脳と発達
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55 巻, 5 号
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巻頭言
総説
  • 神山 潤, 小野 真
    2023 年 55 巻 5 号 p. 337-343
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/07
    ジャーナル フリー

     時差ぼけは急激な長距離移動で生じる心身の不調である.時差ぼけ同様の心身の不調が平日と休日の生活時間帯のずれでも生ずる.眠りの中間時刻の平日に対する週末の差(社会的時差)が指標とされ,これがプラス1ないし2時間以上あると問題となる.ドイツでは16~17歳の社会的時差の平均が+3時間以上との報告もあり,思春期の大きな課題と指摘されている.思春期における研究からは,社会的時差の増大が学業成績・認知検査結果の悪化,肥満,スクリーン時間の延長,不安症状の出現,眠気の高まり,イライラ,睡眠の質の低下,運動日数減,朝食欠食,排泄頻度減少と関連していることが報告されている.本総説では社会的時差に関する最近の知見を紹介し,社会的時差が負の場合の課題も紹介した.社会的時差の中長期的な影響についての検討は今後の課題である.

原著論文
  • 永井 康平, 高橋 幸利, 太田 晶子, 山本 吉章, 長尾 雅悦, 遠山 潤, 池田 ちづる, 高橋 純哉, 田中 茂樹, 藤田 浩史, ...
    2023 年 55 巻 5 号 p. 344-349
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/07
    ジャーナル フリー

     【目的】低酸素性脳症後にepileptic spasms(ES)を呈する症例に対するACTH療法の有用性・安全性を検討する.【方法】国立病院機構ネットワーク研究により,ESに対してACTH療法を行った342症例を登録し,その中で病因が低酸素性脳症と診断された症例を対象とした.ACTH療法の発作予後,有害事象について後方視的に検討した.発作予後は,ESが2か月以上抑制された場合を短期抑制効果あり,最終観察時(6か月以上)にESの再発を認めなかった場合を長期抑制効果ありとし,ACTH療法開始後の発作抑制期間も定量的に検討した.【結果】対象は49例で,ES単独例48例,ESに焦点発作が併存する症例が1例あった.ES単独例48例の短期ES抑制効果は71%,長期ES抑制効果は33%で,ES抑制期間(中央値,95%信頼区間)はそれぞれ9.0,20.6~53.1か月であった.ES抑制期間は,てんかん発病年齢,ES発症年齢,ACTH総投与量と正の相関があり,てんかん発病年齢が0~2か月の症例は,3か月以上発病症例と比較し短かった.また,valproateを併用した症例で長かった.有害事象としては,不機嫌(69%),感染症(38%),高血圧(34%)などがみられた.【結論】低酸素性脳症症例のESに対するACTH療法は有効で,発病年齢・総投与量・併用薬の影響を受けること,感染症に注意する.

症例報告
  • 齋藤 佳奈子, 松浦 隆樹, 代田 惇朗, 平田 佑子, 小一原 玲子, 菊池 健二郎, 高橋 利幸, 浜野 晋一郎
    2023 年 55 巻 5 号 p. 350-355
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/07
    ジャーナル フリー

     成人の多発性硬化症(multiple sclerosis;MS)に対して疾患修飾薬の有効性が報告されているが,小児MSでの報告は少ない.症例は生来健康な女子.12歳8か月頃より易転倒性,13歳0か月に右眼の見えづらさ,13歳8か月に右上肢のしびれ,14歳0か月に複視と右上下肢のしびれを認めた.初診時の神経所見では錐体路障害と右上肢の筋力低下を認め,Romberg徴候が陽性であった.頭部単純MRIのT2強調画像では両側半卵円中心深部白質,両側脳室周囲白質,右小脳脚に高信号を認めた.髄液検査ではoligoclonal bandが陽性,ミエリン塩基性蛋白が高値であった.1か月以上の間隔を空けた2つ以上の臨床症状と2個以上の脱髄病変を示す時間的かつ空間的多発性を認めたため,再発寛解型のMSと診断した.intravenous methylprednisolone pulse療法で寛解し,その後はprednisolone(PSL)内服を行ったがPSLの漸減開始後2週目に再発した.間隔の短い再発であったため,14歳6か月よりfingolimod hydrochloride(FTY720)連日内服を開始した.2か月後に寛解したがリンパ球減少を認めたためFTY720を中止し,リンパ球数改善後の14歳9か月よりFTY720の隔日内服を再開した.7か月後にFTY720を隔日内服から週5日内服に増量し,PSLを増量することなく1年以上寛解を維持した.疾患活動性の高い小児MSに対してFTY720は選択肢の一つとして有用と考えられる.

