脳と発達
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56 巻, 1 号
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巻頭言
総説
  • 笹月 桃子, トカン ヴラッド, 酒井 康成, 吉良 龍太郎, 大賀 正一
    2024 年 56 巻 1 号 p. 5-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

     近年,神経・筋疾患,小児がん,造血器疾患に対する新しい遺伝学的解析法と治療薬が次々に開発され,これらは難治疾患を抱える子どもと家族に大きな希望を与えた.一方,小児科医が判断すべき治療法とその選択過程は複雑・多様化した.小児科医が子どもの代弁者として決断すべき選択肢は,法的・倫理的妥当性が許容される範囲内で,今後さらに多様化すると予測される.患児の利益をどのように擁護し,何を守るべきかに関して,主治医は決断までの過程を短縮・効率化することはできない.生と死の臨界点に際し,家族・医療者が双方に納得する合意を形成するには,合意を求めずに議論を尽くす覚悟もまた必要である.小児科におけるトランスレーショナル研究とは,実践臨床から生命倫理の本質を見出す努力に他ならず,答えのない難問について悩み続ける科学ではなかろうか.

特集・第52回小児神経学セミナー
<小児神経疾患の新しい治療の扉を開く>
  • 熊田 聡子, 城所 博之
    2024 年 56 巻 1 号 p. 9-10
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー
  • 小沢 浩
    2024 年 56 巻 1 号 p. 11-17
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

     医師が外来で実践できる評価法や外来で行える心理社会的治療「行動処方」を紹介した.学校自己採点法は,子どもに学校を100点満点で自己採点してもらい,マイナスの理由を聞く.生活環境採点法は,学校だけでなく,家庭や自分自身についての評価,家族の評価など環境を知ることが大切であるため,生活環境採点法を作り,子どもと保護者において点数化をしてもらう.大人ごっこは,からかってくる子を無視して無言で離れること.ありがとう作戦は,好ましい行動に対し「ありがとう」と意識していう手法である.

     医師が,外来で行っている独自の手法を,行動処方などの形で示し,汎化させて,他の医師の外来の手助けになることを願ってやまない.

  • 本田 涼子
    2024 年 56 巻 1 号 p. 18-23
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

     薬剤抵抗性てんかんは患者や介護者の生活に多くの影響を及ぼし,認知機能やメンタルヘルスなどに副次的な問題を引き起こす可能性がある.市販されている多くの薬剤への反応性が乏しい中,この薬剤抵抗性てんかんに対象を絞った,新しい薬剤(fenfluramine,soticlestat,cannabidiol)の臨床試験が現在行われており,国内での承認に向けた動きがみられている.また,てんかん外科手術についても,定位的頭蓋内脳波(stereoelectroencephalography;SEEG)の登場により適応の見直しや手術成績の向上が期待されている.診断技術の進歩と新しい薬剤の開発により,早期診断と適切な治療へのアクセスが改善されつつあることから,これらの薬剤の特徴やSEEGについて概説する.

  • 粟屋 智就
    2024 年 56 巻 1 号 p. 24-32
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

     小児神経診療で遭遇する稀少疾患の患者に対して,私たち小児神経科医が出来ることは,これまでほとんど対症療法のみであった.ここ数年,脊髄性筋萎縮症やDuchenne型筋ジストロフィーなどで画期的な治療法が実用化され,稀少疾患の治療薬開発が注目を集めている.本稿では,近年承認されたそれらの薬剤についてその特長について述べるとともに,従来の薬剤開発とそれらの薬剤開発の手法の違い,稀少疾患研究を実際の治療薬につなげるために必要な創薬開発のステップ等について概観し,私たち小児神経科医が出来ることを考えてみたいと思う.

原著論文
  • 土肥 周平, 山田 博之, 藤林 洋美, 上田 雅章, 港 敏則
    2024 年 56 巻 1 号 p. 33-38
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル 認証あり

     【目的】有熱時発作群発症例の臨床的特徴や血液検査所見を調査し,その管理方法について検討する.【方法】対象は2011年から2021年に当院小児科に入院した有熱時発作群発症例でカルテを用いた後方視的検討を行った.てんかんや発作に関連する基礎疾患がある例,てんかん重積症例は除外した.発作群発回数別に,2回群発群(A群)と3回以上群発群(B群)に分けて検討した.調査項目は,年齢,既往歴,家族歴,入院期間,体温,発症時の血液検査,治療内容とした.【結果】症例は計223例で,A群169例,B群54例であった.退院時に診察上,神経学的異常所見を認めた症例はなかった.B群ではA群と比較し,低年齢で入院期間が長く,血清ASTとALTは高値で血糖値は低かった(p<0.05).Diazepam(DZP)坐薬を2回目発作後と3回目以降の発作後に投与した症例のうち,各々80%と90.9%でそれ以降の発作を認めなかったが,DZP坐薬使用の有無による3回目以降の発作抑制率に有意差はなかった.【結論】有熱時発作群発児の約1/4が3回以上の発作を繰り返した.血清AST,ALTによる発作群発予測は感度,特異度は低く更なる検討を要する.DZP坐薬使用による群発抑制効果も明確ではなかった.発作群発例の入院適応や治療は,病院へのアクセスや地域での医療資源,保護者の負担を踏まえた判断が必要と考える.

