脳と発達
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54 巻, 5 号
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巻頭言
総説
原著論文
  • 村松 みゆき, 下島(山本) 圭子, チョン ピンフィー, 吉良 龍太郎, 岡本 伸彦, 山本 俊至
    2022 年 54 巻 5 号 p. 317-322
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/13
    ジャーナル フリー

     【目的】13q31領域を含む染色体微細欠失の患者で観察された神経発達遅延の原因となる遺伝子は未だに特定されていない.そこで,候補遺伝子を絞り込むことを目的とした.【方法】神経発達遅滞のある患者の診断の一部としてゲノムコピー数解析が行われた.このうち13q31領域の欠失を有する患者6名について,詳細な臨床情報を収集し,遺伝子型-表現型相関分析を行った.【結果】遺伝子型-表現型相関分析により,疾患関連とは考えられない領域を除外し,3名の患者間で重なりあう最小欠失領域(chr13:75691448_83625667)に焦点を当てた.この領域に含まれる遺伝子の中でMYCBP2はpLIスコアが1を示し,ハプロ不全不耐性が示唆されるため,疾患関連の可能性のある候補遺伝子の1つと見なされた.【結論】この領域の染色体微細欠失の情報は少なく,この領域に位置する遺伝子が臨床症状にどのように関わっているかよりよく理解するには,さらに多くの情報を蓄積する必要がある.

  • 下川 尚子, 高守 史子, 吉岡 史隆, 有水 弘太, 田尻 涼, 川口 淳, 石井 一夫, 角間 辰之, 古川 恭治, 阿部 竜也, 森岡 ...
    2022 年 54 巻 5 号 p. 323-329
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/13
    ジャーナル フリー

     【目的】悉皆性の高いレセプト情報・特定健診等情報データベース(以下,NDB)のNDBオープンデータと外来NDBサンプリングデータを用いて小児の鎮静を中心とした本邦のMRI検査に関する実態を検討する.【方法】2014~18年度NDBオープンデータを対象に本邦のMRI検査の実施数,入院外来別,年齢階層別,性別を検討した.加えて2011~15年度の外来NDBサンプリングデータにおけるレセプト情報からMRI検査を抽出し,外来MRI鎮静薬剤使用群と不使用群に分類し両群間を比較した.【結果】NDBオープンデータによると本邦で実施されるMRI検査は年間約1,461万件で,84.3%は外来で実施された.NDBサンプリングデータによると外来MRI鎮静薬剤使用群はMRI検査全体の0.61%であったが,そのほとんどは10歳未満児に対し実施されていた.年齢別のMRI鎮静薬剤使用群の割合は,0歳79.4%,1歳79.5%,2歳70.0%,3歳67.7%,4歳54.8%,5歳48.6%で,6歳14.3%であった.性別でみると1歳成長するごとに男児で0.56倍,女児で0.45倍,鎮静用薬剤が使われにくくなるという減少傾向がみられた.外来で使用される鎮静用薬剤は経口内服薬(65.0%),静脈注射(16.5%),座薬(16.1%),吸入麻酔薬(1.8%)の順で,性別による差はみられなかった.経口内服薬のほとんどは10% triclofos sodium syrupであった.【結論】本邦のMRI検査,特に小児における外来での鎮静の実態を明らかにできた.これらの情報の活用は医療安全のためにも重要である.

  • 野崎 章仁, 大植 啓史, 吉田 真衣, 井上 賢治, 柴田 実
    2022 年 54 巻 5 号 p. 330-334
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/13
    ジャーナル フリー

     【目的】福山型先天性筋ジストロフィー患者の人生の最終段階に対して明確な指針はない.福山型先天性筋ジストロフィー患者に対するアドバンス・ケア・プラニング(advance care planning;ACP)の経験を報告する.【方法】厚生労働省から示されているACPのステップを参考に,本人にとっての最善について家族と医療者で対話を行った.その内容について,多職種で 「臨床倫理の4分割法」 を基に検討した.家族との対話は繰り返し行った.【結果】症例1は18歳女性.気管切開チューブ,人工呼吸器,排痰補助装置,胃瘻および心筋症治療あり.大切なことは,日々の生活を送ることであった.人生の最終段階は,緩和医療を行い,自然に逝くことを家族と医療者で決定した.症例2は10歳男児.排痰補助装置あり.大切なことは,日々の生活を送ることであった.ACPの過程で,生活の質を高めるための方策を考えることができ,胃瘻造設と非侵襲的陽圧換気療法の導入を行った.人生の最終段階は,疾患の軌跡を踏まえながら,家族と医療者で考えていくとなった.【結論】多職種と連携し,ACPを行うことで,福山型先天性筋ジストロフィー患者にとっての最善について家族と医療者の共同意思決定が可能であった.また人生の最終段階についても家族と医療者で意見の共有ができた.