  • 諸岡 輝子, 岡 牧郎, 荻野 竜也, 吉永 治美, 小林 勝弘
    2023 年 55 巻 5 号 p. 356-362
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/07
    ジャーナル フリー

     前頭葉焦点のてんかんの患者では,前頭葉における認知機能の低下がみられることが報告されているが,てんかん発作が抑制された後も長期にわたって認知機能の経過を詳細に追跡した報告は無い.症例は12歳8か月に前頭葉焦点と思われる発作が群発したてんかんを有する男子で,発症から約1年で発作はほぼ抑制され,その1年後に実施した検査では,脳波上のてんかん発射は消失し,全般的な知的能力は上昇していた.一方で,発作群発後の性格・行動変化に伴いRey-Osterrieth複雑図形の評価方法のBoston Qualitative Scoring System(BQSS)は低成績を示し,発症から約4年後の16歳8か月時に性格・行動が良くなるとともにBQSSは年齢相応の評価となった.BQSSは,視覚構成力および視覚性記憶力に加えて,課題に対する方略から前頭葉機能の特にプランニングを評価できる.前頭葉機能障害の患者はRey複雑図形の描写において方略が十分でないことが報告されている.本症例においてみられたBQSSにより評価される図形の描画方略の乏しさは,発作群発後の性格・行動変化で表された,プランニングなど前頭葉機能障害と関連がある可能性が示唆された.

  • 田山 貴広, 竹内 竣亮, 武井 美貴子, 藤岡 啓介, 小野 朱美, 庄野 実希, 七條 光市, 近藤 秀治, 福良 翔子, 郷司 彩, ...
    2023 年 55 巻 5 号 p. 363-367
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/07
    ジャーナル フリー

     Myelin oligodendrocyte glycoprotein(MOG)抗体関連疾患では髄膜炎が先行した報告が散見されるが,脳MRIのT2強調画像およびFLAIRで異常所見を認めた報告が多く,脳MRIが正常所見であった報告は少ない.今回,無菌性髄膜炎が先行し発症したMOG抗体関連疾患の1例を報告する.症例は4歳女児.遷延する発熱,頭痛,嘔吐のため入院した.髄液検査で細胞数上昇を認め,脳MRIで異常所見は認めず,亜急性髄膜炎と診断し抗菌薬,抗ヘルペス薬による治療を開始したが改善しなかった.発症から3週後に幻覚が出現し,覚醒時脳波検査で広汎性徐波を認めた.再検した脳MRIで異常所見は認められなかった.遅れて脊髄症状を呈し,脊髄MRIで胸髄にT2高信号病変を認めたため,脳脊髄炎と診断しintravenous methylprednisolone pulse therapy(IVMP)を施行した.MOG抗体が陽性であったため,最終的にMOG抗体関連疾患と診断した.IVMP,免疫グロブリン大量静注療法を施行したが,反応不良のため血漿交換療法を追加し,臨床症状は改善した.小児のMOG抗体関連疾患では急性散在性脳脊髄炎が先行する場合が多いが,本症例のように脳MRI異常を伴わない無菌性髄膜炎で発症し症状が遷延する場合に,MOG抗体関連疾患を鑑別に挙げる必要がある.

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