  • 鈴木 浩太, 加賀 佳美, 稲垣 真澄
    2024 年 56 巻 1 号 p. 39-46
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル 認証あり
    電子付録

     【目的】神経発達症児に関わる専門医師が不足し,初診待機期間の長期化が問題になっている.本研究では,一般小児科医と神経発達症専門医師(専門医師)が感じている現状と理想の医療体制を明らかにし,適切な医療資源の配分や初診待機の問題について検討することを目的とした.【方法】一般小児科医と専門医師を対象にして,オンライン調査を実施し,808名から回答を得た.医療資源の配分の認識について,一般小児科医と専門医師間,および,現状と理想の医療体制間の違いを検討した.【結果】ADHDおよび自閉スペクトラム症(ASD)に関して,一般小児科医と専門医師の両方で,介入不要な症例,薬物療法の継続のみの症例,心理社会的なサービスが必要な症例について,専門外来で継続的に支援すると回答した割合が,理想よりも現状の医療体制で有意に高かった.また,専門医師で,薬物療法の継続のみの症例について,一般小児科および併診で継続的に支援すると回答した割合が,理想よりも現状の医療体制で有意に低かった.【結論】現状では,神経発達症児の継続的な医療の負担が専門外来に集中していることが考えられた.専門医師は,薬物の処方等を一般小児科医で行ってほしいと望んでいることが示唆された.したがって,一般小児科で実施可能な業務は,一般小児科で行われることが必要である.このことは,適切な医療資源の配分につながり,初診待機の問題を軽減する要因となると考えられた.

症例報告
  • 吉田 真衣, 野崎 章仁, 寺﨑 英佑, 森 篤志, 石原 万理子, 井上 賢治, 柴田 実, 加藤 竹雄
    2024 年 56 巻 1 号 p. 47-52
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル 認証あり

     脊髄髄膜瘤(myelomeningocele;MMC)は二分脊椎の最重症型であり,症状はMMCの存在部位,水頭症やキアリ奇形II型の程度などにより多彩である.呼吸合併症は小児期の生命予後にとって重要である.MMCでは睡眠関連呼吸障害の合併を認め,近年その有病率が高いことが報告されている.症例は胸部から腰仙部にMMCを認めた8歳女児.6歳と7歳時にキアリ奇形II型の治療のため脳外科手術が行われた.睡眠関連呼吸障害の認識が乏しく,定期的な呼吸機能評価を行っていなかった.8歳の感冒罹患時に排痰困難による窒息症状やSpO2低下を認め,呼吸障害合併の可能性を考慮し呼吸機能評価を行った.問診および質問紙での評価では睡眠関連呼吸障害の存在を把握できなかった.簡易モニターで評価を行い,3% oxygen desaturaion index(ODI)が70.9および無呼吸低呼吸指数が12で,無呼吸時の胸郭運動が消失していたことより中枢性睡眠時無呼吸症候群と判断した.非侵襲的陽圧換気療法を導入し,3%ODIが1および無呼吸低呼吸指数が1へと改善した.その後,呼吸状態の悪化は認めていない.MMCの健康管理において,定期的な睡眠関連呼吸障害の評価が重要である.海外では睡眠関連呼吸障害を含めた包括的な二分脊椎ガイドラインがあるが,本邦には存在しない.適切な健康管理を行うためにも,本邦でのMMCに対する包括的な診療ガイドラインが必要である.

  • 野中 双葉, 原口 康平, 里 龍晴, 宮﨑 あかね, 渡辺 麻美, 森内 浩幸
    2024 年 56 巻 1 号 p. 53-57
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル 認証あり

     可逆性脳血管れん縮症候群(reversible cerebral vasoconstriction syndrome;RCVS)は主に雷鳴頭痛によって発症し,多発性可逆性分節性脳血管れん縮を認める症候群であり,20~50歳の女性に好発する.一般的に予後良好であるが,脳内出血,くも膜下出血,後部可逆性脳症症候群(posterior reversible encephalopathy syndrome)などを合併することがある.症例は,生来健康な7歳男児と12歳男子である.いずれの症例も雷鳴頭痛で発症し,皮質性くも膜下出血を認めた.その後の頭部CT angiographyや頭部MR angiographyで多発性血管れん縮所見を認め,RCVSの診断に至った.1例にCa拮抗薬の投与を行い,いずれも神経学的な後遺症なく軽快した.小児においても雷鳴頭痛や皮質性くも膜下出血をみた場合,RCVSを鑑別に挙げ,経時的な画像検査を行うことが重要であると考える.

  • 木島 英美, 横山 はるな, 岡田 麻理, 山村 悠, 中谷 久恵, 今井 雅子, 鈴木 奈都子, 金子 修也, 水野 朋子, 清水 正樹, ...
    2024 年 56 巻 1 号 p. 58-62
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

     症例はII度熱傷でICU入院となった8歳ネパール人男児.第1病日から発熱,下痢,眼球結膜充血,全身性紅斑を認め,第3病日に急激に意識障害,けいれん群発,血圧低下,多臓器不全をきたした.人工呼吸器管理および抗菌薬や免疫グロブリン製剤などで救命した.熱傷創部浸出液からTSST-1産生株のMRSAが同定され,毒素性ショック症候群(toxic shock syndrome;TSS)の診断となった.ショック離脱後も意識障害の遷延,失調,動作時振戦,下肢優位の全身性筋力低下を認めた.臨床経過,頭部MRI上の大脳と小脳の軽度萎縮,SPECTでの頭頂葉血流低下,下肢の末梢神経伝導検査異常から急性に脳症症状を呈したTSSおよびICU-acquired weaknessと診断した.退院時点で筋力低下は改善したが,失調や動作時振戦は残存し境界域知能と高次脳機能障害が残存した.近年,TSS患者で急性脳症に類似した病態を呈する症例が散見され,本例からその画像所見や神経予後は多様であることが明らかになった.TSSでは急性脳症様の経過をとりうることを念頭に,急性期の評価や中長期の経過観察を行うべきである.

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