症例報告
  • 石堂 雄毅, 澤 大介, 児嶋 ひとみ
    2022 年 54 巻 5 号 p. 335-337
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/13
    ジャーナル フリー

     今回,群発頭痛様の症状で発症し,群発頭痛に対する治療に効果を認めたものの,その後の経過で帯状疱疹髄膜炎の診断に至った9歳男児例を報告する.群発頭痛は小児での記載は少ないが,その激しい症状から迅速な診断と治療を求められることが多い.現在,水痘・帯状疱疹ウィルス(varicella zoster virus;VZV)抗原キットが市販されており,早期診断が可能である.本症例は,群発頭痛様の症状を有する小児患者の鑑別診断・治療を考える上で,有用と考えられた.我々はここに症例を報告し近年の文献も紹介する.

  • 増田 智幸, 本林 光雄, 田中 章太, 齊藤 真規, 武田 良淳, 小田 新, 山口 智美, 髙野 亨子, 廣間 武彦, 古庄 知己, 稲 ...
    2022 年 54 巻 5 号 p. 338-342
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/13
    ジャーナル フリー

    SCN2Aは電位依存性Naチャネル(NaV1.2)をコードする遺伝子で,良性家族性新生児乳児発作(BFNIS)や発達性てんかん性脳症(DEE)などのてんかん,知的発達症,自閉スペクトラム症などの神経発達症の原因となることが知られている.SCN2Aバリアントを原因とするてんかんや神経発達症では,遺伝型と表現型に相関がみられることが報告されている.今回我々はSCN2Aにおける既知の病的ヘテロ接合性バリアント(NM_021007.3:c.781G>A:p.Val261Met)によるBFNISの母子例を経験した.過去に同バリアントを持つとして報告された4例を含めた全5例の臨床像を比較し,遺伝型と表現型について考察した.3例についてはNaチャネル阻害薬が有効であり,発作消失が確認された.5例中4例がBFNISであったものの,DEEも1例みられ,1例については詳細な臨床的特徴を確認することができなかった.5例の患者でてんかん病型が異なっていたことから,c.781G>A:p.Val261MetのSCN2Aバリアントでは,遺伝型以外にもてんかんの表現型や重症度に影響を及ぼす要因があることが推測された.さらに次世代シークエンサーによる遺伝子検査は,新生児てんかん患者の分子的背景を明らかにしたり,治療方針を決定したりすることに効果的だが,適切な運用には遺伝カウンセリングシステムと家族へのサポートが必須である.

  • 遠藤 愛, 高畑 明日香, 武田 賢大, 橋本 佳帆子, 兼次 洋介, 鈴木 靖人, 仲西 正憲, 中村 明枝, 江川 潔, 白水 洋史
    2022 年 54 巻 5 号 p. 343-347
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/13
    ジャーナル フリー

     視床下部過誤腫は視床下部に発生する非腫瘍性の異所性過形成である.思春期早発症や笑い発作を含むてんかん発作,知的発達障害などの症状を呈する.そのため,患者に応じた治療介入が重要である.我々は臨床症状の異なる視床下部過誤腫症例の3例について,異なる治療介入を選択していずれも良好な経過が得られているので報告する.症例1は笑い発作を主訴とした4歳男児例である.診断後4か月で定位温熱凝固術を施行し,てんかん発作は消失した.知的障害は認めず,術後顕在化した思春期早発症状に対してGnRHアナログ療法を開始した.症例2は思春期早発症を呈してんかん発作を認めない3歳女児である.GnRHアナログ治療により思春期早発症状の進行は抑えられている.症例3は思春期早発症を考慮して行った負荷試験では診断基準を満たさなかった9歳女児である.無治療で経過観察したところ,てんかん発作や知的障害を認めず目標身長に達した.視床下部過誤腫はMRIによる形態学的特徴が臨床経過の推測に有用であり,各症例に適した治療介入の選択が重要である.

