現型は自閉症スペクトラム障害に止まらず, 多彩な神経症状を示し, 進行性のてんかん症候群の原因となる可能性が示唆された.

短報
  • 山根 希代子, 前岡 幸憲, 米山 明
    2019 年 51 巻 1 号 p. 33-34
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

     【目的】児童発達支援センター等, 障害児通所支援事業所では様々な発達支援を要する児童および, 家族への支援を行っている. 外国にルーツを持つ子どもも在籍しており, その実態を把握するためにアンケート調査を実施した. 【方法】全国児童発達支援協議会にて加盟施設に対して毎年実施している実態調査に, 外国にルーツを持つ子どもについての項目を設け, 年齢と児童数, 保護者の国籍, 支援上の配慮, 支援の上での課題についてアンケート調査を行った. 【結果】加盟493施設のうち有効回答275件, 回収率55.7%, 総契約児13,759名中, 外国にルーツを持つ子どもは175名で, 1.27%であった. 父母とも中国国籍, 母が中国国籍, 母がフィリピン国籍が多く, また, 様々な国の国籍を持っていることが分かった. 配慮事項として, 言語に関わる内容が多くみられ, 給食を提供しているところでは, 食に関わる工夫が多く記述されていた. 課題として, 言語・文化背景の違いによる支援の難しさが挙げられていた. 【結論】多言語で書かれた日本の療育・教育システムの簡便なパンフレットおよび, より具体的な地域療育システムの説明パンフレットの作成, 文化背景の理解のために他国の療育・教育, 障害者支援システムの情報収集等が今後の課題と考えられた.

  • 横山 桃子, 美根 潤, 松村 美咲, 束本 和紀, 岸 和子, 竹谷 健
    2019 年 51 巻 1 号 p. 35-37
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

     マイコプラズマは中枢神経合併症を認めることがあるが, 髄膜炎尿閉症候群の症例は検索する限り認めない. 症例は14歳男子. 発熱, 頭痛, 嘔吐が出現, 髄膜刺激症状を認め, 咽頭のマイコプラズマLAMP法陽性, 髄液細胞数と蛋白の増加より, マイコプラズマに関連した無菌性髄膜炎の診断で入院とした. Minocyclineを投与後尿閉が出現したため, 髄膜炎尿閉症候群と診断して, ステロイドパルス療法を追加した. 発熱, 頭痛, 嘔吐は改善したが, 傾眠傾向が出現した. 覚醒時脳波で徐波を認めたため, 髄膜脳炎と診断し, ガンマグロブリン療法を開始した. その後, 意識状態は改善し, 尿閉も12日間で軽快し, 後遺症なく, 退院した. 本症例はマイコプラズマに対する免疫応答により, 髄膜炎尿閉症候群, 髄膜脳炎を発症したと考えられた. マイコプラズマはself-limitedな疾患であり, 治療の効果と, 自然軽快との判別が難しい場合も多いが, 後遺症を残す重症脳炎の場合もある. 本症例の経験から, マイコプラズマに関連した髄膜炎尿閉症候群に対し, 早期のガンマグロブリン療法を考慮する必要があると思われた.

  • 種岡 飛翔, 里 龍晴, 橋本 和彦, 林田 拓也, 西口 奈菜子, 森内 浩幸
    2019 年 51 巻 1 号 p. 37-39
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/02/28
    ジャーナル フリー

     脊髄性筋萎縮症 (spinal muscular atrophy ; SMA) は体幹, 四肢近位筋優位に進行性の筋力低下を示す常染色体劣性遺伝性疾患である. 特に重症であるⅠ型は人工呼吸管理を行わない場合には生命予後は2歳未満とされている. これまで疾患特異的な治療法はなく対症療法を行うほかなかったが, 疾患修飾薬としてアンチセンスオリゴヌクレオチド製剤であるnusinersenが発売され, 本邦では2017年7月3日に承認された. 今回我々は4か月時にSMAと診断後, 5か月時より速やかにnusinersenを導入し, 現在までに負荷投与, その後の維持投与1回目の投与を終了した1歳0か月の男児例を診療中である. 運動機能評価ではChildren’s Hospital of Philadelphia Infant Test of Neuromuscular Disorders (CHOP-INTEND) scoreで初期評価から23点の上昇 (7点から30点) を認めた. 一方で経過中喀痰による気道閉塞や胃食道逆流症, 誤嚥性肺炎, 嚥下困難などの問題が発生しており, 胃瘻造設や気管切開を要している. Nusinersen使用例個々の詳細な臨床経過はまだ不明な部分も多いため, 貴重な情報と考えて報告する.

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