  • 市川 和志, 鈴木 純平, 徳弘 悦郎
    2022 年 54 巻 5 号 p. 348-351
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/13
    ジャーナル フリー

     甲状腺クリーゼは甲状腺中毒による多臓器障害を示す状態であり,精神病症状,興奮,混迷,ときにはけいれん発作を合併することがある.急性脳症は小児の甲状腺クリーゼでは稀な合併である.Graves病に急性脳症を合併した小児例を報告する.7歳,女児.起床から倦怠感と頭痛を自覚,右手でスプーンを上手に使えなかった.変動する傾眠傾向,手指失認,左右失認,右手の硬直肢位を認めた.翌日には右不全麻痺,失語,片側けいれんを呈した.脳波は左前頭部に徐波を示した.甲状腺ホルモン値の高値,甲状腺刺激ホルモンの抑制性低下を認めてGraves病に合併する急性脳症と診断した.抗甲状腺抗体価は高値だった.MRIは左半球大脳皮質の血管原性浮腫を認め,左大脳半球の脳表に増強効果を認めた.MRAは左中大脳動脈と後大脳動脈末梢の拡張を認めた.ステロイドパルス療法,thiamazole,ルゴール液により治療することで,意識,運動障害や失語は徐々に回復した.本症例の神経徴候は甲状腺中毒による大脳皮質の血流増多と血管原性浮腫に起因すると推測した.甲状腺中毒でも大脳の局所的障害を起こしうると考えられ,限局性の急性脳症において甲状腺クリーゼも考慮すべきである.

  • 杉原 進, 竹内 千仙, 沼部 博直, 山本 俊至, 今井 祐之
    2022 年 54 巻 5 号 p. 352-355
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/13
    ジャーナル フリー

     骨髄性プロトポルフィリン症は18番染色体長腕の部分欠失で生じうる.我々の知る限り,本症例は欠失部にferrocheletaseFECH)遺伝子(18q21.3)を含むものとして2例目である.我々はここにモザイク型18q21.2-q22.1欠失の15歳男子を報告する.患児は赤血球プロトポルフィリン上昇と光溶血現象陽性により骨髄性プロトポルフィリン症と診断された.アレイCGH解析では,18q21.2-q22.1欠失を認めた.FECH遺伝子(18q21.3)とPitt-Hopkins症候群で欠失が見られるtranscription factor 4(TF4)の遺伝子座が同部位に含まれていた.FECH遺伝子直接シークエンス法による解析で低発現性アレルNM_000140.5(FECH):c.315-48T>C(rs2272783)多型を認め,遺伝学的にも骨髄性プロトポルフィリン症と診断された.本症の光線過敏症の平均発症年齢は4歳である.しかし患児が15歳まで骨髄性プロトポルフィリン症を呈さなかったのは,日光暴露が最小限であったことと,18q21.2-q22.1欠失がモザイク型であったためと考えられた.

短報
  • 井之上 寿美, 河野 芳美, 河野 千佳, 白木 恭子, 塩田 睦記, 雨宮 馨, 中村 由紀子, 杉浦 信子, 小沢 愉理, 北 洋輔, ...
    2022 年 54 巻 5 号 p. 356-358
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/13
    ジャーナル フリー

     神経発達症児の血清亜鉛値について健常児の参照値と比較検討した.血清亜鉛値を測定した学齢期の神経発達症児63名(男児49名,女児14名)を患者群とし,先行研究において年齢分布が一致する380名の健常児のデータを用いて解析を行った.その結果,患者群のうち19名(30%)が亜鉛欠乏症,また39名(62%)が潜在性亜鉛欠乏,亜鉛値正常は5名(8%)であり,血清亜鉛値は健常児の参照値と比較して有意に低値であった(p<0.001).患者群の診断内訳では,ADHD(36名,54%)と自閉スペクトラム症(22名,39%)の2疾患が大部分を占めたものの,血清亜鉛値は疾患間で有意な差はなく(p=0.32),性差も認められなかった(p=0.95).神経発達症児は亜鉛欠乏傾向にあると考えられ,疾患や性別による血清亜鉛値の明らかな違いはなかった.

  • 松村 渉, 久保田 智香, 齋田 泰子
    2022 年 54 巻 5 号 p. 359-361
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/13
    ジャーナル フリー

     ジストロフィノパチーは進行性の筋症状を呈するX連鎖潜性遺伝性疾患で,認知機能障害や神経発達症を合併しやすいが未だ不明な点も多い.我々は登校しぶりを契機に発達性読み書き障害と診断し,学習支援で登校頻度が改善したBecker型筋ジストロフィー(BMD)の児を経験したため報告する.BMD患者において日本語の診断基準で発達性読み書き障害と診断した例は過去になく,教育との連携を検討する上で重要な1例と考えられた.

学会見聞記
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